5-7 闇竜戦闘
空気が凍り、地面に生えるわずかな草には霜がついた。
久々に作った氷の斧は昔より重い。
衰えたのかもしれない。
少し鬱な気分になる。
まだまだ戦えるつもりだったんだがな。
時間の流れは速いもので困る。
振り下ろす斧と剣がぶつかり、斧が欠ける。
「父も衰えたようですね」
息子が言った。
……そんなことを言われるようになったか。
しかし、まだ負ける訳にはいかない。
素早い剣が首を狙う。
それは斧の破片に防がれた。
小さな氷の板が剣を弾き、軌道をずらす。
「お前はまだまだ未熟じゃ」
斧を持ち上げる。
小さく振りかぶり、降ろすが、再び剣とぶつかる。
「力、落ちましたね」
ヴァロルシアスが斧を弾き返す。
それに逆らわず、斧はすぐに放し、開いた腹に蹴り入れた。
「ん!?」
硬い。
いや、固いだろうか。
やわらかさが全くない、固体。
驚いている間にも、氷の剣が迫る。
かわせない。
咄嗟に手を凍らせて受け止めた。
後ろに距離をとり、手の平を見る。
氷が貫かれ、手の平には細い切り傷が出来ていた。
「お前も大分変わったようだな」
「ええ」
金の剣の長さは優に5メートルを超えている。
その剣が闇竜の爪とぶつかる。
重さを利用するなら高い所に居た方がよい。
余の金の円盤を操り、闇竜の周りを旋回しながら徐々に高度を上げる。
上がりながらも攻防は続いた。
棘の生えた尻尾と金の剣がぶつかり、両方が弾かれる。
この剣で、大体のものは切れたはずなんだが、こいつの鱗はアダマンタイトよりも固いようだ。
鱗にはほとんど傷がつかない。
剣の慣性を消して弾かれた動きから急速に加速。
闇竜は体を捩ったが羽の先がぶつかり、黒い液体が噴出した。
薄いところは弱いはずだ。
振り切る前に逆向きに切り上げる。
その一太刀は闇竜の前足で掴まれた。
しっかりと握っていて離れない。
ぎりぎりと嫌な音がする。
ははっ、無駄な事を。
剣の形を細長く変える。
闇竜の手をするりと抜けたそれは、咄嗟にかわす闇竜の体をかすり、浅い傷を作った。
浅かったな。
確認して次の動きに移る。
闇竜の上から剣の形に戻した金の塊を振り下ろす。
闇竜の背中の鱗の一枚が当たって砕けた。
鱗の下も黒い。
本とに真っ黒なやつじゃ。
「ギュアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
闇竜の声が空気を震わせる。
そして口から黒い塊を吐いた。
まがまがしい。
剣の重さを消して、金の剣の平で防ごうとした。
ぐ!!
黒い塊の中に実体があるものが入っていたのか、その塊は重かった。
押し合いが続く。
ぐぐぐ。
少しこちらの力が上回り、傾き始めた。
そのとき、金の剣がポッキリと折れた。
は??
普通の金の密度を無理矢理上げた、金の剣だぞ?
剣の端は、いつの間にここまで上がって来たのか、山の頂上へ向かって落ちていった。
しかし、そんな事はどうでも良い。
何だったんだ? さっきの弾は?
余の頭の上数メートルを通っていった塊は何事もなかったように進んで行く。
ふふふ。
こんなのは初めてだ。
「面白い!! ぶった切ってやろう、この剣で!!」
「ギュウゥウゥウゥアウウアウアアアアアアアアアアア!!」
色々うって分かった。
この闇竜の背中にはもろい鱗がある。
拡散弾を背中に撃った時、一つ傷が入った鱗があった。
竜の後ろに転移し、銃を撃つ。
弾は少しずれ、鱗に弾かれた。
闇竜がこっちを向いて、爪を振るう。
次は顔の前に転移。
つぶれていない片目を爆撃弾で狙う。
しかし、それよりも早く闇竜の尻尾が迫ってきた。
あきらめて、いったん転移する。
離れたところから銃弾を三発。
もちろん傷はつかない。
こんな物が外に出たらどうなるか……出て行った気がする。
どうなっているか、一瞬不安になったが、今考えている場合じゃない。
闇竜が口を開けた。
今がチャンス、とライフルを手に転移。
引き金を引く。
すると口の中から何かが飛び出した。
黒い塊。
それはライフルの球を消し去り、こちらに迫ってきた。
速い。
すぐに転移する。
何だったのだろうか、さっきの球は。
球は後ろに進み続け、黒い雲の壁に穴を開けた。
その奥に見えたのは、王城に向かう、一匹の闇竜。
黒い雲はすぐにふさがり、先は見えなかった。
しかし、あのままでは城の人達が危ない。
兵もほとんど居ないはずだ。
まずい。
あせりながらも、闇竜のほうを向く。
闇竜はもう一度、あの塊を放とうとしていた。
「ふぅ~~~~」
「ふぅ~~~~」
「はぁ。
勇者様、何でここでゆっくりしてるんですか?
これからどうするんですか?」
あんなに心配してたアルメルナさんも、ゆっくりお茶飲んでるし。
「大丈夫だ、たぶん悲鳴が聞こえる」
「へ!! 悲鳴?」
「悲鳴」
悲鳴って?
「それが聞こえたら、仕事だ」
「はぁ。どうなるやら」
そのとき、窓の外から、人々の叫び声が流れてきた。
「きゃーーーーーー」
「わーーーーーーーー」
「うわーーーーーーーーー」
何事かと、窓に駆け寄り、首を出す。
そこで私は、黒い竜が山の方から飛んでくるのを見た。
「よし、行くぞ!
あ、アルメルナさん、サフィーちゃん、借りていくから」
ヴァロルシアスが所属していることで有名なソーシャイルがある、ギルド。
その二階建てのギルドの中は大騒ぎになっていた。
漆黒の竜が雲の中から飛んで来たのだ。
高度を下げて近寄ってきた竜が王国の防壁を越えようとする。
そこで闇竜の動きが止まった。
何が起こったのかと、戸惑うギルドの者たち。
しかし、彼らも徐々に我を取り戻し、闇竜が消えた場所に向かう。
「開けろ!! 門番!!」
一人の男が聞いた。
「門番はカルフ様の遊びについて行きましたよ」
それに答えるのは、黒いローブの男。
「あの竜も、魔王ってやつの使いかね」
一人呟く男の横をギルドの男たちが走り抜けていく。
その先にあった光景は、巨大な木が、竜の体に纏わりついている姿だった。
質:最近短いっすね
応:すんません。あと、中間テストがあるんで。
13日までは、あんまり書けないかも。