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真相

「私に、娘を自分の息子の嫁に欲しいと弟から言われたのは、壮一郎殿が現れる数刻前でした。

私の考えでは、もし甥の嫁になれば、濃い血縁関係になり、子供に何か影響が出るかもしれない

恐れを抱いていた。だから、弟にははっきりと答えを出せぬ前に、貴方に託すことを決めた。

弟を説得し、彩は貴方に。

ただ、村の考えでは旅人である壮一郎殿が予定した日より1年戻らなければ、

甥は外し、他の者のところへ嫁がせることも考えています」


壮一郎は、自分が考えていた最悪な答えでないことに安堵し、厳しい顔つきを柔和させた。

村の長である目の前の人物が望んでしたことだったら、

自分は彼を殴っていただろう。

だが、それは間違いで、彼の弟の息子が勝手に起こした行動だっただけのこと。

彼に否はない。


「今回、貴方が予定した日から数日戻らなかったことで、そこの甥が勝手に動いたようです」

ジロッと、長が甥に目をやると、話を聞いていた甥は、視線が合うとすぐさま反らせる。

「どう言い訳をするつもりか、聞きたいところだ」

声を荒げると、甥は肩を震わせ「申し訳・・あり・・ません」と、項垂れる。

それでも、歯を食いしばりながら。

「俺は、昔から彩の事が好きだった。隣りの村の奴にもらわれると聞いて、諦めていた。

だけど、それが出来なくなったから機会を狙っていた。父にもお願いした。

それなのに、どこの奴とも分からない旅の商人と婚姻させて・・俺は悔しかった」

ポロポロ涙を零すので、壮一郎も一応ライバルだった男に同情する気持ちが芽生えてしまった。


(そうだよな。本来、俺が現れなければ、もしかしたら昔から好きだった幼馴染で

従妹の彩と夫婦になれたはず。長は血縁関係を考えているから、そもそも無理な話だろうが。

俺は、ポッと出の略奪者になるのか?)


困惑気味になる壮一郎に、父は肩を叩いた。

「同情するな。こいつは自分勝手な行動をしたんだよ。

彩さんは、望んでない。それよりも彩さんを家に入れてやりなさい」

長も頷いたことで、壮一郎も腕の中で震えている妻を抱えつつ、自分達の部屋へ向かった。


2人の部屋に入ると、その場に座り込んだ。

「大丈夫か?」

「はい」


(この時代は、女性はいつも弱者だ。拒んでも追い詰められる。俺も現代の間隔過ぎて

迂闊だった。)


「俺が予定した日に戻らなかったばかりに。怖い思いをさせた。済まない」

勝手に村の為にと思って先走り過ぎた。

どういう予定なのか、前もって告げておけば不安にさせなかった。

俺は、夫として情けない。

そんな落ち込んでいる俺に、彩は袖を強く引っ張る。

「いいえ。私は常に気を付けていました。今夜は、壮一郎様の名で呼び出しを受け

騙されるなど不甲斐ないです。妻として、迂闊でした」

自分が悪いのだと、彩は涙を零しながら謝罪してくれる。

壮一郎はすっかり毒気を抜かれた。

「彩が悪いわけではない。俺も村のことしか考えていなかったことが敗因だ。

彩を守れるようにする。そうでないと、俺が彩を失って後悔することになると

今、思い知ったよ」


「壮一郎様」

「俺は、必ず戻るから。待っていて欲しい」

「はい」


その夜は、抱き合うように眠りについた。



ふたりが話し合いをしている頃、壮一郎の父光一郎、叔父、従弟とは、長に促され

別室へ通された。甥は、長が弟の部屋前まで担いで渡していた。

「壮一郎殿ことだ。近隣を見回っていたのでしょうか?」

長が別室へ戻り、話を振ると、光一郎は頷く。

「そうでしたか」

「収穫というほどのものではないが、今の状況は村の隣りの領地は家督争いで戦が起きている。

もちろん、村の領地主も同じ。まだ、終わっていない」

今まで見てきた様子を詳しく説明すると、長は頷きながらも、難しい顔つきに変わってくる。

「・・・。村は・・」

「今は次男とその次男を支えている家臣達がいる」

「村に戻れば・・」

「配下に組み込まれ、下僕扱いになるのがオチだ」

結末が分かるので、光一郎も顔を横に振る。

「家督が誰になるか落ち着かないと、村には戻れない」


情勢を静観しつつ、対策を練らねばならない。


「長としては、どのような形が希望なんだ?」

光一郎は、この時代の長の意見が重要だと考えている。

(俺達はしょせん未来の人間だ。この時代の人間の考えを尊重しないと、未来が変わってしまう。

結局は、未来があまり変わらない程度しか協力は出来ないだろうな)


光一郎の意志を読み取ったのか、長は重い口を開いた。

「私達の意見を尊重して下さるのか。有難い。我々としては、現状維持して、時を待ちたい。

ただ、どこまでここで生き延びることが出来るのかは、不安があります。

領主が変わるのはいいですが、ただ税を取られるだけでしたので、本来はどこにも所属はしたくない

のが本音です」


強い者が領地を管理しようとし、自分達の土地だと言い張る。

不本意な時代だ。


「領主がはっきりしたところで、交渉し村の土地を取り戻す考えでいます」

長が今まで村の者達と話し合ってきた結論を述べると、光一郎は頷く。

「分かりました。俺達は、上手くいくようにどう協力したらいいでしょうか」

「協力して下さるのか?」

長が驚いて、光一郎を見つめる。光一郎がニヤリと口をあげて笑うと

長はホッとした表情に変わる。

「では、もっと話を煮詰めましょうか」

「そうしましょう」


その夜は、遅くまで親父達の密談が続いた。





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