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同棲?

 天草学園は全寮制だ。おれも今日から寮に入る。寮の場所は分かるが部屋が分からない。

 放課後に益田女史から鍵をもらう筈だったが職員室に行かなかったからおれは持っていない。益田女史が仕方なさそうな顔をして案内してくれることになった。

「鍵は?」

「凜が持っている」

「?」

 何故?

 凜の方を見たが、そっぽ向かれた。直接訊く雰囲気はまだないのでおれは黙ったままふたりの後からついていった。いつの間にかいなくなっていたタマがおれの肩に乗っている。

 見捨てられた事をまだ怒っているのかタマは時折おれの頬を猫パンチしてくるのが鬱陶しい。それを見て、凜が羨ましそうな顔をしたのを見てタマには生け贄になってもらおうと思った。

 明らかに凜は猫好きだ。

「おまえ、凜の機嫌をとれ」

 そっと呟く。

「ウニャー」

 拒否られた。おれはタマの鼻を指で弾く。

「ギャー」

 肩からずり落ちたタマが落ちないように、ワザとおれの腕に爪を立てる。そのまま上がってくる。

 マジで痛い。

 爪を立てたまま頬を引っ掻かれた。

「痛っ」

 いつもなら頭を掴んでそらに投げつけるくらいはするのだが、おれは凜に向かって放り投げる程度で許してやる事にした。

 タマが空中で首足をばたばたしながら凜の方に向かっていく。猫の焦り顔をおれは初めて見た。気配を感じた凜が振り返る。

 殺気を放って大鎌を一瞬で出現させて飛び掛かってきたタマを一閃しかけるが、それがタマだと分かって躊躇する。

 だからタマは凜の顔面にぶつかった。タマは落ちるのを嫌がり凜の頭の上に登る。

「なんて事するんだ」

 そういってタマを片手で押さえながらおれの方を睨む。睨むが、ちょっと嬉しそうだ。

 よし。

 おれは自分の感が当たったことに狂喜した。タマさえいればなんとかなる。

「いくぞ」

 先を歩いていた益田女史が後を振り返っている。

「今行きます」

 タマを頭に乗せながら凜が益田女史の方に向かう。タマだ助けを求めるようにおれの方を見る。おれはタマに手を振った。

 頑張れ。

 しかし、おれがここまでされて自重できているのはすごい。

 いつものおれなら、寝ているのを邪魔された時点で無意識に凜を排除して(殺して)いただろう。凜を気に入っているとか、いないとかの前に無意識の行動で排除するはず。自分ではコントロールできない。

 それが、ここまで殺気を向けられていても凜を攻撃しないでいられる。

 昨日の夜に行った術の成果もしれないが、やはり庭石の整流回路のおかげだろう。何かふつうの人間っぽい。この調子なら普通の人間ともコミュニケーション取れるかも知れない。

 そうなったらいいな。

 もっとも男とコミュニケーション取りたいとは思わない。おれも男だからそんなもんだろう。


 益田女史の後を黙って付いていくが、男子寮を通り過ぎたところで不信に思った。この先は女子寮と特別寮だ。

「キミが入るのは特別寮だ。前に言ったと思うが成績優秀者には教師のサポートが入る。キミのサポートは私が予定されている。ちなみにキミは特別寮に入寮することになる」

 サポートでなく監視だろう。人並み以上の力を持つモノがすべて品行方正なわけではないから監視する必要があるのだろう。その分、ある程度の我が儘を通すことができるらしい。

 例えば授業をあまり受けなくても成績さえ良ければ許されると聞いて特待生に興味がでてきた。ただそうすると凜が特待生からはじき出されて結果的に学園を辞めることになるのは困る。

 うん、こんなに人の事を考えるなんて初めてだ。

 もしかしたらおれは凜の事を、かなり気に入っているのかもしれない。そう思って凜の後ろ姿とその隣にいる益田女史を見比べる。後ろ姿は圧倒的に負けている。顔の作りはどちらも良い。となると巨乳か貧乳ツルペタのどちらが好みかがポイントなのか?

 あとは年齢。といっても益田女史は人間ではないから年齢は意味がないのかも。あえて聞かないが実際の年齢は相当なはずだ。

 そんな事を考えていたら、ふたりに睨まれた。なかなか侮れない。

 特別寮は実際にはアパートのような作りになっている。二階建てで一階にしか玄関がないから一部屋が二階建てになっているのだろう。なかなか贅沢だ。

 何故か凜が鍵を出して鍵をあけてさきに入っていく。続いて益田女史も中に入る。

「?」

 何か話しがあるのだろうか。まあ、あるんだろう。

 そう思っておれはふたりに続いて中に入っていった。

 部屋の中は、すでに家具があった。備え付けなのだろう、一通りの生活必需品がある。ただ全体的に女性使用になっているのが若干気になる。

「ちょっと失礼する。キミはソファに座っていて」

 そういってふたりは何故か二階に上がっていった。何となく察する事ができたがおれは気がつかない振りをする事にした。

 タマがやっと解放されておれに近づいてきた。そしておれの周りの空間を匂いを嗅ぐと、独り用のソファに飛び乗って丸くなる。猫だから部屋を探索すると思ったがその素振りがない。 別にどうでもいいけど。

