作戦会議
その頃、農民達から村を奪った落ち武者達側では、
ぞくぞくと武士が集まっていた。
彼らは、先の戦で、領土も民も失くした高塚家の二男とその家臣達だ。
実は戦国時代では、小規模な領主間でも小さな揉め事は多々あり
領主を倒そうとする下剋上が頻繁に起こり、高塚家も巻き込まれた。
「若、この村を拠点にまた一から始めましょう」
「ああ。何としても父上と兄者と皆の敵を」
苦渋に満ちた若い領主の言葉に誰もが賛同する。
「残った者達は、何人だ?」
「それが、ここへたどり着けたのは、現在56人。その内、怪我人は23人です」
「多くの者を失ったな」
「皆、幸せでありました。左門が、まさか領主の座を狙っているなど
誰も気付かず、無念です」
「・・。そうだな。だが、まだ我らは生きている。やり直すことは出来る。
出来ることから始めようか、皆の者」
頼もしい言葉に耳を傾けていた者達から「おおー」、と歓声が沸く。
まだ覇気はある。
まだこれからだと、誰もが信じている。
「幹雅様。実は」
この村にいち早くたどり着き、農民から村を奪い、仲間に知らせた2人の内1人が
二男に傅き、今の現状を語りだした。
二男がたどり着く数時間前に、近辺調査を言いつけた3人が、
村の前で遺体として置かれていたことを説明すると、二男は考えるしぐさをとった。
「申し訳ございません。食料が直ぐに尽くと考え、どこかに潜んでいる農民を
こちらへ呼び戻そうと考えておりました」
頭を下げる家臣に、彼は家臣に目を向け、周囲にも目を向けた。
「こちらの傘下に入る気がないのだろう」
ふうと大きくため息を吐く彼に、家臣達は相手が農民ということで
こちらの言うことを聞かせることを考えている。
この村を高塚家の敷地とし、周囲の土地を開拓し家臣達の家を建て、農民を民としておき、
この地を治める予定なのだ。
「若。彼らは、宣戦布告をしてきたと判断しますが」
「そうだな。宣戦布告か。こちらの戦力は・・」
「農民よりは戦えるとは思いますが、こちらは30人ばかりしか戦える状態の者はおりません」
農民と戦になっても、こちらに分があると誰もが思った。
「まずは、腹ごしらえからだ」
彼は、直ぐに狩猟に向かい、残った怪我人と食事担当が村に残った。
その数日後の朝、隠れ里では大騒ぎになっていた。
村の様子を伺っていた密偵の真似事をしていた者が、村に落ち武者が集まっていることや
どうも近辺の領主らしき存在がいることを確認したからだ。
「旗はどんな?」
「隣りの領主の高塚だ」
「・・・、戦があったところだな」
「ああ」
「どうすればいいのか分からなくなったな」
「ああ、奪還するはずが、人数が増えては」
男衆は、長の家でうんうん唸りながら、考え中の所に、外で女達が歓迎の声が上がった。
長が縁側に出ると、4日振りに壮一郎の帰還だった。
「壮一郎殿」
「義父さん、戻りました。今回のお土産は酒です」
その声に長の背後側が喜びの歓声が上がった。
壮一郎が戻ったことで、その日は村中で宴会。壮一郎に皆が現状を話し、何か意見はないかと
問われることが多い。
「畑が・・こんな感じで」
「そうですか。畑には、栄養が必要なので追肥が必要なんですよ。
山の周辺にある腐葉土を混ぜましょうか」
案を伝えると、また話が続く。
「ここのところ腕が上がらなくて」
他の男が口に出せば、
「見せて下さい」
と、壮一郎が男の腕を見せてもらい、手首を異常に痛がるので
「腱鞘炎ですね。同じ作業を毎日続けるとなります。1日は畑、その次の日は山狩りとか
仕事を毎日変えて、この筋肉を使う日、使わない日を作った方がいいですよ。
湿布薬がありますので、今日は貼って下さい。明日には効果がなくなりますので
また来てください」
と、目の前で湿布を取り出し、ビニールを取り外しベタッと貼り、包帯で巻きつけると
男はそのひんやり感に驚き、
「こりゃ、気持ちよい冷たさだ」
と、言いながら嬉しそうだ。
ついでにとばかり、酒を飲みつつも足の捻挫を診たり、怪我の治りぐらいを確認したりと
何故か診察状態に。
「あ・・。診察は、明日に」
長が助け船を出して、ひとまず収まった。
「壮一郎殿は、医師であり旅の商人とは、珍しい職業だな」
「ああ、でも有難い」
「そうだな」
そこで一端話は途切れ、やはり村奪還の話に変わる。
「壮一郎殿。何か策はありませんか?」
壮一郎は、歴史の本を思い出しながら交渉について考えていたことをこの場で言ってみようと
皆の前で話を切り出すことにした。
「まずは、交渉から始めてみたいと思う」
「交渉・・ですか?」
「そう。相手が落ち武者とはいえ、武将。しかも、隣の領主だというなら、ここは上に立つ者が
どのような人格者か話をしてみるのもいいかと」
人格者なら、土地は共同に持っていくという話に持って行ける。
彼らの傘下にするのが目的のはずなので、どう退去させるか。
こちらが別の提案をすれば、動いてくれる可能性もある。
「殺されに行くようなものじゃ」
直ぐに老人に撤回される。
確かにそうだ。話し合いをしに行き、大抵は使者は殺されることが多く、交渉決裂が多い。
決裂した場合は、戦になるかもしれない。
農民一揆というやつ。
「この交渉役、俺が行きます。決裂の場合は、最悪俺のみになります」
壮一郎は、自分が適役だと考えた。
自分なら、いろいろ説得出来る案が浮かぶ。
だが、この申し出に長は蒼白な顔になり、
周囲の男衆は、壮一郎殿が行くなら皆でと躍起になる。
「いえ、ここは。穏便に解決をなんとかしたいですし、奥の手を使うつもりです」
それでも1人で行かせるわけにはと、一番高齢の男と言っても50歳の 壮介が
従者役を買って出た。
「わしは、嫁も子もおる。しかも子も大きくなり嫁もいる。もう十分幸せな男だ。
ここには、これからの男が多い。戦力は残して、わしを使ってくれ」
「壮介さん」
壮一郎が感激していると、男衆がワッと彼を囲む。
「壮介爺、本気か」
「壮介爺」
「おらの方がいい。おらはまだ独身男。嫁もいないし」
「いや、それなら身軽なおらが」
「俺は?」
若い男達が急に名乗りを挙げたが、壮一郎はいろいろ考えて、壮介にお願いした。
緊張の空気が漂っている。
皆の中では、死を覚悟しての立候補というわけらしい。
壮介は、死を覚悟して壮一郎に着いて行くことを皆が納得したというところか。
壮一郎は、そもそも死を覚悟して自分が行くと言ったわけではない。
「俺は、交渉が決裂しても、壮介さんと生きてこの里に帰りますので安心してください」
いざとなったら、力を使って逃げるつもりの壮一郎に、壮介を始め、男衆は感激して
涙を流して頷いた。
皆、死は怖いのだと壮一郎は実感した。
さらに決行日が決まり、宴会がお開きになって部屋へ戻ると、男衆の隣の部屋で
女性達は集まっていたので、話は知っている彩が大泣きしていたのは
いうまでもない。




