代々の受け継がれている能力
先祖代々から俺の家系の中では、誰かは時を渡る事が出来る能力がある。
それは誰かは分からない。
ある日突然と能力が覚醒する為、予測は出来ない。
俺はそのひとり。
時を渡るというのは、制限ナシで自由自在に過去や未来へ単身で行くことが出来るということ。
現代でいうところのタイムトラベラー。
ただ、未来は決して行ってはいけないと代々禁じられている。
それは、爺さんよりもずっと昔の初代(初めて時を渡ることが出来た者)からの言葉だそうだ。
過去へ行くにしても歴史は変えてはいけないと言われ、その能力を生かす機会は俺自身には今までなかった。
「何の為の能力かと思い、いろいろ考えた爺様は、現代と過去の品の物流を始めたのさ。
爺さんのやり方を見ているうちに俺も別の商売を考えてさ」
父と祖父は能力を受け継いでいる。
その能力を生かした現在の商売について、ふと思いついた商売だと語ってくれた。
過去の世界で豊富な魚介類を採り、父は現代で居酒屋経営、
その店の看板メニューにするというアイデア。新鮮で美味いと評判の店にした。
何故居酒屋なのかは、父が酒好きで居酒屋という店が好きだからだそうだ。
俺には、ただの酒好きの趣味を仕事にしただけにしか思えないが。
父は俺にもその能力があると分かると、お前もいろいろ商売をしてみたらどうかと
今まで考えたことのある商売をいくつか提案してくれた。
だけど、まだ俺には自分の能力がどこまであるのかが分からない為、話だけは聞き
大人になるまでに何をしたいのか、考えをまとめたいと思っていた。
時渡り、時間を超える旅は、俺にはどんな影響を与えてくれるのか
その時はまだ俺には分からなかった。
俺が代々の時渡りの能力を持っていると分かったのは、小学生の頃。
宿題を忘れて過去に戻りたいと思った時に、自分の体がふいに浮いて
目の前の空間がぐにゃりと捻じれた。昨日に戻りたいという想いが強かったこともあり
気が付くと前日の自分の部屋に立っていたのだ。
驚いたのなんのって。
学校にいる時間に自分の部屋にいたので、たまたま休みで家にいた爺さんに見つかり次の日の俺だと説明すると、驚かれたが凄く喜ばれた。
「お前、能力があったんだな」と。
これが過去に行くという能力だと今まで聞いていた話をより詳しく説明された時は、心底驚いた。
帰り方を教えてもらい、俺は元の時間帯へ戻った。
戻ってすぐに爺さんに会いに行くと、昨日の事を知っていて、夢でなかったことが立証された。
それからは、どういう感じで能力が働くのかとか、
元の時間帯に戻る方法をさらに習った。
きちんと基本を習わないと、戻れなくなったら困るからね。
一族代々誰かが持っている能力だと、幼児の頃から家族だけでなく
親族が集まる正月では話しが出ていた。
だから、本家の者だけでなく爺さんや父、叔父や爺さんの兄とか、
ふと気が付いたら
能力が受け継がれている話を聞く。
もちろん親族の中には、ほとんどが受け継がれていない者達ばかり。
叔父の子供達(社会人ばかり)には、誰もいない。
話しの中では、段々と血が薄くなり、今後は途絶えるかもしれないという話も
出ていたくらいなので、俺が能力者とわかると親族がお祝いにきてくれた。
「もう、一族には能力者は現れないと思ってたよ」
「未来へ行くのは禁止されているから、一族はどうなるだろうと考えたものさ」
その日は宴会になり、俺は歴史を変えてしまうような間違いを犯さないように、
酔った親族にはこんこんと説教も聞くはめになり、きつかったのを覚えている。
そこまで親族が恐れている事を過去にしてしまった者が1人いて、親族は恐れている。
やらかしたことで親族全体が存在消滅の危機に陥ったそうだ。
だからこそ、過去は変えていけない。未来は見てはいけないとされている。
受け継がれた能力は、いろいろ仕事として利用して生きているものが多い。
ただ他の一般人には知られないように。
利用されて身を滅ぼすことになりかねないそうだ。
あれから小学生だった俺は、能力で商売を始める為のノウハウや役に立つ雑学を知る為に勉強した。
小学生の癖に?と思われるだろうが、今は便利なPCという強い味方もあったからこそ。
大学も医学や薬学にまで。経済学も最終的には専門系を学んだ。
過去に行く為には、いろいろな知識は多く知っていた方がいいと思ってのことだ。
研修医をしている頃は
爺さんや父からは医師になるのかと問われたくらいだ。
実際、途中から医師になった方がいいかもと思い、医師免許まで取得。
だけど、能力を生かした何かをしたい衝動にかられてしまい本職にはしていない。
たまに頼まれたら個人病院の医師が勤務出来ない日の代理をするという
パート医師をしている。
お蔭で、現在27歳という歳なのか若いのか微妙な年齢になってしまって
身内では中途半端な立ち位置にいる。
恋愛も上手くいくはずもなく、彼女がいないまま3年、寂しい独り身。
周囲からは、残念な中堅イケメンだそうだ。中堅って・・・言葉は痛い。