 ……逃げようかな。

 おれはそう思った。なんとなくここは居づらい。おれは庭石の上に寝ればいいから別に寝る場所を確保する必要はない。というかここに住むことになっても基本的に庭石の上で寝るつもりだ。

 その方がよく眠れるし、調子もいい。

 なんとなく凜の匂いがするクッションを弄びながらキッチンに移動する。何か飲み物がないかだろうか。

「……なぜ冷蔵庫の中に、食材がある」

 それもいくつかは使われている形跡がある。

 とりあえず、冷蔵庫にある麦茶をその辺にあるコップに注いでソファに戻った。ちょうど二階からふたりが降りてきたところだった。視線を向けながら麦茶を飲む。

 何故かふたりともラフな部屋着姿だった。

「あ、それわたしのコップ!」

 ……そうですか、凜のコップですか。

 ズカズカ凜が近づいてきて麦茶の入ったコップを取られてしまう。おれの喉の渇きは癒されなかった。

「ダメです。キミの荷物はまだ来ていないから勝手に触らないでください。ちょっと待ってて」

 益田女史がそう言ってキッチンの方に消えた。しばらくすると戻ってきた。

「私のだけどよかったら使ってくれ」

 麦茶の入ったコップを受け取りながら、おれは益田女史が言ったことを反芻した。

「尋ねたいことがある」

「なに?

 おれがソファに座ると正面に凜と益田女史が座った。リビン用のガラス製のテーブルにコップを置いた。

「ここはふたりが住んでいる部屋と思うが、何故おれがここにいるんだ? おれは自分の部屋に案内されると思っていたのだが」

「ここがキミの寮部屋だ」

 益田女史よ、自分で何を言っているのか分かっているのか? 顔を見る。

 何故照れる?

 そんなキャラではないだろう。隣の凜は不機嫌そうに横を向いている。まだ胸をツルペタにした事を根に持っているはずだから話しかけて、再び襲われたくないのでとりえず放置しておく。

「んじゃ、なぜふたりがここにいる。というか何故ここに住んでいるんだ」

「もともと凜とふたりで住んでいたからだ。凜は特待生で、特待生は教師と一緒に住むのがルールなのだ」

「ごめん、状況は分かったが事情が分からない。つまりどういう事なんだ」

「簡単なこと。凜とキミのどちらか特待生になった方が私とここに一緒に住んで、特待生になれなかった方がでていくのよ。それまでは三人暮らしということ」

 訳が分からない。よくそんなことを学園は許したものだ。

「おれは男だぞ」

「そんなことは分かっている。でもこの程度の事は普通だろう? キミだって何がまずいのか分かるくらいだから偉い人だってそんなことは百も承知だ。だからあえてそうしていると思っていい」

 益田女史の言わんとする事が理解できた。

 なんか、これから日本の教育省、科学省および神魔省あたりの役人を皆殺しにしたくなった。いっそ国会議員を一掃するか。

 そうするとカトリックやらプロテスタントがわらわら日本にやってきそうで面倒くさそうだがもう少し倫理観があるだろう。。

「なにか物騒なことを考えているみたいだけど。政府もバカではないからキミが何の為にこの学園に来たのかすでに調査済みだ。だからこの件については諦めたほうがいい。一種の交換条件だと思ってくれ。……キミにはこう言った方がいいか」

 益田女史が立ち上がって、おれの方に近づいてきた。真正面からのし掛かってくる。

 おれの座っている上にまたがってくる。だから益田女史の胸に顔が埋まる。

「一緒に住んでほしい。もし我慢できなければ私を襲っても問題ないぞ」

 ゲフォ。

 おれが驚くよりも凜が麦茶で噎ぶ。

 益田女史が凜に引っ張られる。

「きょ、教師ともあろうものが、な、何をいってるんですか!」

 凜が真っ赤になっていた。益田女史も少し恥ずかしそうにしている。

 おれは溜息をして麦茶を少し飲んだ。

「凜だって、もっと露骨な事を政府がすることは知っているだろう。例えば昔は男女の能力者をいきなりさらって妊娠するまで監禁するようなことを平気でしていたと聞く。それに比べれば一緒に住むくらい、たいした事ではないだろう」

「せ、先生はそれでいいんですか。そんな好きでもない人とそんなことして平気なんですか」

「平気ではない」

 そう言うと益田女史がおれの方を見る。だからなぜそこで赤くなるのだ。それに反比例するようにおれを見る凜の視線が冷たい。もしかして嫌われているのか?

