6-2 時間転倒(タイムスリップ)
黒い。
果てしなく黒い雲が空を覆っている。
正直怖い。
いや、怖いのが普通なのかな?
しかし、今私は英雄なのだ。
この山の奥に居ると言う魔王を倒すために集められた、9人の英雄のうちの一人なのだ。
魔王が現れてから50年ほど。
魔王の恐怖の中で作り上げられた希望の9人なのだ。
逃げるわけには行かない。
(行くぞ、アルメルナ)
そう自分に言い聞かせ、私は魔物の群れへと向かう。
とうとう、最後の戦いが始まった。
人間が生き残るか、生き残らないかの。
冷たい風が顔に当たる。
やっぱり山の上は寒い。
ここなら。
「ギラ・ダン・ヒョーダ!!」
私は氷系統の中級魔法を唱えた。
体の回りにできた、十数個の小さな氷の棘が魔物の群れへと放たれる。
勇ましく駆けてきた、四足歩行の小型魔物に棘が刺さる。
魔物は血を流しながら後ろへと飛んだ。
周りの魔物にも棘は刺さる。
「飛ばしすぎじゃないか、アルメルナ?」
山を走る私の横に降りてきたのは、金の円盤に乗った奇跡の錬金術師。
そういう彼女も、体3つぶんぐらいの金の棒を振り回している。
「魔法は、魔力を消費するんだろう?
ここで使いすぎると、魔王と戦えんぞ」
小さいくせに生意気な。
「これでも、人間の中では一番魔力があるんですよ」
「そうか、そうか」
むかつく。
むかついたときは、押さえずに発散するべき。
「ギラ・シャルス・ヒョーダ!!」
薄い三日月型の氷の板が現れる。
普通は投げたり、無系統魔法で飛ばしたりするものだが、今はしない。
私はそれを掴んだ。
それで、突っ込んできた飛行型の魔物を切る。
私を狙っていた鋭い爪は、翼が片方なくなったことにより、外れた。
「うお、見た目からは想像もつかぬ力じゃな」
「魔法で強化してるんです!」
足はもう止めている。
魔物と人間の戦いは始まった。
ここは、魔王と人間の境目。
戦いの最前線になった。
本当は、私たちは後ろの方のはずだけど、この際身分なんか考えてられない。
私は詠唱のため、少し下がった。
魔物の足元に霧が発生する。
すでに冷たい空気を、さらに冷やしてできた水滴だ。
「ギラ・バールズ・ヒョーダ!!」
そして、その水滴が氷に変わる。
魔物の足元が氷で覆われた。
しかし、こちらの硬直も大きい。
魔物の群れの奥から、黒い光が迫ってきた。
黒い光って、存在していいの!?
って、そんな事を考えている場合じゃない。
急いで足を動かす。
間に合わない?
山の上の寒さでは、いつも通りには動けない。
私は反射的に目をつぶった。
しかし、来るはずの痛みはなかった。
「アルメルナさん、大丈夫かい?」
目を開けると、聖職服。
「ジャッグルホーリー!」
ジャッグルホーりーは封印や結界のプロだ。
魔物の放つ魔法の類は簡単に消せるのだろう。
彼も英雄の一人だ。
だが、なぜ後陣にいるジャッグルホーりーがここに?
その時、後ろからいきなり声がかかった。
「おしゃべりも程々にしときなさい」
そして、次の瞬間にはすぐ横から。
「緊張感がなさ過ぎない?」
「マアサさん、そんなに厳しくしないでも、明るく楽しい事は何よりですよ」
「ジャッグル、私があなたを、ここに飛ばさなければ、貴重な戦力が一つ減っていたかも知れないんですよ」
「ほんと、マアサの力は便利じゃのう」
なんか、いつもと変わらないな、ここでも。
しかし、もう少し、緊張感がいると思う。
「みんな、上! 上!」
空には4匹の黒い竜。
そのうちの一匹が、巨大な岩を落としてきていた。
「防げる?」
咄嗟に聞く。
普通の人なら逃げるが、だれか何とかするだろう。
「物理的なものはちょっと無理です」
「砕くのはできるが、被害が増えるぞ」
「4人いっぺんには転移できない」
「逃げよう」
ザッと、地面を蹴る。
ぎりぎりと表すには、少し時間があったぐらいで、4人とも避難できたようだ。
とりあえず、セーフ。
「アルメルナ、封印円盤が!!」
え?
錬金術師の声を聞いて、腰に下げていた袋を確かめる。
袋を触ると、そこが破れているのに気づいた。
そこに入っていた円盤は無い。
「アルメルナさん、下!」
山の斜面を見ると、灰色の円盤が転がっていくのが見えた。
すぐに引き寄せの魔法を唱える。
「エナト!!」
ん?
おかしい。
目の前が白く光りだした。
まさか、魔法の失敗?
そんな。
ありえない。
小さな子供でも使えるような、初級魔法。
失敗するはずがない。
白い光は塊になって、消えた。
そこにあった存在に、驚愕する。
――え? 魔王!?
そこには、黒い髪の男が立っていた。
明日から期末テストです。
勉強します。
最近、少し真面目に書いているつもりですが、どうなってるのか?
自分の物を見るのって難しいです。