とにかく、これから「さあ商売始めるぞ」という気持ちになったので、
この半年はパート医師を続けながら
さらに能力の活用を考え、どこまでの年代の過去に飛べるかを確認中。
ノートにまずはアイデアを考え、まとまると実際に試したりして
成果をPCに記録している。
「よお、暇か?」
家で何の商売をするか居間で寛ぎながら模索中のところを、
父が店の準備をキッチンでしながら
声を掛けてきた。
「暇というか、まだ何をしたいのか決めかねているところ」
(27歳で言うことじゃないな)
ちょっと反省。
「そうか。俺今日ちょっと忙しいから、過去へ行っている余裕がないんだ。店に出すまぐろとかさざえとか大あさりとか採ってきて欲しいが・・無理か?」
「店の材料?」
「そう。予約が急に入って、ちょっと忙しいんだ。」
チラッと俺の顔を伺う父に、俺は「いいよ」と返事を返した。
「俺も試したいしね」
時間系列を頭に浮かべ、俺は爺さんから教えてもらった異空間ポケットを作り出した。
時を渡れる者は、異空間を飛び越えていくので、そこへ物を浮かばせることが出来るのだ。
その異空間をポケットにしてしまう能力は、また凄い無理やりな方法だと思ったが、
手刀で空間を開き、そこへ物を入れたり出したり。
見た瞬間は、びっくりだな。物は腐らないし、時が止まっている世界だし。
そして、俺は手刀で空間を開き目的地である平安時代の海岸へ降り立った。
何故平安時代なのか、それは俺が行ってみたい時代の1つだからだ。
いろいろ実際の風景とか人の暮らしについて見てみたい心境で選んでみた。
服装は一応当時の着物に近いものということで、動きやすい薄い紺色の作務衣を着ていた。
辺りは薄暗く、感覚から午前7時頃だ。
海岸に貝が果たしているのか?
よーく海岸を歩きながら見ていると、砂地にいくつか穴が開いている。
貝が呼吸する為のものと判断し、俺は持ってきたバケツを置くと、熊手で掘り出す。
現代の海岸と違い、掘れば掘るだけで貝が出てくる。
「うわ、大あさりがこんな海岸で採れるなんて」
普通のあさりはよく見たが、大漁だ。
それから、松の木の下に海水を入れたバケツを置き、網に入れた貝から砂吐きをさせつつ、
今度は魚釣りだ。
「ちょっと待てよ。まぐろは無理だろ?こんな海岸で。せいぜいアジじゃないか?」
そう思いつつも海岸でも海に近い崖近い場所に移り、竿を出した。
餌への食いつきがすごい。
流石に現代の餌は、過去の魚には特別らしい。
採れる、採れる。アジ、メバル、クロダイ。やはりまぐろはこんな海岸では無理。
異空間から取り出した氷を入れたクーラーボックスに、どんどん詰め込む。
釣竿を異空間に仕舞い、ほくほくで松の木のバケツのところまで戻ってくると、第1村人発見。
いや、子供3人発見。
「おい、俺のバケツに何か用か?」
声を掛けると3人の子供は驚いて、俺から数歩下がった。
昔の子供らしく小汚い。着ている物も凄いボロボロ。俺は、過去の人間に出会った場合は
関わらず帰ることにしていたので、早く行ってくれないかなと考えていた。
「なあ、あんちゃん。この入れ物凄いな。青い綺麗な色の入れ物は初めて見た」
「おらも~」
間延びした声で口々に言う子供達は、微笑ましい。
青いバケツを真剣に見ている。300円の青いバケツなので、俺にはたいしたことのない
日常の代物だがこの時代では、異質なものだ。
(しまったなあ。あまり関わらない方がいいな)
「じゃ、悪いが」
俺は子供達に無関心を装い、サッとバケツを拾い、さり気なく松の木々の中へ走り、
異空間を広げて現代へ戻った。
背後で子供達が「いない」という声が小さく聞こえたが、
それも空間がぐにゃりとなると直ぐにかき消えた。
家のリビングに降り立つと、キッチンで作業していた父が振り返った。
「お、早いな。もう収穫出来たか?」
俺は無言でテーブルの上にバケツとクーラーボックスを置くと、父は作業を辞め
それらを開けた。
貝と魚を吟味しながら、うんうん頷く。
「流石に海岸ではマグロは無理か。まあ、良い品だ。後でバイト代払うよ」
「ああ」
歯切れ悪い返事に、父はおやっという顔をさせて俺を見た。
「お前、もしかして過去の現地人と会ったのか?」
「ああ」
「大丈夫か?」
「子供だったし、大丈夫だと・・思う」
「気をつけろよ。俺も遭遇したが、ただの旅人とか商人とか言って誤魔化したことあるけどな」
その口ぶりは、いろいろ経験している風だ。
「父さんも会ったことがあるのか。ああ、そうか。商人か。その手があった。
出会ったときは、どうしようかと思った。咄嗟に異空間へ逃げてきたけど・・・」
「いい判断だ。まあ、いざとなれば逃げるしかないが。能力を過信するなよ」
父はそれほど気にせず、直ぐに店の準備を再開させたが、俺は初めての事で結構心臓バクバク。
嫌な汗を掻きつつ、リビングのソファにもたれた。
いろいろ制限付きだから、次回はもっと気をつけるか上手く行動しないと危険だな。