6-3 救出劇
その瞬間、世界が凍った気がした。
「な、なんで・・・」
光の中からは一人の男が現れた。
遠くの方からは戦いの音が聞こえる。
この状況を見ていない兵士たちは今も山頂の魔王を目指して戦っている。
しかし、私の前には男が居る。
黒い髪。
真っ黒いがつやのある、不思議な色。
魔王だ。
魔力に常人よりも敏感な私には分かった。
その体からは、今まで感じた事のないほどの魔力が流れ出ていた。
「皆、離れろ!!」
叫び、自分も距離をとる。
固まっていた周りの兵士たちが動きはじめる。
「魔王だ!!!」
すぐに、男の半径3m以内にはだれも居なくなった。
やつは動かない。
まさか、自ら先頭に現れるなんて。
「喰らえ!!」
最初に動いたのは、錬金術師。
男の上から、巨大な金の柱が振り下ろされる。
しかし、男は動かずに首をわずかに上に向け、口を開いた。
「ビスタ!」
初級魔法。
そんなもので止められるはずがない。
錬金術師の異様な物体の加速により、風が生じる。
その風が、山肌の乾いた土を巻き上げ、私は目をつぶった。
風が止んで目を開けたとき、そこには先程と変わらない黒髪の男と、まるで写真の様に固まった金の柱があった。
あたりは静まり返った。
その中で聞こえる、聖術の詠唱。
「・・・邪なるものに神の加護と神秘の欠片をここに見せよ、世界の制裁を!」
――ジャッグルホーりー!!
ジャッグルホーりーの聖術。
無系統であるが、伝説と呼ばれる光系統に近い魔法。
魔の王と呼ばれるものに、効果のないはずがない。
すぐに、男の周りに光る粒が現れる。
ビー玉だいのその粒が、男に一斉に襲い掛かる。
「デジャーマ・アールド!」
しかし、その粒は男の一声で散り散りになって消えた。
男の周りに、光る粉が舞う。
それはあまりに美しく、しかしそれが恐怖を引き立たせる。
魔に対するスペシャリスト、ジャッグルホーりーの魔法が全く効かなかった。
それは、もう単独の魔法は、この男には効かないと言うことだ。
残る手段は多人数での、一斉攻撃。
しかし、この状況ではそんな用意はできない。
逃げるにしても、もう敵は目の前だ。
どうすればいいの?
ふと、足に目をやると足が震えているのが分かった。
寒いのに手の平には汗を握っていた。
怖い。
今まで気づかなかった。
考えようにも頭が焦りと恐怖で働かない。
どうしよう。
私がパニックに陥っていると、とうとう男がこちらを向いた。
黒い髪の隙間からは真っ黒い目。
そして、唇の薄い口が開いた。
「ビスタ!」
物体の運動を遅くする、初級魔法。
そんな常識はもう関係ない。
喰らったら確実に動けない。
金の柱はもう5秒間は止まっている。
動きは全くない。
諦めた、と言うか体が動くのをやめた。
これが、動きを止められる感触なのかな。
魔王とはこんな存在だったのか。
無駄な抵抗だったのかも知れない。
でも、私はここで終わる。
そうだ。
もう何もかもどうでもいいんだ。
男はゆっくりと近づいてきた。
そして、少し細めの腕をこちらに伸ばす。
そして・・・・・・?
男は私の腕を掴んだ。
「ひゃっ!」
冷たい感触が肌を伝わる。
反射的に声が出た。
あれ?
声は出るのか?
そして、腕が引っ張られた。
二、三歩前へ進んだ。
周りの人々は何も動かない。
なぜか不思議そうな顔や、驚いた顔でこちらを見ているが何でだろう?
そして、
「ヒェアイヅェジフェナイ」
「へ?」
「ヴァエイウフィサエイ、ケイウダ、ケイウダ」
男が何を言っているのか分からなかったが、私は男の指のさす方向を見た。
そこにはさっき落ちてきたやつぐらいの大きさの石が、空中で止まっていた。
おいおい。
おいおい。
おいおいおいおいおいおいおいおいおい。
何か見たことある光景だ。
この山。
はっきり言わせて貰おう。
おかしい。
俺は家へと向かっていたんじゃなかったか?
そっちは合ってるよな。
そして、気がついたらこれだ。
いや、途中で野生の雷が現れた気がする。
んで、目の前が真っ白になって、と。
ここまでは、はっきりしている。
そして、今こうだ。
分かりやすく言うと、空は黒い雲に覆われ、山の斜面は草がまばらに生えていて、武器を持った人達や、髪の色が日本人とは思えない方々がぞろぞろ。
ついでに、俺を中心とした人垣の向こうには、地球上の生き物とは思えない様々な奇形。
空には、二年ほど前に一匹存在を消したと思うんだが、4匹の黒いドラゴンさん。
・・・・・恐らく。
恐らく、雷に打たれた後、気を失い、色々あって、こうなったんだろう。
とりあえず、突っ込んできた金の棒は、記憶にあったビスタ。
おっ、止まった。
俺、今使えてなかったら死んでたよな。
もう、危険感知能力が働いてないや。
ん?
周りに出てきたこの光ってるのは何だ?
え~と、たしか魔王が使ってた魔法があったはず。
「デジャーマ・アールド!」
うお、周りの粒が粉々になって消えた。
良かった、合ってた。
っておい。
何かドラゴンが落としてきたぞ。
でかい石か?
おいおい、危ないな。
「ビスタ!」
よし、ピタッと止まった。
便利、便利。
ありゃ?
石の下敷きになるかもしれなかった、子が固まってる。
っていうか、だれもしゃべらないし、動かない。
気まずいな。
でも、あのままじゃいつか落ちるんじゃないか、あの石。
とりあえず避難させないと。
はぁ、また忙しいなあ、こっち側の世界は。
どうやらまたあの世界だ。
あの直後かな?
なんかアルとマアサ居るし。
俺は浮いたまま止まっている石の下に居る、女の人を引っ張って避難させた。
なんか悲鳴上げられたんだけど、嫌われてんのか?
俺なんかしたか?
何もしてないぞ?
そもそも、なにかする暇がなかったぞ。
まあ良いや、とりあえず。
「これで大丈夫」
「ヒェ?」
「ああ、後ろ後ろ」
俺は浮いている石を指差した。
やっと、テストが終わりました。
もう、受験って感じです。
暇なときに書いていきます。