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恋する俺というバカ

入間いるま 光一郎こういちろう54歳 壮一郎の父。

居酒屋経営店主 能力者


入間いるま かえで 45歳 光一郎の妻。

壮一郎の母。 明治生まれ。女学校卒。



それから村の皆に祝福され、俺と彩は一応夫婦ということになった。

既に、あの時2人だけでいた家の扉を村の誰かに開けられ見られているから、

2人が親密な事をしたのはバレバレなのだった。

壁は木の板で薄いし、外で聞かれてもおかしくない。


扉を開けたら、その周囲に人だかりがいたら、いたたまれない。

この世界にはプライベートな事を要求するのは無理なのはわかっているが、純情な青年には

恥ずかしいことこの上ない。


戦国時代の村の祝言しゅうげん=結婚する儀式)というのは、夫側の家で嫁を迎え、祝いを関係者で行い、

そのまま妻は夫の家に住むという

のが通常らしい。らしいというのは、それぞれ風習が違うので、地域でプラス行事があったり

なかったりするからだ。


現代人出身でよく知らない俺は、村のやり方でとお願いすると、彩の両親が快く引き受けてくれた。

村のやり方は、神事の心得とか祝言に詳しい者の祝詞のりと=神の前で祝いの言葉を述べる

が終わると、宴会になる。

今は、隠れ里にいる為、祝言で振る舞う食べ物がないということで、皆が総出で探しに行くことになった。

先日の酒は、隠し里に隠していたものらしい。

もうないとのことで、俺は2日村から離れて、こちらはこちらで用意してくると告げて

村を出た。

その時、彩の両親や村の者達は、何も言わなかったが、彩は不安そうに俺を見ていた。

隠れ里の出入り口まで、何故か村の者が総出で見送ってくれて、いつもと違う雰囲気だった。

後から考えると、祝言前に理由をつけて逃げ出した新郎にも見えただろう。

俺は、言葉が少ないことで、相手に伝わっていない自分の気持ちとかを反省することになった。

一夜を共にし、皆に認められたことで、既に夫婦。

現代の言うところのお披露目が今の現状では、出来ないというだけのことだったのに。




現代に戻ると、早速両親に結婚の話を報告した。彼女の年齢が15ということで、とくに

父は、驚いていたが、母はそれほど驚かなかった。明治時代では、それほど驚くような歳の差でないそうだ。

「なんとなく、過去の世界で見つけてくるような気がしてた」

と、あっさり。

父は、自分と同じ事になるなら、親族でまた打ち合わせがいるなと考えているようだ。

「村で祝言を挙げるけど、こっちの世界でも披露宴パーティーをしたい。

親族にも会わせたいし、和磨夫妻にも。どうだろう」


「ええ、いいわよ。彼女を現代に連れてくるの?」

「1度、連れてくる。たぶん、彼女はこちらの時代には住んではくれない。

彼女はあの村の為に、俺との子を欲しがっていた。

だから・・、村で俺を待つという選択をする」


俺が何気なく言ったことで、母は心配そうに顔を曇らせた。


「ねえ、その彼女は村の為に貴方と結婚するの?貴方の事は・・?」

「ああ、ちゃんと好きだよ。ただ、母さんも昔の人だから分かるだろ?戦国時代は、家が中心なんだ。

現代の15歳という年齢の性格の人じゃない。15歳で、もう大人な考え方を持ってる。

彼女は俺の事が好きだけど、村を優先させる人だ」

彼女を理解しないと、きっと俺はいなくてもいい存在になるだろうと思っている。

彼女が一番欲しいのは、子供だからな。

「壮一郎。結婚は、おままごとじゃないのよ。同情でするものじゃ」

「違う。同情じゃない。」


彼女は、一目惚れだと言っているし、自暴自棄だとか演技だとか騙されているとは

思えなかった。

俺もきっと恋していると思う。恋していて俺の目が真実が見えてないってことがあったなら

俺は女性不信になるぞ。


「壮一郎。父親になるってことは、一人好き勝手出来ない。きちんと妻子を守ることだ。

月に1回ではなく、週末は行ってあげた方がいい」

父が真面目な顔で、俺に夫婦たるものを語る。いつも面白い事を言うばかりの父が、

注意するにしてもいつもと違う。

俺は、自分のしていたことは間違っていたのか悩むことになる。


祝言は、過去の世界でするということで、一応両親も参加してくれることになった。

どちらかといえば、相手やその村の様子を見たいのじゃないかと思う。

彩や彩の両親を紹介することも必要なので、俺は承諾した。

「紹介の時、俺の家族は旅の商人ということにしている」

「それでいい」

両親は、両親で物を揃えると早速動きだし、俺は俺で食べ物を買いに走った。



俺が異空間を切り、両親を連れて村へ2日振りに戻ると、祝言の準備がされている最中だった。

着物を着せてやりたいところだが、本来の村は落ち武者達に占拠されて出来ないので

いつも着ている着物姿で両親と出迎えてくれた。

「ようこそ。貴方様方がイルマ殿の親御様ですか?」

「そうです。初めまして。私は、入間いるま 光一郎こういちろう。こちらは、妻のかえで

「楓です。この度は、愚息の嫁になって頂き、有難うございます。末永くよろしくお願いします」

紹介込の挨拶を交わす。この時ばかりは、自分はまだこの両親の息子で子供なんだなと恥ずかしくなった。


横に立っていた母は、突然俺の足を踏みつけ、一歩前に進むと、彩と彩の母親へ風呂敷包みを持たせた。

