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プロローグ

 夜見川彰人。それがおれの名前だ。

 やみがわあきと。

 しかしおれに悪意を持つ奴らはヤミカゲと呼ぶ。彰と影は確かに似ているがおれをヤミカゲと呼ぶ奴らのアホさにうんざりする。

 だからそう呼ぶ奴らは容赦なく死んでもらっている。

 地球は狭いから生きる価値がないヤツらは害虫と同じで見つけたら叩き潰すようにしている。

 それが世のため人のため地球のためだ。そして少しだけおれの憂さ晴らしになる。

 何を言いたいかというと、おれに敵意を向けて生きているヤツは殆どいないと言うことだ。逆にいうと今までおれは戦った奴らを殆ど殺している。

 手加減するのが面倒なのでほとんど瞬殺だ。

 しかし……。

「どうすっかな」

 いまからおれは目の前のヤツと戦う。

 いままで戦いに戸惑ったり、躊躇したりした事は無かった。しかし今、あきらかに戸惑って躊躇している。正直に言うと、どうしていいのか頭を悩ませている。

「始め」

 少し離れた場所から女性の声が聞こえた。確か益田紫織という伝道師でこの天草学園の臨時講師として雇われているらしい。二十代半ばの麗人だ。不用意に近づいたらスパッと頭から左右に真っふたつにされそうな雰囲気がある。

 真の強いところはおれの好みだ。ただ十歳も年が離れているのはお互いの不幸だ。5歳くらいだったらギリギリ守備範囲ではあるが。

 横に体を反らして益田女史をチラ見する。背が高く、身にまとっているスーツ姿が様になっている。腰のくびれが良い感じだ。

「キミ、やる気あるの?」

 益田女史に睨まれる。きつい目が良い。一度戦ってみたい。もちろん本気を出すと瞬殺してしまうので力一杯手加減はするが、益田女史が戦う姿はさぞ見栄えするだろう。そしてスーツ姿タイトスカートで戦う姿はエロそうだ。

