村奪還作戦の序章
夫なのだから、夫らしくということで、俺は毎週土日は戦国時代の隠れ里へ戻っている。
一応旅の商人ということになっているので、村人が採取した山菜や川魚と
別の世界で採れた物とかを物々交換している。
お金でやり取り出来ないのは、田舎過ぎて金銭でのやり取りがあまりないこともある。
農民がお金を蓄えるということは、この時代はかなり難しい。
だからこそ、物と物で交換が今も成り立っている。
だからと言って、全てではない。
町や城下では金銭でのやり取りが重要になってくる。
田舎は、田舎のやり方だとここは察するしかない。
この時代の商人は、大変だったろうな。
今日の帰宅では、米30キロと塩、芋や日持ちする果樹を持ち帰ることにした。
ちょっと豪華だが、商人だからこそ出来ることとして説明するつもりだ。
なんと言っても、妻には美味いモノを食わせたい。
塩は戦国時代は、かなり高価な物として取り扱っているので
村の者達にも分けたいとかなり大量に持ってきている。
異空間を渡り、隠れ里から離れた所に出てから、里の入り口へ向かって歩いていく。
まともに見られるわけにはいかないので、これが最善と判断してだ。
山道は険しいが、歩き慣れてきたのか、最初程の苦痛はない。
見覚えある山々を左右確認しながら歩いていくと、里の分かりにくい入り口付近で
侍が3人うろついているところに出くわした。
俺の姿は旅人で、米は異空間に隠している為、かなりの軽装。
俺を見つけるなり、俺に向かって走ってくるので驚いた。
「おい」
目つきが鋭く、腰には刀を差しているので、幾分か緊張しての対面だ。
こんな強面の武士に声かけられるのって、嫌だなあ。
「はい、なんでしょうか」
「お前は旅人だな」
まるで確かめるように、じろじろと俺の周りを歩く。
「はい」
「ここの辺りに村はないか?」
何を探しているのかちょっと考えつつも。無難な返答がいいと考える。
「この先に村があったはずですが」
俺は流れてきた落ち武者に奪われた村方面を指差すと、彼らは苦虫をつぶした顔になる。
たぶん、村を奪った本人達だと察する。
「どうかしましたか?」
俺は全く知らない風を装う。きっと逃げた村人を追っているのかもしれないので
適当に会話も濁して去ろうと考えた。
彼らは俺から少し離れると、3人で何やら話し込み、俺をチラチラ見ては頷き
また俺の前に戻ってくる。戻って来なくてもいいのに。
軽装で何も持っていない感じの俺に何をしたいのか気になるが、じっと様子を伺ってみた。
「いや、あの村は俺ら武士が奪った」
やっぱり。村を奪った落ち武者達か。
「え?村の者達は?」
知らない風を装い尋ねる。
「逃げた」
まあ、そうですよね。襲われたら、普通は逃げる。
「そうですか」
随分あっさりと経緯を説明してくれて、彼らの告白を聞いたものの、俺に何が言いたいのだろう。
「奪って半年経つ。食料も尽き、帰る家も失った俺達はどうしていいのか
途方に暮れているところだ」
どうやら戦に負け、敗走しているところで穏やかな生活をしていた村を見て、奪いたくなったと。
保存しておいた食料を食い尽くしたものの、腐っても下級武士なので、農民のように耕すこととか
作物を育てる知識がなく、何も出来ず困ることになったというのか。
「そうですか。これからどうするつもりで?」
「ああ。俺達は戦に負けた。だから、戻る土地も屋敷もない。仕えていた主も亡くし、途方にくれている。村の者を捕まえ、俺達の村を作ろうと思ったが、上手くいかなかった」
え?奪った村で、自分達の村を作る気だった?
まあ、戦国時代は奪い合いがあるとは聞いたけれど、実際聞くと忌々しい。
「村の者達と一緒に住むとか、自分達も武士を捨てるということは考えないのですか?」
「俺は下級だが武士だ。農民なんかに」
あれ?この時代は武士は農業って、やらないものなんだったかな?
ちょっと歴史の本で確かめたくなる。
「でも、武士として仕える主もなく、どうやって続けるのですか?」
「確かに」
武士は上の位 という考えは昔からある。いきなり農民という下の地位になることが
納得出来ないのだろう。
戦に負け、武士としてどう生きていくのか、未だ悩んでいるのか。
でも、生きていく為には選んでいられる立場じゃないと思うのだが。
「そのような話を俺に話したのは何故ですか?」
俺は旅人であり、商人。彼らの愚痴を聞くためにここに留まっているわけじゃない。
「いや、お前が商人なら、金銭を奪おうか悩んだのだが、何も持ってない様子だからな。
拍子抜けなんだ」
「え?俺を襲うつもりだったんですか?」
それが、軽装過ぎて襲っていいのか3人で悩んだと告発されて、俺は良い気にはなれなかった。
ここで3人伸して、村奪還してもいいかな?と本気で考えた。
チラッと、里の入り口に目のみ向けると、見張りの村人達がじっと様子を伺っている。
手には、やりとか石を持って。
ああ、倒すつもりでいるのかと悟った俺は、やられる前にやった方がいいかなという気分になった。
あまり上手くない合気道技を使い、ダラダラと煩いその3人の手首を掴み、1人づつ伸してやった。
3人が地面に倒れ伏すと、隠れていた村人の男衆が10人ワッと紐を持って出て来た。
「流石、長の娘婿」
「やりますね」
「あ~、この人達が油断してくれたからね」
「ようやく、村を取り戻す機会が出来ましたな」
「え?」
伸びている3人の武士を紐で括ると、隠れ里へ皆で運ぶ。
今ここに、俺がいない間に村人達が密かに進めていた村奪還作戦が始まった事実を知った。