6-終 勇者の誕生
山からは今までの倍を越える魔物がこちらに向かっている。
防衛隊も動き始めた。
さて、我はどう動こうか。
この状況は、我々が必死に頑張ってどうにかなるものではない。
そんな事は経験で分かる。
しかし、唯一この大群を止める、あるいは倒すことができる者が居るとしたら、あの男だろう。
いきなり現れた謎の男。
我が剣をとめるほどの、恐ろしい魔力を持つあの男。
ならば、アルメルナの交渉が終わるまで、それまで粘り、ここを守るのが我らの役目だろう。
「総裁、防衛隊を全て守りにあてろ。
交渉が成功に終わるのを待つしかない」
「分かりました、奇跡の錬金術師様」
まだ若い防衛隊総裁はすぐに指令を出し始めた。
総裁にさま付けで呼ばれるとは、われも随分偉くなったようじゃ。
我はすぐに金で円盤を作りその上に乗った。
次に目指すのはこちらの軍の最前線。
敵の大群まであまり距離がない。
近くには転移術師も居た。
地面に降りるとすぐに地面に手を当て、錬金の準備を始める。
「周りのものを少し下げろ、敵の通路ふさぐ!」
「分かった」
転移術師は素早く一回頷くと周りのものを後ろに下がらした。
頑張れ的な言葉は無いのか?
錬金術も結構体力勝負だ。
こんなに大規模なものはしたこともない。
どうなるかも分からん。
できるかどうかもわからん。
われが生きていられるかも分からん。
しかし、やらないわけにはいかない。
これがわれにできる最高の時間稼ぎ。
これは我の役目だ。
「アルケー」
唱えると同時に地面が光り始めた。
その眩しさに魔物たちの動きも一瞬止まる。
周りを被う黒い雲が金色に照らされた。
そして、地面が少し揺れた。
少しぼやける視界には、教会を囲む金の壁が現れていた。
「さすがね」
転移術師はそれだけ言って、われの体を転移させた。
もう少し何かないのか? と、言う気力もなく、我は簡易治療所の毛布の上で意識を失った。
「・・・・・え?」
窓から見えていた教会が金の壁で囲まれた・・・・のは3分ほど前。
今、その壁が吹き飛んだ。
バーン! と大きな音が遅れて届いた。
「え、何?」
目の前の魔王が振り向く。
「ひゃっ!」
短い悲鳴を上げて、馬車から出て行った。
手に持っていた何かを投げ捨てて。
そりゃそうだな。
金色のでかい破片がこっちに飛んできてる。
当然ながら俺は逃げなければいけない。
その前に、手を縛っている縄を外さないといけない。
俺は右手に意識を集中させた。
すぐに縄は灰になった。
重い通りの大きさの炎が作れた。
便利便利。
これでやっと立てた。
さて、もう時間がない。
もしかしたら。
いや、それはアニメとマンガとゲームの世界か?
しかし、今の感じからすると、俺は右手からドラゴンの吐く炎のようなものが出せる気がした。
そんなことを考えている間に破片は目の前。
逃げる時間すらない。
・・・・よし、死ぬか、生きるか、二つに一つ。
どうせ避けてもどこかに被害が出るだろう。
山のふもとまで転がっていくだろうし。
俺は右手を破片に向けた。
左手は添えるべきか?
そのほうがかっこいいし添えておこう。
俺は再び意識を集中させた。
ドラゴンが吐く炎。
炎!!
思い描いたとおりの炎が現れ、金の破片にぶつかった。
破片は液状になり、勢いを失って落ちた。
つまり死なずに済んだ。
いまさらながら怖い。
怖いという感覚が鈍ったかも。
俺は焼けてなくなった馬車の後ろ部分から降りた。
人がたくさん居る。
山の頂上付近では、壊れた壁からぞろぞろ出てくる、モンスター。
おい、周りのやつら、そんなに俺を見るな。
恥ずかしいだろう。
どうやら、馬車のすぐ先にはだれも居なかったようで、高温の金の液体に包まれて死ぬなんて事は起こらなかったようだ。
「ついでだ。
このままあのモンスターたちも倒す」
なぜか歓声があがる。
とっても勇者気分だ。
久しぶりの自己加速。
前よりも早くないか?