 それは、こま……らないか。嫌われていてもそれはそれで楽しそうだ。毛嫌いされていなければ良しとしよう。ツンデレのツンだと思えば問題ない。

 それよりも益田女史をどうしたもんか。誰かに命令されたからおれに服従するのであれば興味が半減する。

「そ、それにそもそも益田先生はもう処女じゃ……」

 そう言って凜がいいよどむ。ん、恥ずかしそうだ。

 おれはふたりのやり取りが面白そうだったので黙って聞いていることにした。

 おれも益田女史は好みだったが、さすがに二十半ばなのだから恋人とかいるだろう。国から命令されたからといって恋人と別れさせて無理矢理犯るほど飢えていないし、多少のプライドはある。からかうくらいはするが、そこまで益田女史の人生を壊す気はない。

 あれ? でもよく考えると凜の人生はかなり劇的に変えてしまった気がする。今まで気がつかなかったというか考えなかったのが不思議だった。

 ……。

 理由が分かった。単純におれの心が変わったからだ。

 どうやら整流回路で調整すればするほどおれの理性がはたらくようだ。もしかしたらこのまま良い奴になってしまうのかもしれない。

 そんな事はないか。

 さすがにそこまで本質が変わる事はないだろう。

「凜、私は人間ではないのは知っているだろう? ふつうの人間と結婚する事は不可能だ。つまり私の伴侶候補は非常に限られるのだ」

 そう言えば忘れていたが益田女史は悪魔だった。ってことは、もしかしたら。

「だからといって、国に言われるままなんて」

「凜、それはちがう。あたしから希望したのだ」

 益田女史がもう一度おれを見た。

「それに恥ずかしいが私はまだ処女だ。今まで適合者がいなかったのだ。しかし調べてみたらキミとは適合していた。だから自分からキミのサポートに手を上げた。別に誰かに強制されたとかじゃない。

 それに、あたしのことは既に犯したようなものじゃないか。

 だったら最後までされても、あまりかわらないだろう」

 ぽっと頬に手をあてて顔をそむける。背けた先に凜がいたからふたりは見つめあう。凜がニコッと笑っておれを見つめる。いつの間にか死神の大鎌を手に持っている。

「あなた、先生に何をしたの?」

 じりっ。凜がゆっくり近づいてくる。まずい。矛先がおれに向いている。

「耳をしゃぶられて何度もいかされた」

 そこでそんな事をいいますか。

「やっぱりあなたはここで死になさい」

 大鎌が無造作に水平に一閃する。

 気が高ぶっているのか、こんな狭いところでそんなものを振り回したら。おれが避けたら益田女史にあたるだろう。

 だからおれは前に移動して刃を避けて柄部分を掴んだ。

「消去」

 おれが呟くと死神の大鎌は消え去った。

「おちつけ」

 凜をソファに座らせる。

「益田、おれに犯されたら消滅するけどそれでもいいのか?」

「えっ?」

「おれは神力もある。つまりおれの子供を生むという事は聖水の何千倍の神力を受け入れるってことになる。おれと適合するとかしないとかの問題以前にそれを耐えきれなかったらだめだろう」

「知ってたのか? 残念だ」

 益田女史の動きが止まり表情が普段に戻った。

「せっかく色香で従えようとしたのに。失敗した」

「えっ? どういうこと」

 凜がついてこれていない。

「からかわれたんだよ」

 または凜をそのきにさせるのが目的だったのかもしれない。おそらく両方だろう。

「でも、キミのサポートをすることに自分から手を上げたのは本当だ。キミは怖いが何か気になって仕方がないのだ。一緒にいると逃げ出したいが、そばにいなくても何故か気になってしまうのだ」

 そう言うとさすがに益田女史は真っ赤になった。

「ちなみに恋人はいない」

 こいつは何を暴露しますかね。そんなことを知ったら、気になってしまうじゃないですか。じっと益田女史を見つめていると、凜に殴られた。

「いやらしい目で見るんじゃないわよ。それよりあたしの武器をどうしたのよ」

「ああ大丈夫だ。すぐ呼び出せるはずだ。あと、死神の大鎌に対象制限を掛けたからもうおれを傷付けることはできないから」

「な、なんて事するのよ」

 凜が肩を振るわせて真っ赤な顔をする。

「なんで自分が譲渡した武器で殺されないといけないんだよ。そもそもおれをホンキで襲うな」

 ふん、と言って凜が二階に行ってしまう。

「さてと、あたしも部屋に戻る。キミは一階の空いている部屋を使ってくれ。それから二階にはなるべく上がってこないでほしい。もし上がってくる時は私か凜に夜這いする時だけにしてもらおう」

 そういってウインクしてくる。

「それと凜には内緒にしているが、この姿は仮だ。だからくれぐれも私を容姿だけで好きにならないようにしてほしい。もしも私の事を好きなったら本当の姿をみせるからそう言ってくれ」

 一瞬、とても幼い表情を見せる。

 こいつの正体が見えなくなった。益田女史。強者だ。


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