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現地妻という存在

俺は、1度現代へ戻ることにした。

今いる場所には、怪我人が多く、医師の俺からすると少しでもなんとかしたい。

だが、異空間には医師の道具は1つもなく、手当が出来ない。


彩とその両親には、自分の荷物を森に隠してきたので、それを持ち込みたいという話にして

1度体制立て直しの為、現代へ戻ろうと考えた。

「来た道は分かりますか?一緒に行きましょうか?」

彩が俺を心配してくれたが、彩自身は襲われかけて足をくじいているだろうし

またここまで1人で返すのも心配で

遠慮した。他の村の者にも迷惑を掛けたくないし、その旨を話すと頷いてくれた。

俺は、自分のここまでの経緯をこちらの不利にならないように彩の父親に話をすると

彩の父親も村の状況を話してくれて、何人怪我人がいるかが分かった。



「彩、お前もしかして」

彩の様子を見ていた母親は、彩と俺を見比べて何やら考えていた。

「母様」

その弱弱しい声に、母親は頷いていた。母子ふたりで何か思うところがあり、

目で話し合えたという感じだ。

その2人は、壮一郎へ視線を向けた。

「イクマ様。もう1度ここへおいでください」


「はい、そのつもりですが・・」

俺は母親の言い方が気になり首を傾げる。

「私の娘は、どうやら貴方様を気に入っている様子。イクマ様には

お国に家族がいるかと存じますが

この地の嫁として貰ってやってくれませんか?」

「え?」


どういう意味だ?俺は返事が出来ないまま、その場を後にした。



現代へ戻り、風呂へ入って汗を流した。

風呂上りに、冷たいお茶を一杯のみ、リビングのソファーへ持たれ、

医師の道具が何が必要かをノートに書きだした。

「あら?もう戻ってきたの?いつもより早いわね。まだ夕食の時間でもないし。

2,3日泊まってくるんじゃなかったの?」

母親が買い物袋を手に、俺の前を通り過ぎた。


「なあ、母さん。あちこち旅をしている商人に向かって、この地の嫁として貰えということは

どういう意味があると思う?」

俺は何気なく聞いたつもりだったが、母親は俺の近くまで慌ただしくやってきた。

「あんたまさか、現地人と関わったの?」

「え・・。あ・・思い切っり関わったかも。戦の中、村を襲った武士から女性を助けたんだ」


「それで?」

母親からの返される言葉がきつくなる。

「ちゃんと、旅の商人だと言った」

言い訳がましいが、自分がどういう行動をとっているかは知ってほしくて

訴えるように返す。

「どこまで関わったの?」

「人助けまで。それ以上は・・」


ノートを引っ手繰られ、今書いていた文字を読まれる。俺は焦ったが、

母親からは直ぐに睨まれた。

「お父さんやお爺さんから言われたはずよ。深く関わってはダメと」

「あ、うん」


はあ、とため息を吐かれた。

「人間だもの。関わらないということは出来ないかもね。壮一郎。現地妻って聞いたことあるかしら?」


「何、急に」

俺は、知らないので首を左右に振ると、母親はとあるレーサーの話を例えとして話し出した。

「レーサーは知っているわね」

「ああ」

「彼らは、世界の各地でのグランプリに参加しているから。

その国に1人づつ女性と関係を持ったの。いつも国を渡り歩いている状態だから、

その地へ行くとその地の女性がいることで、現地妻って呼ばれているわ」

「え・・てことは。あちこちの国に妻がいるの?」

「子供もよ。A国に行けば、A国での妻と子供。B国に行けばそのB国での妻と子供」

「何人いるんだよ」

「さあ」

母は、お手上げサインを両手を挙げてみせる。


「ちょっと待て。あの時、あの彩の母親が彼女を現地妻にして欲しいと言っているのか?」

「そういうこと」

信じられないよ。親が言ってくるわけ?

「俺、いなくてもいいわけ?」

「昔の人って、子供が欲しいからね」

「子供?」

「働き手になる。戦で若い者は連れられて行ってしまうから。男が不足している時代。

女性も少ないから、中々結婚もままならないわけよ。だから、再婚、再々婚も多いわ。

子供は何人も欲しい。子供を欲しい家に売ることも出来るわ」

「う、なんて恐ろしい時代なんだ」

「昭和の時代でもあったことよ。昔のTVドラマにもあったのを見たことない?

よく再放送されているけど」

「そんな暇はないよ。ただ、表沙汰にはならないみたいだが、実際にはあったことだとは知ってる」

現代では、ないと信じたい。




「俺は、歴史が変わるようなことはしたくないんだがな。」

ソファーで自分の体を沈み込ませると、母はその場からいなくなり

しばらくしてからアルバムを1冊手にして戻ってきた。

「ね。私達の一族の歴史見てみない?」

「え?」

俺は、手渡されたアルバムを開けて、写真のいくつかに目を落とした。

「今までの話と共通点でもあるのか?」

不思議そうな俺の問いに、母は面白そうに1枚の写真を指差す。

過去の世界のどこかを匂わせるもので、その写真の中には女の子と大人の女性と・・。


「この写真はどう思う?」

「どうって?昭和時代のかな・・どこかな。女の子は、母さんじゃないのか?隣は婆さん?」

「確かにこの女の子は、母さんだけど。この時代は、昭和に見えるの?」

「この女の子が母さんなら、昭和の後半でないと計算が合わないけど?」

母はニマっと笑みを深くした。

どういうことなんだろうか?母がもっと年齢が上だというのだろうか?

