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後編

私には、兄がいる。

半分しか血のつながっていない、腹違いの兄だ。


私の両親はよくある政略結婚だった。

それだけに家庭は、冷めきったものだったように思う。

特に私の容姿が年をとるごとに美しくなる度に、母は苛立ちを隠さなくなった。

彼女は自分の美しさを大層誇りに思っていたので、自分よりきれいな女は

実の娘でも許すことができなかったのだろう。

父は当主として忙しく、私たちに興味はなかったように思う。


それでも彼らは、私の父であり、母だった。

彼らの関心を引きたくて、精一杯私は愛想を振りまいた。

疑うことを知らない天真爛漫な子ども。

可愛らしく誰からも愛される子供。

そんないるはずもない存在を私は必死になって演じた。


そんなある日、父は一人の少年を連れてきた。

それは、私の腹違いの兄だった。

彼に優しくしたのは、周囲の取り澄ました男の子達とあまりに違う彼への好奇心だった。

けれど、そんな心境は段々と変化していったのだ。


兄は、彼に当たり散らす義理の母親、

殆ど会話もせず、しかし教養を身につけることだけを求める父、

気品がない主人に仕えたくないなどと言った無礼な使用人たち、

そんな周囲の人たちに決して、めげることなく黙々と努力を続けていった。


いつも毅然として前を向くその姿は美しいとさえ言え、こんな風になりたいと強く思ったのだ。

そう、私はこの腹違いの兄を異性として慕っていた。

それがいけないことだと分かっていたが、止められなかったのだ。


私が嫁ぐことに決まったのは、それからすぐのことだった。

生まれついての貴族の娘として、私はそれを義務だと理解していた。


嫁いだ男は、それは酷い男だった。

私を縛り付けたがり、何かにつけて浮気を疑い辛く当たった。

手を挙げられたことも一度や二度ではなかった。

実家に帰りたいと、思ったのも一度や二度じゃない。

けれど、妾の子として今も苦労している兄を想うとこんなことで逃げ出す気にはなれなかった。


私は必死になって外見の美しさと教養を磨いた。

段々と、貫禄が付いてきた私に夫は弱腰になって来た。

彼も老いて、気が弱くなって来たのだ。

やがて家の実権は私が握り、結果を出していった。

そうして、夫は私のすることに一切口をはさまなくなった。

その時、私は一種の達成感に酔いしれたのだった。


けれども、それはほんのひと時のことだった。


暫くすると、私は酷く虚しくなったのだ。


軽薄な男性が寄ってくるこの美貌も、

人より上だということを示す為の教養も、

全て意味のないようなものに見えた。


その大きな穴は、どのように振る舞っても埋まることがなかった。


段々と自棄になり、自暴自棄な行動が増えてきた頃だった。


兄と私は再会した。


人によりよく思われようと、尊大にふるまっている私と兄の目線があった。


私は、お茶会の最中にあるまじきことに無表情になった。


兄は昔とは変わらず、凛とした雰囲気を漂わせていた。

そのまっすぐな目は私の張りぼての虚勢と空っぽの中身を射抜いたようだった。

華やかさはなくても、名工によって鍛えられた刃物のような兄と私は

別の世界の人間になってしまっていることを悟った。


私は最低限の礼儀として、気品ある貴族のほほ笑みを彼に贈った。












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