逃げようとするタマ
「あんた最低」
げふぉ。
口から血を吐いた。
凜、あんたすげえよ。おれにこんなことして生きていられるなんて。
おれは凜を反射的に殺さないでいられる奇跡に驚いた。ここまでされてもおれは凜に怒りも殺意も感じていない。多少納得はいかないくらいで、まあいいかと許してしまっている。
これならもしかしたらおれの事を凜だったら殺してくれるかもと一瞬思う。
思ってすぐに否定した。
凜はおれを本気で殺そうとするわけがない。それが分かるから凜をここまで受け入れているのだ。少しでもおれを殺そうと思う可能性があるなら今頃凜はおれに殺されている。
おれの無意識の防御力はそういう事に敏感に反応する。
だから凜、おれを放ってタマの方に駈け寄るなよ。
おれを心配しろよ。放置するなよ。
「ちっ」
おれに背を向けている凜に心の叫びは届かない。
仕方がないので近づいていった。
タマはキョトンとしていたが、凜が近づくと警戒して後退っている。
「まだ慣れていないし」
「う、うるさい」
振り返った凜は悔しそうだ。少し溜飲を下げる。
「なんであなたみたいなのが」
それは仕方がないだろう。一応、タマはおれの使い魔なんだし。
まだ契約はしていなけど。
「タマが逃げるぞ」
「えっ!」
あわてて追いかけようとする凜をどけて、おれは小石を拾って軽く投げた。
「また、なんて事するのよ」
「ま、まて。当ててないから」
首を絞める蹴るように襟元を凜に掴まれながら言う。凜に密着される体勢になったので、礼儀として軽くキスする。
が、除けられた。
「な、なんてことするの」
顔が赤い。
なかなかよい。
もう少しイチャイチャしようと思ったが、またタマが逃げようとしたので小石を拾ってタマの方を睨んだ。
「次は当てるよ」
すぐ横に出来た小さなクレーターを見てこちらの向いたタマの表情はネコなのに引きつっていた。