まあいい。
俺の後ろには何万の軍。
その先を俺が走る。
顔に当たる風が気持ちいいぐらいの速さで走る。
全力で走ったら風で目が開かない。
俺はでっかいやつを選んで焼いていった。
炎を3回。
4回。
次は殴る。
そういえば空も飛べた。
「フーマスク!!」
空を進むのも速い。
さっきから岩を落としてくる闇竜。
あいつらを落とす。
俺に気づいた途端に逃げていくあいつらが面白いな。
まあ、俺から逃げられるはずがないけど。
しかし、闇竜たちは下を向いた。
どんどんと加速していく。
こいつら、自爆特攻でも仕掛けるつもりか?
4匹ともがものすごい速さで落ちていく。
間に合わない。
闇竜が地面にぶつかるまであと3秒。
2秒。
1秒。
0・・・4匹の動きは止まった。
地上すれすれで、物理の法則を全く無視して止まった。
4匹の周りに巨大な白い紋章が浮かぶ。
闇竜の体が白く光る。
紋章は4匹の竜を包み込み、そして闇竜ごと消えた。
俺はあることを思い出してすぐに地上へ向かった。
(このまま空に居ても意味ないし)
「100年前の魔王戦で自らを犠牲に闇竜を封印した英雄」
モンスターたちは大分、教会の方へ追い詰められていた。
そこでは、一本の見覚えのある剣を囲んで人々が悲しんでいた。
馬車の中の魔王はその中で涙を流していた。
「私を、私を守るために・・・うう」
「泣くな、お前のせいではない。
彼がこうする、こうなる事を望み、そうなっただけじゃ」
アル、だよな?
そこの金髪のちっちゃいの。
アルが語ってるぞ。
何か悲しい雰囲気が漂っている。
一応行っておくが、俺がこんなに普通なのは、心が腐ってるからでは無いぞ。
だれがどうなったのか知らないだけだ。
だれ??
闇竜を消してくれたのだれ?? 的な心境だ。
その時、一人の兵士が呟いた。
「魔王、だ」
恐怖がすぐに広がる、気がした。
「アルメルナ、今は目の前の事を済ますぞ、あいつの行動を無駄にする訳にはいかないだろう。
そこのお前も、頼む」
え、ここで俺?
「分かった、分かった」
お前アルだろ?
まあ、返事はする。
馬車の中の魔王も、復活したようだ。
「援護する、いきなりで済まない。
この世界を救ってくれ」
さてと、こういう展開の時はいつも「いいえ」のコマンドを選び続けていた俺だが、実際言われてみると断りづらい。
「分かった」
さっさと終わらして事情を聞かせてもらおう。
と、教会の方を見る。
魔王がこちらを見ている。
黒人のおっさんにしか見えない。
「やつの動きを止めてくれればいい。
私があいつをこの石盤に封印する」
ああ、それね。
見たことある円形のアイテム。
the封印の石盤。
「そんじゃあ、行きますか」
何かが頭の中で繋がった気がしたが、それは後で確かめよう。
俺たちは走り出した。
敵も走り出した。
何千、何万の人間と、それと同等の数のモンスターがぶつかる。
モンスターの奥の方には魔王が見える。
人の持つ、剣、槍、魔法とモンスターの爪、牙、体がぶつかり合う。
想像をかなり超える激しい戦いはすぐに始まった。
その中で、俺は先に進み続ける。(倒し続けるが正しいか? いや、それは俺の都合か。恐らくは殺し続けるが正しい)
なぜ、敵の陣地に進んでいくかと言うと、周りの仲間に被害が出ないように。
目の前の敵は焼く、消す。
炎と魔法を同時に使い続けながら、俺は山を走った。
もう何十回目かの炎を放ったとき、その炎がいきなり消された。
消されたと言うより、勢いを止められて、そのまま自然消滅。
懐かしのソウが、確か魔力をそのまま燃やしてるって言ってたから、だした魔力が尽きれば消えるんだろう。
その、炎の勢いを消した存在を見る。
やっぱり。
黒い肌に黒い服、黒い髪、そして杖。
いつか見た魔王よりも、少し健康そうな魔王がそこに居る。
「エクシステンスデリート!」
先に仕掛けたのはこっち。
動きを止めろとかいわれた気がするが、存在消去魔法発動。
