1-7 不幸なナナルジアさん
サッサッサッサッサッ
もう太陽はかなり高いところにある。
村を朝早く出て、結構時間はたった。
そして森の中。
後ろに光る目と牙。
何で逃げ回ってるんだ~~~~~!!!
『おい!早く走らんか!食われるぞ』
んなこた~1時間前から分かってる。いったいどんだけ体力あるんだ、あの黒いライオン。
『主人、しっかり話を聞け。よい策がある。魔法を使うんじゃ』
オーケーとっとと使え。
『我が使ったら主人が置いてきぼりになるじゃろ。別に良いのじゃが。主人が使え。憑依してるから我も逃げれるということじゃ』
どうやって使うんだ?早く教えろ。
日の光が入ってこず、木の根だらけでまともに走れない。
が、後ろのでっかいライオンはさらにてこずってるらしい。木にぶつかりながら追ってきてる。
『自己加速の術を教える。呪文はソラフだ。唱えながら魔力を自分に向けて放出しろ』
わかった!、いや、分からん!でもやってみるぞ。
「ソラフ!」
唱えながら、自分が早く動くことをイメージする。
ガンッ!!!
100mほど先にあった木が一瞬で目の前に現れ、かわせるはずもなく、激突した。
『事故加速じゃな・・・・』
クラクラする視界には山、そして村。
「ここは、どこだ?」
でこが痛い、そういえば木にぶつかったような・・・
「気がつきましたか?」
どうやらここは家のようだ。木の天井があり、おお!!わらのような物(以下、わら)の上にいる。
前の村よりはよさそうだ。
「ええ~っと、あなたは?」
「私はナナルジアといいます。そこの窓からあなたが倒れているのが見えたので」
赤い髪が小さめの体によく似合っている。年は40ちょいぐらいだろうか、感じのよさそうなおばさんと、いった感じだ。
「あっ、ありがとうございましたナナルジアさん。ぼくは、・・ジョーカーといいます。あなたに運んでもらわなきゃ、今頃ライオンの餌でしたよ」
「運び込んだのは猫の精霊です。いつの間にかいなくなってたんですけど。精霊が自分で魔法を使うなんてすごいですね。あと、ライオンとは何ですか」
「いや、別にいいです。それより何かお礼が出来ればいいんですが」
ナナルジアさんは、少し考えて、
「ジョーカーさんは、いろんなところに行かれるんですか」
「え~、はい、そのつもりです」
「では、この指輪と、手紙を届けてもらいたいんです。グラスクという人なんですが」
「どこにいるか分かるんですか?」
感じの良い笑顔が、途切れた。
「その・・それが、分からないんです、20年ほど前この指輪を置いていなくなってしまって」
「・・・・そうなんですか。はい!いいですよグラスクさんですね」
元気良く答えようと思ったが、わざとらし過ぎて、自分の演技力に自信をなくす。
「ありがとうございます。今から手紙を書きますので」
ナナルジアさんは炭で、紙に何か書き始めた。
『主人、ほんとに頼みを断らないな』
俺の主義だ、というか俺を持ち上げるようなことが出来るのか。
『そんなの朝飯前じゃ』
俺より余裕で強いんじゃないか、などと考えながら視を横にずらすと、1枚の写真が目に付いた。
白黒だがなかなか良く出来ているな。この世界にも写真があるのか。
『魔法を使っておる』
ああ、そっか。
若いころのナナルジアさんと、おそらくグラスクさんだろう、背の高い男の人が写っている。
そして、その手には一人ずつ赤ちゃんが抱かれている。
「この赤ちゃんは?」
「・・・この子達は双子なんですが、・・家を出て行ってしまって」
「そうですか」
ミスった、聞かなきゃ良かった。最初の沈黙あたりできずいてたぜ。
ナナルジアさん、だいぶ苦労してるな・・・・。
空気が大型トラック並みに重い。
「書けました。はい、お願いします。ゆっくりしていって下さって良いですから」
「いや、もう行きます。町に用があるんで」
町の役所っぽい所に血液取引の証明書をわたして、人が拉致されるのを止めさせてもらうために町を目指しているところだ、もたもたしてられない。
「ありがとうございました」
『主人もやるのぉ。ファ~~ア』
そっちは欠伸なんか出来ていいよな。こっちは必死で走ってんだぞ。
『自己加速の術でも慣れるのに3ヶ月はかかるぞ』
車でも体感したことのない速さで、山を登っているが、道が整備されていて走りやすい。
整備といっても木と草がないだけだが(山のこちら側はショボイ村しかないからこんなもんだろう)、だいぶ早くつきそうだ。
『・・・なあ主人、ほんとにヴァンパイアの国を潰してもらうのか?』
そりゃそうだろ。あんなことを続けられては大変だからな。レイシーさんにも言っちゃったし。あの屋敷は焼くって言ってたが、元を潰さないことには、また人がさらわれるかもしれない。
第一、暇だし。
『そうか。主人もお人よしじゃのう』
冗談言うな、お礼にお金がほしいだけだよ。
「あと一日ここに泊まる好きに行動してくれていいぞ」
今頃焼かれてるであろう、屋敷のヴァンパイアは人さらいたちに、うれしそうに言った。
実際地下にいてうれしい人さらいなど15人のうち一人もいないはずだった。
「明日やるぞ」
「ああ、分かった」
深長差の大きい新入り2人はとある作戦を考えていた。
「とうとう明日か、どこにあいつはいるんだ?」
「この国の1番奥の、でっかい家に住んでるらしい」
「そうか、あの糞じじいを叩き潰してやる」
ふぅ~。で、これからどうする。
結局もらえたお礼は赤3枚だけだった。
『そうじゃのう・・・・まずその服装をどうかしたらどうじゃ』
どうかってねぇ~。
汚れたカッターシャツと、破れまくっている紺のズボン。
対する町人は、上は、布の袋に穴三つ空けただけ。下は、布1枚で作った短パンだ。
同じようで違う・・・服買いに行くか。
ここ、ビシュームの町は、道路は土だが家が木から石になってる。
その家が隙間も無く並んでいるので、結構大きな町なのだろう(これまで町をいくつも見てるわけではないが、ここまでの村からすると、かなり都会だ。)
町役所から歩いて10分ほどで、服屋はあった。
大通りに店が大量に並んでいるので、見つけるのは簡単だった。
この世界初のショッピングは何事もなく終わった。が・・・
『似合わんの~』
その言葉に偽りはなかった。全くなかった。5文字と伸ばし棒、どれひとつとして嘘はなかった。