6-5 二人の魔王
状況は改善した。
いや、悪化した。
「お前が魔王なのはもう分かった!」
と、目の前の女の子が言っている。
「だから違・・・」
「だれが空から降ってきた怪しい男を、一般人だと思う?
どこに上級魔法を超える初級魔法を使うやつがいる?」
「今ここに目の前に・・・」
「とりあえずお前は捕まえる」
反論の言葉は全く通用しない。
あと、とりあえずで捕まえるな。
一体俺が何をしたと?
「おい、そこのお前、こいつを捕まえろ」
鋭い目つきと共に、目の前の少女は気の弱そうな男に指示を出した。
そいつが選ばれた理由は、たぶん、近くに居たからだろう。
「いえ、しかし、アルメルナ様・・・」
アルメルナ?
聞いた事あるような気もするが、見たことない顔だし気のせいだろう。
「早くしないか!」
そこのお前、は、後ずさっていく。
たぶん、このアルメルナと言う奴は相当恐ろしいやつなんだろう。
自分より下のものをこき使っているに違いない。
なんてひどいやつだ。
「す、すすす、すいません!!
まだ死にたくありません!!
家で妻も子供も待ってるんです!!」
そんなやつは仲間に裏切られて死んでしまえ、ではなかったようだ。
「俺は殺人鬼か!?」
「何を怖がっている?
お前が世界を救えるたった一度のチャンスだぞ!!」
俺はスルーか?
「ここで魔王を捕まえたら、お前は勇者だ!」
待て、そこのお前、悩むな。
そこのお前、決心したように頷くな。
そこのお前、こっちに来るな。
「そこのお前、バカだろ。
まず、手ぶらでどうやって捕まえる?」
俺は立ち上がった。
(立ち上がったと言うのも、今まで正座させられてた。)
何ともひどい扱いだ。
相手の言葉が分かると思ったら、いきなり「そこに座れ」だ。
(座れというのも、それまで俺は顔を地面に埋めたまま、悶えていた。
そして今話のはじめに続く。)
第一、俺何にも聞いてもらってないよ。
こっちの言葉も通じてるよね?
「俺は魔王じゃない。
一般人だ!!」
向こうの方で言い合いが続く頃、私たちは馬車の中でゆっくりとしゃべっていた。
「さっきは良かったぞ、言葉を通じるようにするだけでなく、交渉の作戦を練る時間まで作るとは」
笑いながらそういわれても。
「あれはたまたまと言うか、基本的にあなたのせいよね」
全く、なんていう不意打ち。
便利な力を適当に振り回して、こっちが大変だ。
「あれはちょっと方向がずれただけよ。
よくあること」
「それ以前に、勝手に人を瞬間移動させるなって事」
「それは・・・・・まあ、結果オーケーじゃん」
「でも、私がどれだけ驚いたか――」
「まあ、いいじゃないか。
全て作戦通り進んでいるぞ。
しかも、いい方向に」
私たちが考えていた作戦は2つあった。
悪い方向といい方向。
悪い方向は、彼が私たちに攻撃する意思がある事がわかった場合。
そうしたら全員で攻撃することになっていた。
こんな適当な作戦になったのは、今まであっちからは何もしてきていないから大丈夫だろう、と言うことになったから。
そして、いい方向は、彼に戦う意思がなく、魔王でもない場合。
こっちは皆で30秒ほど会議した。
会議の結果、魔王退治を手伝ってくれるようにお願いしよう、と言う案が出てきて、結局、戦う意思がないなら彼と話し合って決めることになった。
それで、彼が敵か敵じゃないかを見極める役になったのがアルメルナさん。
私は止めようとしたけど、本人が良いって言ってので止めなかった、と言うより、本人が
やりたがっていたような気もしたので止めれなかった。
まあ、実際上手く行ってるみたいだから、良かったことにしよう。
今、彼が縄に縛られ、一番頑丈な馬車に連れ込まれているところだ。
このまま話し合いが上手く行けば、棚から牡丹餅。
魔王戦の一歩前で大きな戦力を手にしたことになる。
「上手く行きますかね、話し合い」
「全く抵抗してないし、大丈夫じゃろ」
「でも、あの様子じゃ脅迫じゃない?
アルメルナ、ロングソードを持って入ったけど」
なんだか可哀想になってくる。
バタンと鈍い音をたてて扉が閉まる。
馬車は、中に入れる人数を優先したのかかなり広く、椅子や荷物置き場がない。つり革も冷暖房もない。
あるのは扉と、壁の高い所にある、横長くて薄い窓ぐらいだ。
あと、言うとすれば鉄でところどころ補強されている。
そして俺の手が縄で巻かれているのはなぜだ?
とりあえず俺は床に座った。
拷問部屋、いや馬車の扉が再び開く。
アルメルナと呼ばれた女が入ってきやがった。
顔だけは綺麗だが中身は真っ黒だ。
いつか仕返ししてやる。
いや、この先ずっと仕返しし続けてやる。
「ゴホン」
咳払いをしながら近づいてきた。
なぜか両手を後ろに隠している。
そして笑っている。
そこで俺はあることに気づいた。
窓から見える山の頂上の教会の扉が開き始めている。
窓の位置は拷問官、いやアルメルナという女の後ろだ。
彼女には分かっていない。
「後ろを向け!!」
俺は叫んだ。
しかし彼女は動かない。
「おっ、隠していたのにもう気づいたか。
そんなに早くばれるとは思ってなかったな」
あれは隠していたのか?
教会の扉からは魔物がどんどん出て来るんだが。
「そんな恐ろしいものを何のために?」
俺は彼女に聞く。
人間があんなに多くの魔物を操れるのか?
「もちろん、お前のためだが、どうかしたか?」
なんだと!!
あんな量の魔物に勝てるはずがない。
あ、いや、たぶんない。
第一、今の自分は前より強いらしいが、どんぐらいなのか分からない。
しかし、扉からはどんどん出てくる。
「俺を殺すつもりなのか?」
彼女は後ろにしていた手を少し動かした。
何か光った気もしたが、それどころではない。
「お前の答えによっては、首をスパンだ」
彼女は両手を前に出した。
何か長いものを握っている。
しかし、俺の目にはそんなものは映らない。
俺の目は、教会の扉を壊して現れた、鬼のような怪物に釘付け状態だった。
その鬼が持っている斧はあまりにも大きく、鋭そうだ。
恐らくあれで切られるのだろうか?
「・・・大きくて、鋭い」
恐怖は俺の口を勝手に動かす。
「そうだろう」
目の前の魔王はにっこりと微笑んだ。
外は徐々に騒がしくなっている。
俺はまた教会をみた。
そこには見たことのある服装と、見たことのある杖をもった、黒人のおっさんが居た。
「待て」
「まあ、そうあせるな。
答えによっては、首を切るような事はしない」
この世界に二人目の魔王が現れた。
久しぶりの更新です。
すいません、最近は勉強に塾にモンハンに忙しいです。
あと、そろそろガチで勉強しないとまずいので(既にまずいですけど)そろそろこの話を終わらせるつもりです。
受験終わったら、また続きとか、他のとか書くかもしれませんが、それまでは少しキツイです。