 おれは上半身だけそらす。

 それとなく近づいていく。

 近くで見るとやはり巨乳であることが分かる。腕組みしているので余計に目立つ。

 なんか十歳くらいの年の差なんてどうでもいい気がしてきた。このまま抱きつきたくなった。

 トン。

 目測をワザと間違ったから一撃が肩に受けてそのままおれは自分から益田女史の方に向かって倒れていった。

 当然目指すは巨乳。顔から飛びこむ。

 すっと半身になって避けられた。

「ちっ」

 無意識に舌打ちをしてしまい、こちらの意図を悟られてしまった。かなり後ろに下がられてしまった。

「このままだと失格にするわよ」

 呆れ声。

 それは困る。おれはしかたなく、少しはまじめに対戦する為に相手を見た。

 何かとても息が荒く、尋常でない汗をかいている。

「ん、どうしたん?」

 ポケットからハンカチを出して額の汗を拭いてあげる。女の子にそのくらいの事はしてあげるくらいの優しさはある。

 ただ悲しいかな、女の子は飛び退いてしまう。まだ汗を拭き切れていなかったから女の子が開けた距離と同じだけ前に出る。

 そして優しく額の汗を拭き取る。

 拭き取る。

 女の子が下がる。

 おれは汗を拭き取る。

 女の子が右に飛ぶ。

 おれは汗を拭き取る。

 女の子がジャンプする。

 おれはふきふき。

 ふき。

 ……。

「ねえ、キミって汗かき?」

 拭いても拭いても女の子の額からは汗が流れてくる。

「う、うっさい。離れなさいよ」

 あ、泣いた。

 これ以上からかうと嫌われそうな気がしたので、一緒に移動するのと止めた。

 ズササァー。

 女の子が十メートル以上離れる。

「あ、あんた何者なの」

 ゼイゼイと苦しそうだった。

 益田女史から、この娘の名前は鈴木凜と聞いている。たしかこの学園では最悪の生徒らしいが、以外に侮れなかった。おれに対する殺意、殺気が半端じゃない。

 おれがまじめにそれを感じ取ったら無意識に敵と認識してしまいそうだ。気を許すとつい殺してしまいそうになるくらいのレベルだ。

 つまりかなり強い。

 こんな娘が最悪なんてありえないだろう。もしこれが天草学園クオリティだとすれば人間を少しだけ見直した方がいいかもしれない。

 ただこの娘からこれ以上の殺気を受けたら、多分おれは無意識に殺してしまうだろう。

 手加減する自信がない。

「何者なの? 答えなさいよ」

「キミの恋人候補だよ」

 だから、自分がこれ以上ホンキにならないように茶化す。

「な、何を言っているのよ」

「いや、ほんとに。実はキミに一目惚れしてしまった」

 だから自分がこの娘を傷付けないためにやさしく抱き締めて髪の毛に触れる。ちょっと匂いを嗅いでみると甘い匂いがした。

 凜の殺気が増す。

 あれ、親愛を込めたつもりだったが何か間違ったのか。

 まあ、今のはセクハラぽかったかもしれない。

「フゥー!!。どうしてもホンキになるつもりがないようね」

 凜が爪を出して威嚇するような猫みたいに怒っている。ふむ、かわいいかもしれない。機会があれば猫耳と肉球付きの猫の手を付けさせてみよう。

 馬鹿な事を妄想していると、凜が構えを解いた。

 益田女史を見ての方を見ていた。おれも気になって見る。

「先生、武器の使用許可をください」

「……いいでしょう。しかし危なくなったら止めるから、そのつもりでいて」

 武器を使いますか、だたそれはまずいだろう。危ない。

 ちなみに一番危ないのは凜の生命なのだが、きっと本人は分かっていない気がする。だから凜が後ろから取りだした警棒みたいなもので攻撃される前に、背後に回って奪い取る。

 奪い取るつもりが、両手に1本ずつ持っている事に気がつかず、左手の武器を見逃してしまった。迂闊だった。

 棍棒みたいのが下から振り上がって、おれの顎に向かってくる。タイミング、スピードそして狙い所が絶妙だった。避けられない。

 この攻撃があたったら、多分おれは凜を殴って殺してしまう可能性が高い。顎にそれが触れる瞬間、おれは後ろに下がった。

「へっ?」

 絶対、確実、確信を持っていた攻撃を外した凜が間抜けた声を上げる。おれはスカッと左手を振り上げた体勢で固まっている凜の背後に回ってミニスカートをめくる。

 ピンクだった。

 軽く手を伸ばす。

 さわさわ。

 どう言い訳もできないくらいのセクハラだったが、このくらいしないと気持が収まらない。誰かと戦って後ろに下がったことなど最近は記憶にない。おれを下がらすような攻撃を凜がしたのだ。本気になりかかる気分を散らすには必要なことだと自分を納得させる。

「おまえ、強いな」

 意識しないでそう声を掛けてしまった。

 あぁ-、まずい。自分でも気がつかないうちに、すでに切り替わってしまっていた。このままこの娘と戦いたいと思ってしまった。

「ホンキだしなさいよ」

 引く気配がない。でも実力差は分かっている筈だ。先ほどから蒼白で悲壮な表情を浮かべている。

 しかしこちらに向ける殺気は衰える素振りはまったくない。気が強い。そして負けず嫌いなところがいい。

 おれはニヤリと微笑んだ。

 ホンキになろう。

 殺し合うのかって?

 もちろんそんな事はしない。殺してしまってはもったいない。おれはこの娘をおもちゃにすることを決めた。

 ショートカットの髪の毛をロン毛にして、そうだな顔はそのままでも充分見応えがあるからいじる必要はないだろう。するとあとは胸か。

 いまのままでもそれなりにあるが、中途半端だ。

 おれは益田女史を見た。

 見事なほど巨乳だ。クールビューティで巨乳。しかも年上だ。

 ならばこの娘の胸はその対極のツルペタであるべきだろう。

 その方がからかい甲斐もある。

 おれはそう決めるとポケットから縄を取り出す。

 これで縛ればおれの勝ちだろう。

 この縄は束縛対象を傷付けずに縛り上げる神具で絶対に千切れることがないらしい。おれはこれを昔、おれを倒そうとしたやつから奪った。そいつがそういうから、試しに力をいれると千切れたし、ギュッとしばったらそいつはあっさり圧搾死してしまったので本当かどうか分からないが、確かに優しく使えば相手を傷付けないので最近のおれのお気に入りの武器だった。 ん、武器ではない気がするが気にしないでおく。

