雪が浜文化祭
藤堂との出会いは最悪だった。
4月ー入学式。
母親の寝坊のせいでしょっぱなから大遅刻をしそうになった有麻音はいそいで駅まで走り込み、
ぎりぎりの電車に滑り込んだ。
ま、間に合ったあ−・・。
ほっと安堵の息をもらしたのもつかの間、有麻音は自分が身動きが取れない事を知る。
あ、あれ?なんで私動けないんだろう、
と、その時有麻音は自分の制服のスカートの裾が電車のドアに挟まっている事を知った。
う、嘘!最悪、どうしよう。よりによって今日という日に。もうここは力ずくでいくしかなさそっ、うわっ!!
スカートは彼女が思うより、あまりにも強い力で挟まれていた。どんなに力ずくで引っ張ってもびくともしない。
まわりの乗客からはクスクスと笑う声さえ聞こえてくる。
恥ずかしさがこみ上げてきて有麻音は顔を真っ赤にした。
しばらくはこの電車、止まらないのよね・・。どうして入学式の日にこんな目に遭わなきゃならないのよ!
ふっと前を見た瞬間、彼女はある男子生徒と目が合った。み、みられてた・・。
彼女はまた恥ずかしくなっていそいで顔を真下に向ける。友達と一緒ならいいものの、一人だと冗談にもならない。
__その時
目の前に人影ができた。
だれ・・?
顔を上げると先ほど目が合った男子生徒だった。ものすごい剣幕をして有麻音を見下ろしている。
「お前さ。雪が浜高校のやつ?」
「そ、そうですが、何か・・?」
じっと見られておもわず目をそらす。
「ふぅん。奇遇だな。俺も今日から雪が浜の1年なんだ」
いっ1年!?こんなに背が高いのに!?大人っぽい雰囲気とは裏腹に子供のような話し方をする人だな、とは思っていたけど・・
「・・ぶっ ダッセぇな、マジ。ドジかっての。何、制服のスカート挟まってんだよ!」
な、何こいつ!いきなり初対面の人に向かって!!
「うるさいわね!!変態!なんで話しかけてくるのよ!!』
「はあ?変態じゃねーし」
「うるさいうるさい!電車内で大きな声出さないでくれる」
「それはお前もだろ!?」
「有麻音、有麻音」
美央子…?・・え、あ・・れ?ここは・・
「やあっと起きた!有麻音ったら途中で倒れるから何事かと思ったら寝てるんだもの!」
彼女は自分がどこにいるのかをようやく思い出した。ここは教室で文化祭へ向けてクラスの皆と準備の最中。
「もう、いつもまじめな有麻音が急に寝はじめたのよ!?皆爆笑だったんだから」
夢だったのか・・最近よくみる夢。あいつが出てくる夢だ。
「とうど・・」
口に出した瞬間ハッとする。どうしてあいつの名前なんか・・
「藤堂?藤堂なら今週はインフルで休みでしょ?惜しいわよねー。初めての文化祭なのに」
楽天な美央子に若干の苛立を覚えつつ、有麻音はギュッと口を結ぶ。初めての印象は最悪。だけど、憎めないやつ。
有麻音のなかの藤堂あずまという人物はそんなものになっていた。
喧嘩してばっかりだけど・・根はいいやつなんだよね。優しいし、なんだかんだ言って雰囲気クールだし、髪きれいだし目はドングリみたいに大きくて・・
で、でも、むかつくやつ!いちいち嫌み激しいし、あたしにだけ態度悪いしスカートの事だってみんなにベラベラ話しちゃうし!!
なのに、どうしてなの、この胸の中に鉛がたまっていくような感覚。おかしいよ、最近私おかしいよ
藤堂に好きなやつができた
ってきいてから。
なにかおかしいんだ。