「これは?」

「私が用意した花嫁衣裳です。お祝いということで用意しました。お使いください」

彩の家へ上がり、彩は皆の前で風呂敷包みを開いた。

それは鶴やら亀、大輪の花の刺繍がされた白無垢の花嫁衣裳の打掛だ。

もう1枚は花々の鮮やかな刺繍が施された赤い着物。金の生地に白い糸の刺繍が入った帯。

白い長襦袢に、いくつかの紐に金色の帯紐。

どこで手に入れていたのか、貝がら型の口紅の紅が入っているものが入っていた。

それを見た途端、彩と彩の母親が大泣きをして、その様子を家の周囲や窓、

縁側で見ていた村人達ももらい泣き。


この時代、花嫁衣裳や化粧は貴重なものなんだ。

女性を着飾れる夫は、甲斐性があるということ。

俺は、彩が嬉しそうで、笑顔が可愛くて、母がしてくれたことに感謝した。


「壮一郎。女性に花嫁衣裳を用意させないのは、可哀想よ。この村の事情分かっていたでしょ」

「え・・というか。俺、そこまで考えてなかった。しかも、衣裳のことは知らなかったよ」

「母に聞きなさい。そうだろうと、用意しておいてよかったわ」

明治の時代の家督とか婚姻も、この戦国時代に近いものがあったので、

母は女性の気持ちがよく分かるのだそうだ。

「あの着物は、どういう・・」

「ふふ。いつか貴方の妻になってくれる女性が現れたらいいなと思って、買っておいたものよ」


「しかも、お前は医師になるのだと思っていたから、大学卒業してしばらく研修医として大学に残っていた

時期に、就職を決めたらすぐに彼女でも作ると思って、3年も前にだ」

父はひそひそと、母の言葉に付け足す。

「そ、そうなんだ。有難う」

「いえいえ。」

親子3人、こそこそと話をしていたら、顔を上げた彩と目が合った。



「そう・・い・ちろう  さん?」

「はい」


俺と母親のやりとりを聞いていた彩や両親、村の者達の視線が俺に向けられた。

「イルマさんの名前、壮一郎さんなんですか?」

「はい、入間いるま 壮一郎そういちろうです」

「私、初めてイルマさんの名前聞きました。壮一郎さんなんですね」


「え?初めて?」

光一郎と楓は、自分の息子を睨んだ。

「あ、いや。その、イルマと名乗っていたから」

「言ってないって?我が家の嫁になる女性に、何も話してないの?」

「おいおい、壮一郎。大丈夫か?」

周囲の目に、俺は項垂れた。

「すみません」


「壮一郎さん」

彩が何度も覚えるように繰り返し、それを横で見ていた父親の長は

「そうか。家名を持っていたのか。イルマというのが名だとばかり。変わった名前だとは

思っていたが、そうか、苗字なのか。これからは、壮一郎殿だな」

そう納得すると、彼の妻も村の者達も納得した様子だ。


「すみません。改めて名乗ります。旅の商人が仕事です。入間 壮一郎です。

よろしくお願いします」


座り直し、頭を下げると、長も「こちらこそ」と頭を下げてくれた。



夜には祝言をしようという話にまとまり、俺は台所場へ行き、祝言用の肉や魚、貝を取り出す。

最期に米袋を取り出すと、ワッと手伝いに来ていた女性達が大騒ぎ。

「凄い、米なんて久しぶり」

「これ、海の物ですよね。私達、これはどう料理するのか分かりません」

「そうか。ここは中間地域だものね」

俺も料理の仕方を教えたいが、後ろで新郎の服装に着替えろとか、皆にあいさつしろとか母が突いてくる。

「母さん、どうする?」

「そうね。ここは、料理好きの光一郎さんにお願いしましょう」

「り、料理好きね。父さんが作ると、酒のつまみになるような気がするけど」


居酒屋経営の腕を見せてやると、父が母に呼ばれて来ると、持参したエプロンで

村の女性達に指示を始める。

「まあ、父上殿は何でも出来る方ですね」

父が呼ばれたので、一緒に様子を見に来た長も驚いていた。

「沢野殿、今後は男も料理の心得がないと、いざという時大変ですぞ」

父は、笑いながらどんどん魚を裁く。

「元武士ですし、落ち武者になってあちこち彷徨った実体験がありますので、分かります。

女性がいない場合は、自分で食べる物を用意し作らねばならないと」

「気が合いますな」

「ははは」

父親同士笑いあうと、花嫁の父と花婿の父は、調理場で魚や野菜を切っていくので

女性達も負けじと張り切りだした。



そうこうしているうちに、夕刻。

松明に火が灯され、白無垢の花嫁が登場。ワッと場が華やいだ。俺が紋付袴で登場すると

これまたいろいろ男性陣から茶化した声がかかる。

一番年老いた男性が、祝詞を始め、そのうち宴会へと移っていく。

食事は、両家の父親達も作った料理が振る舞われ、現代の酒も出て盛り上がった。


俺は、すっかり恋に夢中で、バカになっていた。

隣りに座る白無垢の花嫁さんがあまりに綺麗で、俺はこの目の前の女性を妻にするんだということに

実感が沸かないくらいのバカだった。

「俺は、君に相応しいのだろうか?」

「壮一郎さん?」

じっと俺だけを見つめる瞳に、もう既に完敗だ。もうこの先俺の前には現れてくれないだろう少女だ。

俺を選んでくれた君に、俺も素直に応えよう。

こんな葛藤していたことがバレたら、どこの乙女かよと呆れるだろうな。

でも、誰にも渡したくない想いが溢れてきて、俺は君の手を取る。


「今改めて思った。俺は、君が好きなんだよ」





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