「ホンキにならないなら、ホンキにさせてあげる」

 凜が何かしようとしている。興味があったので縄を片手にもって様子を見る。

 凜に死相が出ている。いまからこれで大丈夫なのか心配になってくる。でもおれは凜を殺すつもりはないから大丈夫だ。だから安心してくれ。

「わたしはあんたをホンキにさせる方法を知っている」

 何をこの娘は言っているのだ? そんなもの知っていてもよい事なんかひとつもない。そんなに早死にしたいのか。

「益田、さん。これは一体どういう事かな?」

 おれは横を向いてちょっとだけ益田女史に殺気を放った。微動だもしないのは立派だったが、僅かに口元がピクピク痙攣しているから内心は答えているはずだ。

「私ではない。校長だ」

「まあ、益田さんがそんなことするとは思ってないけど、一応念のためにね」

 おれは肩をすくませた。少し離れた所で見学している校長を見る。どうやら校長は死にたがっているようだから近々望みを叶えてあげる事にする。そう思っていると何故か益田女史に睨まれた。

 麗人に睨まれるのこれはこれでいいかも知れない。

「暴君ヤミカゲ!」

 凜を放っておいたら、そう叫ばれた。

 あ、やばい。

 油断していたから、やさしく制御することができず普通に縄を振ってしまった。

 このままだと凜が上半身と下半身に分かれてしまう。

「凜、伏せなさい!」

 益田女史の叫び。

 でもダメだ。間に合わない。

 あーあ、もったいない。

 残念だけれど凜は死ぬ。

 おれの縄に体を切断されてしまうのは、それはもう仕方がないことでおれに出来るのは最期の瞬間を見届けることくらいだった。

 自業自得と思ってくれ。

 なむあみおだぶつ。またはアーメン。

 縄が凜のあまりくびれのない胸と腰の間のウエストに触れる。

 次の瞬間、凜の上半身と下半身が分断される。

 ………

 ……

 …

 はずだった。

「おぉー!?」

 おれは久し振りに驚いた。

 凜は縄を両手で掴んで防いでいる。

 おれの縄をどうやって掴んだんだ?

 なんで腕が千切れていない?

 なんでその場で立っていられる?」

 束縛専用で絶対に相手を傷付けない筈の神具であってもおれが普通の力でムチのように振り回したのに凜は耐えたのだ。

「おどろいた。凜、おまえすごいよ」

 賞賛した。

 ラッキーだ。こんなに運が良いのは久し振りだ。

 鍛えればもしかしたらおれの相手ができるかもしれない。そう思うと歓喜してしまう。それに凜以上の逸材が天草学院にいるかもしれないと思うと、これからの生活がとても楽しみだ。

「勝負あり、誰か救急車を呼んで」

 益田女史が叫んで凜に駈け寄った。

 凜は立ったまま気絶していた。

「うーん、やっぱり無理だったか。でも根性はあるみたいだからこれから鍛えれば何とかなるかも」

 凜の両腕は折れてありえない角度に曲がっていた。そしてウエストに折れた拳がめり込んでいる。痛々しい。

 でも、死んでいないから、良しとしよう。

 益田女史がバケモノを見るような目でこちらを睨んでいる気がするが、精神的にへこたれそうなので、気のせいだと思っておく。

 救急車で運ばれる凜のことがとても気になったので病院の場所を聞いておく。

「心配しないで、あればあくまで試合中の事故だからキミにに責任はないから」

 救急車に乗り込む時に益田女史にそう言われたが別に心配している訳ではないので、そう言おうと思ったがその前に救急車の後ドアが閉められた。

「凜か」

 偶然に良いおもちゃを見つけて、おれは満悦になった。


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