序章
こんにちはナツノツボミです。
赤い月夜にわらう蜘蛛シリーズでお世話になっております。
今回、新シリーズをかきはじめました。
今シリーズも蜘蛛シリーズ共々よろしくお願いいたします
『拝啓、不器用で意地っ張りだけど本当は優しい俺の親友、
気が強いけど涙もろくて乙女な俺の大好きな幼馴染みへ
きっとお前らがこれを読むとき、俺はもう…なんて、ありきたりに始まるとでも思ったか?』
最初の一文はすごくふざけていた。
いつもおどけていた彼の明るい笑顔が蘇るようだ。
隣で一緒に読んでいた彼も
「…ふはっバカだろ、あいつ。ほんと…たまには真面目にやれよ」
なんて小さく笑みをこぼしている。
『これを読んでるっつーことはあれ、全部解けたってこと?
それとも根負けした母さんが教えちゃったか?』
あれ、というのは彼が死の直前に残したなぞなぞ。
ちょっとしたイタズラのようなもの。
_____この手紙にたどり着くための暗号。
そう、この手紙を書いた、私の幼馴染みはもう、
この世には、居ないのだ
ふと、さっき落ち着いたばかりの涙腺が、また緩みそうになる。
そっと、隣をうかがい見る。
隣の彼は死んだ彼と距離がとても近かった。
だと言うのに、いまだ一粒の涙すら落としていなかった。
ただ、ただ感情が抜け落ちてしまったかのような
硝子玉のような目をして曖昧に微笑むだけ。
いつもの愛想のなさからは考えられないほどに明るかった。
そしてそれが、ことさら痛々しかった。
もう、やめてくれと叫びたかった。
そんなに、自分を押し込めないでくれと。
でも。
出来なかった。彼の気持ちがわかってしまうから。
いや、きっと10分の1すらも理解などしていないのだろう。
それでも。
おもいっきり泣くことのできた自分でもこんなに苦しいのだ。
まだ泣くことすらできない彼はずっとずっと苦しいはずだった。
そんな彼に希望を与えたなぞなぞ。
彼が死んだあと、病室の引き出しに入っていた、
私と彼宛の封筒。
なかに入っていたのは
ひとつの鍵。
こうして、私と彼の謎解きが始まったのだ。
ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございました