凜よ、少し話をしようか
後から聞いたところによると、おれの体から「ボン!」と音がした瞬間、周りのものがすべて吹き飛んだらしい。それに巻き込まれたタマが木にぶち当たり、地面にずり落ちて気を失うと、堕天使がかき消えたらしい。凜はそれを見た後、自分もすぐに気絶をしたから、その後のことは分からないとのこと。
「・・・・・・」
「なんか言いなさいよ」
「・・・・・・」
「えい!」
ぐふ。
いきなり腹に全体重がかかった肘打ちをされた。
おれば、ベットの上で。くの時になって身もだえる。胃が裏返りのど元まで何かが上がってくるのを必死で堪えた。
「な、何すんだ」
涙目で凜を睨み付ける。凜は平然と右肘をさすりながらふて腐れた顔をしている。おれの方に覆い被さるようにして顔を近づけてきた。ちょっと近すぎる。
「無視するからでしょう。心配したんだから」
瞳孔がやや開き気味で、頬が赤い。唇がわずかに震えている。
つまり照れている。
だからおれは、胸にタッチした。
凜が真っ赤になって飛び離れる。
「変態」
「残念、触れなかったか」
「バカ、触ったわよ」
「残念、触っても気づかなかったか」
「あなた、・・・・・・なに言ってるのよ」
椅子を掴んで凜が振り上げる。木製の椅子で十分凶器になりえる。
「いや、ツルペタだと触っても気づかなかったから、残念だと・・・・・・」
「死になさい」
ベキ。
とっさに凜とは反対側に逃げる。ベットの上を見ると、半壊した椅子がさっきまでおれが寝ていたところに突き刺さっていた。
「おいっ」
「心配したのに」
ズンとして凜がベットを超えてこちらに近づいてくる。半壊した椅子を再び掴んで肩の後ろに抱えるようにして、おれ目掛けて振り下ろしてきた。
逃げられない。そう判断した瞬間、シーツを思いっきり引っ張った。
「きゃー!」
ベットの上で凜がバランスを崩してひっくり返る。おれは凜をシーツでぐるぐる巻きにした。
「なにするのよ。離しなさい」
まったく。
おれは凜にマウントしながらため息をついた。ちょっとからかっただけで、なぜここまで切れるんだ?
やっぱりおれの魂のせいなのか?
おれのせいなのか?
「いや、そうじゃないだろう。凜のもともとの性格だ。そうに違いない」
自分がこんな切れやすいとは認めたくなかったから、すべては凜のせいだと思うことにした。ちょこっと魂を共有したくらいで性格が変わることは考えられないし。
「なに分かんないこと呟いてるのよ。いいからわたしのお腹の上からどきなさいよ」
「もう少し落ち着け。で、ここは寮か」
「あなたの部屋よ」
益田女史がおれと凜を見つけて運んでくれたのだ。
「タマはどうした?」
「気にしてなかったから気づかなかったらしいわ。さっき益田先生が確認しにいったけど、どこにもいなかったみたい」
「そうか」
「それよりあなた、タマのこと殺そうとしたでしょう」
「・・・・・・ああ」
凜は堕天使まで見ているから、タマの正体をすでに話している。さっきも同じ話をして会話が途切れたのだ。
「かわいそうじゃない」
凜はそういつが、やつは凜に危害を加えたのだ。殺意はなかったが、おれのやることを邪魔をしてなおかつ凜まで排除しようとしたタマは許せない。残念だが死んでもらう。
すると凜はタマがかわいそうと言っておれのことを責め立ててきたのだ。凜のことを一応守ろうとしているおれがなんで凜から攻められないといけないのか、分からない。だから会話がなくなったのだ。
凜よ、おまえは猫がいいのか?
猫ならなんでもいいのか?
「ええそうよ。猫は正義よ」
バカ者が目の前にいた。