返せと責められる
いつも通り庭岩の上で昼寝をして受業をサボりながら、そういえばタマの姿を最近見ていないな、と思っていると益田女史が近づいてくるのが分かった。
目が合う。
睨まれた。
ザクザクと小石を散らしながら近づいてくる益田女史と話すのはめんどくさそうなので、一瞬逃げようと思ったけれど、逃げても仕方がないと思いイヤイヤ庭岩から飛び降りて相対した。
「返せ」
「へ?」
「私の指輪を奪ったのがタマだと分かった。キミの使い魔だろう。責任とれ」
襟元を掴まれて引き寄せられたから、益田女史の鼻を舐める。
「ひゃぃ!」
黄色い悲鳴を上げて益田女史はその場にうずくまる。
「卑怯だ」
上目遣いで真っ赤な顔でおれを睨み付ける表情はなかなか良い感じだ。顎に手をやりもっと上を向かせてキスをした。
当然舌を差し込んだ。
すると益田女史の舌が絡みついてきた。そしてゴクリと喉が鳴って俺の唾液を飲み込んでいく。
しばらくキスをし続けてようやく離れると、益田女史は息を荒げたまま力なく両手をついて顔をそむけた。
「やっぱり卑怯だ」
怒気は感じられなくなったので、おれは事情を聞いた。
益田女史曰く、封神の指輪が無くなったので捜していたところ指輪をくわえているタマをさっき目撃したらしい。タマを追ったが見失ったからそのままおれのところに来たという事だった。
「タマが益田女史の指輪をね……、ちなみにおれは知らないから」
「ほんとか」
「ほんとだ。知らない」
おれは断言した。
ウソだけど。
「あれがないと私は神族から身を守れない。頼むから指輪を返してくれ」
「だから俺は関係ないから。タマは光り物が好きだから偶然見つけてくわえていっただけじゃないか」
「しかし、幾重に封印した場所からわざわざくわえていくなど考えられない。しかも使い魔なんだから主のキミが命令したとしか思えない」
「タマは使い魔だが、別に正式に契約している訳じゃないから。タマが勝手にまとわりついているだけでおれの命令は基本的に聞かないぞ」
そう言うと驚いた顔をされる。
「それは、使いまでなく憑かれているのではないか」
「……そうとも言う」
言われてみればそうだ。おれは物の怪に憑かれていたらしい。いままで気づかなかった。
「物の怪なら心置きなく、滅して指輪を奪い返すことができる」
「まあ、物の怪だとしても短い付き合いでもないから、勘弁してやってくれ」
タマが指輪を奪った理由は分かるから益田女史に余計なことをさせるわけにいかないので懐柔することにした。