4-7 9人の英雄(下)
馬車は月の下でも休まずに走る。
いや~、ドラゴン元気だな~。
今の外の景色は緑の森だ。
「しかし、やつらがやられたとは」
横のアルはさっきからこればっかだ。
もしかして、話しかけて欲しいのか?
ふっ、可愛いやつだな。
しかし、ここで話しかけないのも面白そうだ。
どうしようか。
「やつらも歳を取るからの……」
ははは、そんなに話しかけて欲しいか!
俺から1.5mほど離れているのも、可愛いな。
それに、俺の方を全く向かず、外ばかり見ているのは恥ずかしいからなんだろう?
仕方ないな。
「アル、やつらって、アスタの親か?」
「……時間は気づかぬ間に過ぎているものじゃな」
うおお、なんという完成度のごまかしだ。
「アル?」
「しかし……ん?
ああ、おぬしか」
「アスタの親のことか?」
「ああ、そうじゃ」
「どんな人なんだ?」
「強いやつらじゃ」
ツンデレというやつか?
そこまでアバウトにきっぱりさっぱり言われるとは。
「強いって、どんなだよ」
「そうじゃな。
魔王との戦いの時の9人の英雄で、格闘王と呼ばれた男と破壊の魔術師と呼ばれた女じゃ。
両方ザードランドブルの出だったはずじゃ」
「その二人が殺された、と」
「ああ、二人も相当年老いたはずじゃからな」
「……なんで、アルはそんなやつを知ってるんだ?
しゃべり方も変だし、それに何か凄いし。
……何歳?」
アルは馬車の隅で寝ている。
「おぬしよりは長く生きておる」
「なんで」
「いろいろあるんじゃ。
このせいで、大々的に商売できないんじゃがな。
……知りたいかの?」
「いいの?」
「おぬしは他とは違う気がするからの。
余は歳をとらん」
「……?」
「勇者と共におったやつもじゃ」
「……?」
「防衛隊に入りよったやつも居るの」
「……?」
「まあ、すぐにまた会うことになると思うぞ。
楽しみにしておれ」
馬車の前には王国の城が見え始めていた。
森の中を一組の男女が走っている。
「勇者様、こんなことして意味あるんですか?」
そう言った少女は、男の肩の上に腰掛けている。
「う~ん……ない!」
「じゃあ、あの中に入れてもらえばよかったのに」
少女が指差した先には、ものすごい速さで森の道を走る馬車が一つ。
二人はその馬車と同じ速度で走っている。
「いやあ、俺の自己加速もまだまだ現役だな」
「まあ、勇者様の魔力は、破壊の魔術師も自信を失うほどですからね。
しかし、彼女はもう居ない」
「いやあ、言っとくべきだったかな?
忘れてた」
「なんで勇者様は先のことが分かるんですか?」
「【勇者】で、あるからして~♪」
「はあ。
真面目な質問をした私の間違えだった。
あの馬車に乗ってたら、今頃楽しくアルと話していたかも知れないのに」
「まあ、そう言うな。
勇者ってのは、ピンチの時にザザッ、っと出て行くもんなんだよ」
「は~。
さすが勇者様ですね。
勇者魂が分かってございます」
「めんどそうに言うなよ」
「まあ、勇者様が運んで下さってるから良いですけど」
この山には神殿が多い。
ステリウス教が昔使っていたらしい。
今はもっと都市の近くで活動しているらしいが。
ここは、山頂にあった神殿の中だ。
「魔王様、隠し扉を見つけました」
「その奥にあるのか?」
「はい、確かに。
かなり下のほうですが」
「よい。
やつらはこの世界を壊すのにちょうどいい。
行くぞ」
ヴァロルシアスが見つけた扉の先には、下へと続く階段が回りながら伸びていた。
その階段を降りる。
その道幅は徐々に広くなり、その先には山の中に作った卵型の部屋があった。
中央には美しい円形の石板が置かれていた。
石盤は大きく、その上に家が建てられるほどだ。
表面には言葉や模様がびっしりと敷き詰められている。
石盤の端には、『ジャッグルホーりーの最後の魂』と書かれている。
頭の中に聖剣士の姿が浮かぶ。
「ジャッグルホーりー、解けろ!」と、唱えた。
石盤が輝きだし、中心から光の亀裂が広がった。
先のことを考え、思わず笑みが浮かぶ。
石盤は光の粉となり、消えた。
そこには、大きな穴が現れ、その下からは4匹の闇竜が飛び出した。
4匹は天井を破り山の外へと飛び立つ。
「ふはははは、英雄とやらも終わりだ!
ははははは、はっはっはっはははは~!!」
王国も近づいてきた。
お~、明日は王国の飯が食えるぞ。
「……あと、おぬしが勇者から言われた剣じゃが」
「ん、ああ、言ってた気もする」
「ジャッグルホーりーのものじゃな」
「だれそれ?」
「9人の英雄のうちの一人じゃ。
聖剣士ジャッグルホーリー。
自身が打った聖剣ジャスティスは、全ての悪を払うと言われておった」
そんなもんを使うのか。
プレッシャー感じるな。
「彼は、魔王戦でも、その剣とともに活躍した。
しかし、最後は自ら闇竜封印するために、命を絶ったがな」
うわ、俺そんな剣、持てないし。
てか、剣使ったことないし。
「あの時は、かっこよかったぞ。
余が見てきた中でもとびきり」
あれ、俺、剣があったら魔王倒せるって話じゃなかったっけ?
質:誰だ、ジャッグルホーリーって?
応:しるか、んなもん!!
いや、剣とか出しちゃったから、持ち主いるな~とか思って。
関係ないけど、この国の1年は100日です。
帳尻あわせ、とやらです。
まあ、四季は無いって設定だし、問題ないでしょ。