表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

初登校

 翌日。おれは初登校した。

 凜と同じ二年A組になった。ざわついていた教室におれが入った途端、シンとなった。そんな中、おれは教壇の横まで進んで名前を名乗った。

「夜見川彰人です。これからよろしく」

 皆が続きを待っている顔をしているので、これで終わりだという意味で軽くお辞儀をして教師の方を見た。

 ちなみに益田女史だった。

「えっと、もう少し自己紹介した方がいいのではないか」

「ありません。何か聞きたいことがあれば答えますけど」

 そう言って、皆を見る。ひとりの生徒が手を上げた。

「じゃあ、質問します。このクラスに編入してきたってことはそれなりの実力があると思うけれど、鈴木凜さんと模擬戦をしたって噂があるんですがホントですか?」

 おれは益田女史を見た。目で訴える。

「ええ。鈴木凜さんと模擬戦をしてもらったわ」

 ざわ。

 教室が再びざわめく。

「鈴木凜さんは昨日、大怪我をして病院に運ばれたと聞いていますけれどそれって模擬戦が原因なんですか?」

 窓側の一番前の席から凜の気配と同じものが強く発せられているから、そこが凜の席なのだろう。いまは空席だ。

「いや違う。凜は別にケガをした訳でなく、頭を打ったから念のため病院で検査を受けているだけで午後から来るんじゃないか」

 おれがそう言うと益田女史が驚いた顔で何か言おうとする。

 おれは遮った。

「軽く手合わせしただけで勝負をした訳じゃない」

 凜を入院させたと知られたらいろいろやっかいな事になりそうな気がしたし、あまり目立ちたくないのでそう言っておいた。

 そのあと幾つか質問があったがおれがあまり話したがらないオーラを出していたこともあり、すぐに終わって、おれは教室の一番後の開いている席に座った。

 四十名の中でおれに敵意というか警戒心をもっているのは約半数くらいいた。ちなみに全部男子生徒だった。好意的なのが十名程度。後は無関心を装っている。

「では夜見川彰人君と仲良くするように」

 そう言って益田女史が教室をでて行くと、皆がチラチラおれの方を盗み見する。隣に座ってる女子生徒が何か言いたそうで、きっかけを捜している。おれは溜息をして立ち上がった。

 みなの視線が集中する。

 鈴木凜と模擬戦をしてた相手はここにいて、凜は病院にいる事の事実。全員がおれが凜に勝ったと思っているのだろう。凜に勝ったと思われるということは学園トップの実力があると思われているということだ。

 それを皆、確かめたいのだろう。その為に先ほど釘をさしたがあれくらいでは納得できないのだろう。おれにはどうでもいいことだが。

 立ち上がったおれは、何も言わずに教室から出て行く。おれの行動を理解できなかったクラスの生徒達はしばらく呆然としていたが少し廊下を歩いてた際に、教室がもの凄く騒がしくなった。

 おれは初日から堂々授業をサボるつもりだった。

 授業に興味はない。

 おれは庭石までいき、その上に寝転んで目を閉じた。ここに出来る限りいれればいい。目算でひと月ここにこうしていれば準備が整うはずだ。

 昼まで寝ていると、益田女史が近づいてくる気配があった。起きても良かったがそのまま横になって目だけ開いて近くに来るのを待った。

「呆れたぞ。まさか初日からサボるとは」

 そんな話しなら時間の無駄だから無視する事にする。おれは目を閉じた。

 何か騒がしい。見ると益田女史が上に登ってこようとしている。悪魔なのだから能力を使えばいいものを人力で上がってこようとするから、ぜんぜん上がれてない。手を引っ張ってやる。

「ありがとう」

「礼はいい。何か用があるのか? 昼寝の邪魔をしたのにもし用がないんだったら犯すからな」

「それは勘弁してほしい」

「冗談だ」

 なぜホンキに取る? なぜ赤くなるんだ?

「キミの冗談は分からないぞ。もし私が犯しても良いぞと答えてたら犯すつもりだろう?」

「そんな事はしない。十年年が離れているとさすがにそう言う気持にはならない」

 すると益田女史がその場で泣き崩れる。年齢の話しはいかに悪魔であっても禁句らしい。気を付けることにする。

「私がキミに犯される件は後にするとして、頼むから授業には出てくれ」

「分かったよ」

 おれの心のこもっていない返事に何か言いたそうだ。

「今度からきちんと授業にでるから。話しはそれだけ?」

「いや。今からする話しが目的だ。凜は特待生制度を利用していたが、キミがあっさり凜を倒したから特待生の見直しをする事になった」

「おれに何か関係あるのか?」

「もう一度、凜と戦ってもらいたい」

「何の為に?」

「特待生を掛けて」

「断る」

 おれは金に困っていないから特待生になる必要がない。これまで通り凜がなればいい。

「それができないのだ。凜は勝たない限り特待生制度を利用できないのだ。一度キミに負けている事実があるからな。なにせ特待生は負けっ放しは許されない」

 だからこその特待生か。

「でもつまりはおれに勝てないと特待生に戻れないということか? だったらおれに勝つことは不可能だから無理だ」

「キミが負けてやればいい」

「そんなことはしたくてもできない」

 それが出来れば苦労していない。負ける事ができないからおれは苦労しているのだ。

「それでも鈴木凜はキミに模擬戦を申し込むはずだ。そうしなければ凜は学園を辞めざるをえない」

「凜の家は貧乏なのか」

 念のため確認すると、凜の家は学費を払えるほど収入がないから、凜がもし特待生でなくなったら、凜は学園に残ることができないらしい。

「頼まれたら金くらい肩代わりしてもいいが」

「凜の性格上、それは無いと思う」

 これも解決しなければいけない課題として認識しておく。

「とりあえず、再戦しないと話しにならないから承諾してくれ」

 益田女史が頼んでくるが、おれは再戦しても無駄だと思うので素直に承諾することができない。

「おい、昨日はあんなに頼りたければ頼れと言ったのに、ウソだったのか」

 うーん。そんなことは言った覚えはないが、ニュアンス的にはそんな事を言った。言った手前、聞き入れないといけないだろう。

「分かった。再戦しよう。ただし出来るだけ次期を後に設定してくれ」

「ありがとう。それからこの学園の生徒は全員寮に入るからあとで寮に案内するから放課後職員室まできてほしい」

「わかった」

 益田女史を庭岩の上からおろしてやる。

「あと最後にひとつだけ」

 益田女史がこちらを見上げながら言った。

「私を犯すのはかまわないが、その時はちゃんと責任取ってくれよ」

「犯さないって」

「期待して待ってる」

 益田女史はとてもいい笑顔を浮かべてから、立ち去っていった。

 おれは目が覚めてしまい、しばらく昼寝ができなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