5-6 思い出の教会(←セラ)
防衛隊総括がヴァロルシアスと戦っている頃、一つの教会にたどり着いた。
両開きの門が両方はずれ、中庭には草一つ無い。
門の枠に触れたとき、子供の頃の思い出が流れ込み、目の前の建物に居るかも知れない敵のことを忘れそうになった。
物心ついた時に初めて見た景色。
初めての仲間。
初めての別れ。
初めての恐怖。
後ろには、よく走り回った斜面がある。
石塀の隅の木には良く登った。
心から涙があふれそうになる。
しかし、その涙があふれる前に教会から一人の男が出てきた。
一体の魔物が。
人よりも一回り大きい体格。
狼のような体に人間味を帯びた顔。
全身の毛は真っ赤で、その姿はまるで炎が歩いているようだった。
「おい、教えてほしい事があるんだが、そこの白いの」
「……」
「魔王様が、人の名前を調べて来いって言われたんだけど、案内してくれないか?」
「やだな。
とっととこの建物から出て行ってくれる? 駄目?
……駄目なら、消すよ!」
両手に雷を纏う。
乾いた空気に激しく光る。
「なんだよ、血の気が多いやつだな。
本を探してるだけなのによ。
これだから人間は」
そう言う炎帝も、赤い目を剥き、口の奥には炎を燃やしていた。
「一秒でも早くここから出て欲しいんだけど」
「それは無理だ。
用事が済んでいない」
「ここでは戦いたくないな」
「そうか、じゃあ、中で続きをするかな」
炎帝は向きを変え、教会の壊れた扉の中に入った。
「でも、その中をあさるのは許せない」
右手を上げ、赤い背中を狙う。
次の瞬間、小さな光る球が炎帝の背中を焦がした。
ジュッ!!
短い音がする。
「いてっ!!」
炎帝の毛が逆立った。
「わかった。
作業は後だ」
「後は……ない」
おおおおおおおお。(←雄たけび)
ここどこおおおおお。
んだよ、ここ。
この神殿なんだよ。
いっその事壊してしまうか。
ソウ! いい魔法だせ。
『それが、この神殿は神力が篭っておる。
下手に何かすると、どうなるか分からん』
へ? そーなの?
『そう言うものじゃ。
まあ、進めばよかろう』
はあ。
仕方ないか。
っと、俺は右手の炎を灯して暗い神殿を進む。
周りが全て石で出来てるから、足音が響いて怖いな。
皆どうしてるかな。
俺こんなことしてていいのか?
うわ!!!
あ、何が動いたかと思ったら俺の影か。
う~~~。
山の上寒いな。
鳥肌立ってきた。
山の斜面を乾いた風が走る。
その斜面で二人は向き合っている。
「どこまで行けばいいんだ?
そんなにあっこが大事なら、燃やしてくらぁ良かったぜ。
魔王様の命令がなければだけどな」
「ここでいいよ。
あっこを汚すやつは許さない」
「そんなに大切なものか?
誰も使わないだろ?
まあ、俺は使うけど」
「あそこは、言葉には出来ないけど、大切なところなんだよ。
ボクのただの幻想や、美化した思い出かもしれないけど」
「そんなものをねぇ。
ま、早くかえらねぇと、しかられるから、早く行かないとな」
「そうだね」
セラが走り出す。
その目には炎帝しか見ていない。
電気を纏う手の平を打ち出す。
炎帝は上半身だけを動かして、連続で突き出される手をかわす。
「ほほう、俺もまだなまっちゃねえな」
炎帝は口を開く。
その口には炎。
セラはその炎が見えたと同時に自分を後ろに飛ばした。
フレミングの法則を利用した移動。
自分の体の中の電気の流れと、操る電気で力を生む。
炎が炎帝の口から放たれる。
「人間の言葉は話すけど、どちらかと言うと魔物かな?」
「そういうてめえは、人間なのか?
ねむってる間に世界も変わったな~」
「ボクはまだましなほうだと、最近は思うけど?」
「九人の英雄は、もうちょい、真面目な戦い方だったぜ。
雷を常に纏ってるなんてのは聞いた事がないな」
「そうかい」
セラの雷球が高速で放たれる。
炎帝はそれを難なく避けた。
「やられっぱなしじゃ、楽しくないな」
炎帝が地面を蹴る。
ものすごい速さでセラに接近する。
その速さで繰り出された拳をセラが手の平で受ける。
「ぐっ」
小さく、押さえ切れない苦痛が声に出る。
それに負けず、セラは手の平から電流を放った。
炎帝のからだに直接電気が流れる。
炎帝はすぐに手を引こうとするがセラは離さない。
炎帝は引くのをあきらめ足を出す。
正面から蹴りを受けたセラは後ろ向きに飛び、斜面を少し転がった。
「うおおおおおい。
体の筋肉が勝手に動きやがる」
「痙攣だね。
これで、戦いやすくなればいいけど」
「はっ、そっちも今のは効いただろ」
「かもね」
だらだら(←冷や汗)
俺の冗談で、全軍が進み始めた。
ジョーカーさんたち《人間離れした人たち》のお陰で、士気上がりまくりで、皆テンション絶頂で我先にと走っていく。
ここに来るまでとは大違いだ。
進む先は、同じ、黒い雲なのに。
「面白い事になったな」
「あ、シサムさん」
「正直、ここまで兵が残るとは思ってなかったんだがな」
「へ?」
「敵に囲まれたときは、あそこで全滅するんじゃないかと思ったんだが、全くの杞憂だったみたいだ」
シサムさんは笑った。
「あいつらは反則だ」
「そうですよね」
「よし、俺たちも行くぞ」
「はい」
周りに続いて走り出す。
その足はいつもよりも軽く感じられた。
「わ~~~~~~~~~~~!!!」
山の斜面を人の大群が走る。
突撃でよかったかもしれないな。
楽しいし。




