冷静になる時
現代に戻った壮一郎は、部屋に閉じこもり、急いでPCで戦について調べ、
現代で取りそろえることが出来る武器を探し始めた。
「刀で切られないように防護する服と言えば、防刃ベスト?ああ、そうか。弾避けは防弾ベストで刀は防刃になるのか。防刃手袋。スタンガンは近くまで寄らないと意味ないし。やりは、現代でも売っているものなのか?」
画像を見ながらうんうん唸っていると、背後から父親が覗いてきた。
「あ、父さん」
「おい、壮一郎。それ何に使うつもりだ?」
じっと背後から覗き見していた父は、ふと何か引っかかるものを感じ取った。
ギッと息子を睨むと、画面に視線を向けた。
「あ・・え・・と。防刃?」
拙いなあと感じた息子は、二ヘラと笑いながら首を傾げると、中堅イケメンの首を傾げる仕草は
きもいのだと叩かれた。
「いてえ」
「お前はバカか。あれほど歴史を変えることをするなと言っておいただろう。戦国時代にない武器や
防護服を使えば、おかしくなるに決まっているだろう」
フンとふんぞり返る態度を見せる父親に、壮一郎はハッと我に返った。
自分が今しようとしていることは、歴史がひっくり返るかもしれないことだと
言われて初めて自覚した。
「父さん、ごめん。でも、彩の村の人達を守りたい。俺に出来ることでどうにかしたいんだ」
父に注意を受けたことで拙いことをしたと自覚もあり、項垂れる息子に父は大きくため息を吐いた。
「分からないでもない。歴史を変えないように、上手くなんとかしたいんだな」
「ああ」
父はしばらく考え、提案する。
「まずは、歴史を変えないようにする為に、歴史オタの俺の弟 藤二郎を呼ぶ」
父の弟は、歴史研究家だ。父よりは若いので、母曰く爽やかなオジサマという雰囲気の男性。
戦国時代にはかなりの熱が入る、歴史オタクだ。
「え?でも大学の教授で、忙しいはず」
「だからだ。現代に戻る時は、当日に戻してやるんだよ」
「あ、そうか。そういうことか」
「時間計算をして戻るのは大変だが、修正しやすい」
「なるほど」
早々、歴史を変えられないことと、自分達も時を何度も行き来しても同じ日に戻ることとか
時間の誤差についてはかなり難度が高いのだ。
何度も能力を使えば、消耗もするしで、本人の能力の問題もある。
壮一郎が感心していると、父はもう1人の名を出した。
「それと、お前の従弟、貴」
「・・・ミリオタの?」
「そうだ」
何故ミリオタの貴を?と疑問を抱きつつ、ふとPC画面に映る防刃ベストに視線が行く。
「まさか。ミリオタの力を借りるのか」
「そういうことだ」
貴は、今年24歳で本当の意味でのイケメンだ。
ミリオタとスパイ大作戦とか戦うということが好きなマニアだ。
しかも仕事は。
「自衛隊だったな」
「適任だ」
親子でどう乗り切るかの作戦を練り、直ぐに叔父と従弟に連絡を入れた。
ノリの良い親族達なので、次の日にはいろいろ私物を大量に持ち込んで
入間家に乗り込んできた。
「ちょっと待て。貴、それは庭に置いてくれ。部屋には入りきらない」
「そうか?仕方がない」
自作の小型ヘリとか赤外線ツールやスパイ道具を運びこむのをなんとか止める。
「叔父さん~」
叔父は、叔父で歴史の本や資料になりそうな物を箱をいくつか車に載せている。
「もう過去へ飛ぶのに、連れて行ってくれるという話だけでわくわくでね」
叔父も貴も時を渡ることは出来ない。だが、親族は能力者に協力するのは当然と
教育を受けていることもあり、物凄く友好的だった。
「能力者の力になるとか、手伝いが出来るというのは、憧れなんだよ」
貴も叔父もホクホクだった。
「敵状偵察に使えそうな、自作の小型カメラ付き鳥とか持ってきたよ」
「おお~、貴君、凄いね」
「藤二郎さんも凄いっス。」
「待った。その話は後で。今は急いでいるので、まずは作戦を聞いて欲しい」
「おお」
「待ってました」
2人で話が進みだしたので、慌てて止めて、親子で考えた作戦と現在の状況の話し合いに
入った。
現在は、隠れ里の彩の村の人達は、川今家という武士の領地にいる。
隣りの高塚家は、領内で下剋上が起こり、今は家臣の森松家と井坂家が乗っ取り。
高塚家の元領主達が彩の村に逃れてきた。
高塚家は、そのまま彩の村を拠点に、自分達の領地を取り戻し、ついでに彩の村も
自分の領地にするつもりだと壮一郎は考えている。
「あっていると思う。昔は、盗られたり盗ったりだからね」
「壮一郎は、傘下に入ってもいいと考えているのか?」
「いや、直ぐにその結論ではなく。川今家が、自分の領地ということで力を貸してくれるなら
高塚家の武士達を追い出すのが筋かなと考える。
だが、その川今家が村の者に聞くところによると、隠れ里に移って直ぐに連絡を取りに行った
ところ。川今家でも兄弟の跡取り問題で戦が起きている最中で、取り合ってくれなかった
そうだ」
壮一郎は、今までの情報を全て話すと、彼らは頷く。
「あ~、跡取り問題ね。もしかして、領主が亡くなったのか?」
「ああ、そういうことだ。毒を盛られたような話だ」
領主を倒して、次の世代へ渡す。
それらを家臣達が、自分の推している後継者を継がせる為に画策したりする。
「・・・・、戦国時代は、いろいろあるようだね。興味が沸くよ」
戦国時代は、一番歴史マニアには堪えられない話。
「叔父さん、楽しそうだね」
「もちろん。ここは、高塚家の人間が生きているなら、その男がどういう考えなのかを
本音で話し合うことが出来たら、いいね。そうすれば、村の者の安全とかも確約出来る」
「当人と話し合いか。ひとりでいる時とか狙うしかないか」
「壮一郎君。ただね。上の者が賢い選択が出来るとしても、周囲に必ず反対者とか裏切り者が
出る可能性があるから。ついでに一層することも考えてはどうだろう?」
あちらの膿を出す協力。
壮一郎が作戦の紙に補足を書き足すと、貴はその紙を見つつ。
「最初は、敵陣調査かな」
手のひらに乗せた小型カメラ付きの鳥を見せて、楽しそうに笑った。
「貴君。その笑み、怖いよ」
「うへへ、すみません。スパイ○作戦のトムになった気になって~」
二枚目の彼は、顔がにやけて元に戻らず、壮一郎と父親を呆れさせ
叔父の藤二郎も冷静に見えるが、口元が・・。
ああ、嬉しいのだなと確信する。
壮一郎が父に視線を向けると、父は何も語らず。
「・・・・」
こうして、4人の作戦は、その日の夕方に開始された。