実は凄い若作りをしているとか。


「何か変な方向に考えがいってない?」

「たぶん」

俺の返事に、母は睨む。

「説明するとね。私は、明治生まれなの」

「はあ?今平成だぜ。年齢合わないだろ?」

明治?今何歳って、100歳超えていることにならないか?


「ふふ。分からない?」

「分からない」

「本当は、もっと後に話をしようかなと思っていたんだけど。もう28歳で、

いい大人な息子だから、話をしておくね。お母さんは、過去から未来へお嫁に来たのよ」

「はあ?」


「前に、親族からいろいろ言われたこと覚えてる?過去や未来を行き来した者がいて、

親族が存在しなくなる危機があったという話」

「ああ、確かに。だから過去の現地人とは深く関わるなとか、絶対に未来へ行ってはいけないとか」

「あれは、貴方のお父さんのお父さんのお爺さんが原因」

「は?」


爺さんの父親が原因?

「そう。高祖父こうそふが、過去の人間を好きになって過去に住むとか言い出して。

高祖父が現代に戻って、現代の女性と結婚しないと、義父(壮一郎の父方の父で祖父)さんも

その兄弟姉妹、その子供に、

お父さんも貴方も生まれなくなる。だから、過去も未来も

飛べる親族が未来へ来て、親族総出で1度現代に戻したの」

その時、現地妻を皆が許可したのよと、母は普通に雑談のように説明してくれた。

「現地妻。そうか、爺さんの爺さんは、現代にも妻がいて、過去にも妻を持ったわけだ」

「そうよ。義父さんの兄弟姉妹は、現代には5人だけど、過去には室町時代の妻と子供3人

幕末の頃の妻と子供2人だったわ。どちらの女性もどうしても未来の世界には来たくないと言って、

その時代の中での生活を選ばれたの」


高祖父の一夫多妻には、驚かされる。どんなけ妻子持つ気なんだ。

「で、今はどうなってるの?時代的には、もう亡くなっているだろ?」

「ええ、亡くなった時に、その方々に遺産と養育費の取り分を持って行っているけど、

その後は聞いてないわ」


「で、母さんは?」

「私?お父さん(壮一郎の母の夫の呼び方)は、1人でいいって。明治時代で両親を亡くして

いろいろ不自由しているところをカフェで出会ってね。お付き合いをして、

未来から来たけど、着いてきてくれるか?って、聞かれて、頷いてね」

急に乙女のように、当時の事を嬉しそうに話し出す母を止められる者は

この家にはいなかった。


俺には衝撃だった。明治時代のハイカラさんと呼ばれるような女子生徒に

バイト先のカフェで父は口説いて、未来に連れて来た女性が母。

完全に歴史変えてないか?

「でも、私には親戚も両親もその時の自然災害でいなくて、私1人なら

歴史が変わるほどでもなかったと思ってるけど」

いやいや、明治の女性がまだ40代後半姿で生きている事が、驚きですよ。

「戸籍はどうしたの?」

「ん?確か。市役所と家庭裁判所、医者に記憶喪失の女性ということで届けて

戸籍を作ってもらってね」

「・・・・、当時の親族が皆協力したわけだ。信じられないけど。」

「そういうことなの」


凄い話だ。そんなこと本当に可能なのか?いや、出来たんだってことか。


「それで、貴方が現地妻を作ることは本当はあまり良くは思わないけど。

高祖父みたいに、最期までその母子の面倒をみるとか

現代では現代の妻が正妻できちんとすることが出来るのなら、いいかなとは考える。

でも、余程理解ある女性でないと、難しい話だから、勧めたくないな」

「俺、今は話についていくだけで、精一杯。

俺は、そんなに何人も好きな人が出来るとは考えられない」

「それは、現代では一般的な考えよ。昔は、現代のような法律もないし、女性にも人権が

ないから、道具扱いだもの。現代は、明治の女性の私から思えば、女性に優しくなったと思うわ」

「そうかもしれないね。俺は男だから実感が沸かないけど。母さんがそう思うなら」


俺は、高祖父の妻子達に会って聞いてみたくなった。たまにしか会いに来ない夫、父親を

どう考えていたのか。本当は嫌だったと思うのは、俺が一夫多妻を嫌っているからだと思う。

そういうことが許されるというのも、複雑だ。

だけど、一族の存亡がかかっているのなら、望んでいなくてもそうするしかなかったのかな。

父が母を連れてくるという事例もあることなので、連れてくるということもありなのか。

どこまでが許されるのやら。


とりあえず、俺についての妻の話は後回しで。


医師の道具や包帯を異空間へ放り込み、俺は再度戦国時代へ飛んだ。





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