黒い球は魔王へ飛んでいく。
魔王は杖をふりながら唱える。
「デジャーマアールド」
黒い球は、壁に弾かれ魔力に変わる、って誰かが言ってた気がする。
目に見えない何かがそこから吹き出した。
風のようで抵抗がない。
これが魔力のもともとの姿だろう。
「おぬし、その魔法はどこで知った?」
「ソウに教えてもらった」
「メギ・ランジェン」
おい、答えてる間に、魔法を使うな。
「デジャーマ・アールド」
突然現れた青い電撃が、届く前に、俺は魔法を唱えた。
「ほう、なぜ使える」
「普通は使えないものなのか?」
「かなりの修行を積むものじゃ」
「ああ、知らん」
「その魔力の量。
貴様は何者だ」
魔力は普通は見えないと思うんだが、魔王には分かるらしい。
「生まれつきだ、いや、落ちてきたときからだから、生まれつきじゃないか」
その時、最後のモンスターの壁が破れ、馬車の中の魔王、アル、勇者と一緒に居た女の子、防衛隊特殊部隊の女の子、その他一般兵士が追いついて来た。
「魔王め、ここでお前を倒す!!」
「この数ではこちらが不利、か。
最後に少しでもこいつを使ってやる」
魔王はそう答え、そして
「う、うああああああ、ああああああああ!!」
いきなり叫び出した。
魔王の体が浮く。
「どうなっている?」
「あ、あああ、あああああ、ぐあああああああああああ!!!!!!」
魔王の手が不自然にカクカクと動く。
魔王の周りに火の玉が次々と現れる。
気温がたぶん上がっている。(自分の手が燃えてても暑さ感じない俺にはよく分からん)
そして野球ボールほどの火球の増加は、次第に止まる。
「ただの優秀な男じゃここまでじゃな」
魔王が半分壊れたような声を出す。
そして火球が集まる。
見たことのある動き・・・・・
2年と少し前ヴァンパイアの国で見た魔法・・・・・
火の球は巨大になりながら、エネルギーが溜まっていく。
「ニヤァア!!!」
ゴゴゴゴ、と火の動く音の隙間から、魔王の声。
俺は右手を上に上げた。
魔王の火の玉の爆発と、俺の手が炎を吹き出すのは同時。
その二つが空中でぶつかる、交じり合う、はじける。
あまりに大きいエネルギーの衝突で衝撃波が生まれる。
目をつぶっていても、まぶたを超えてくるほどの光、ものすごい熱。(後者は予想)
俺は炎を出し続けた。
爆発がこちらに降りかからないように。
やがて、何時間にも感じられた爆発は、やがて勢いをなくした。
恐らく一瞬だったんだろう。
爆発は止まり、そして俺の炎も消えた。
自分で止めたのではない。
たぶん魔力か体力か精神力がつきたんだろう。
はぁ。
周りの音がなくなる。
俺はようやく目を開けた。
目の前に残ったのはかろうじて生きている魔王。
かなり壊れた教会。
黒い雲は次第に消えて、太陽の光が差し込んだ。
周りの仲間たちも動き始めた。
「終わったのか」
それをだれが言ったのかは分からない。
その言葉を引き金に、あちこちから歓声が上がる。
「わー」や「あー」や「おー」
下を向くと、ボロボロになりながらも、叫ぶ人々。
皆、笑ってる。
でも、俺は笑えない。
俺は、眼を開けるのもつらそうな魔王へ歩み寄った。
その顔は何も感じていないように見えた。
俺は一つ質問をした。
「あんた、赤い猫に名前、つけたことある?」
俺は山の向こうに揺れる、懐かしい尻尾をみた。
すぐに魔王の封印が始まり、終わった。
アルメルナが俺に近寄ってきた。
「もっと喜べよ、いきなり現れた勇者様」
大勢の兵士たちが、俺に向かって勇者コールをしている。
「この世界が滅びようと、お前にはどうでも良いことかもしれんがな」
俺はアルメルナにも質問をした。
「お前の好きな色は白か?」
「ん? ああ、そうだな」
「俺が・・・・・・勇者様か」
読んでくださってありがとうございました。
作者が喜びます。
もう少し先まで書きたかったんですが、もう受験なので無理矢理ながら終わります。