4-5 勇者?
勇者様が隠れているという、霧の森。
辺りには、霧が立ち込めていて、伸ばした手の指先すら見えない。
……いや、濃すぎるだろ。
何なんだここ?
シースイタースの首都から、北に少し。
霧があったので分かりやすかった。
俺の周りには、5人。
いつも通りだ。
しかし、全く前が見えない。
この状況でどうやって目的の岩までたどり着けば良いんだろうか。
「はぁ」
どうやら何日かかかりそうだ。
しかし、化けもんが出てこないからましか。
「今頃あいつらは迷ってるだろうな」
「勇者様、お茶が入りましたよ」
「ああ、ありがとう。
もう少ししたら、迎えに行くか」
「分かりました」
霧、霧、霧。
ああ、ダリい。
ほんとに見つかるのか?
てか、帰れるのか?
もう、どっちがどっちか分からない。
「お~い、なんかあったか?」
「・・・・いや、なんにもない!」
「こっちも~!」
はあ、大丈夫なのか?
真面目に心配になってきた。
食料とか、水とか、これって遭難か?
帰れるのかなぁ?
その時、目の前の霧が晴れた。
「・・・・・だれ?」
出て来たのは、四十台後半ぐらいのおっさんと、俺よりも小さい少女。
おっさんは、この世界で始めてみた、黒髪だ。
「いや、迷ってるだろ」
「え、まあ、そうですけど。
あなたは?」
「ああ、俺は勇者だ」
頭をかきながら、勇者様は言った。
「あ、マジで。
ちょうど良かった。
お~い!勇者がいたぞ~」
5人は、ぞろぞろと集まってきた。
「王国へは行かんぞ」
「・・・?
いや、来て下さい」
「その代わりに、魔王の情報を教えてやろう」
「いや、来て下さったら結構です」
「魔王の情報は2つ。
まず一つ目、魔王は、封印していた石盤が割れていたため、力が衰えている」
「いや、来て下さい。
メモるのもだるいんで来て下さい」
「今まで、魔王が復活するんじゃないか、と思って皆が大切に扱っていたのを割ったやつは、相当の勇者だな」
「あ、俺そんな事しちゃったんだ」
だり~。
「今の魔王なら、君たちでも倒せるだろう。
しかし、あの剣があればの話だ」
「いや、勇者でしょ、あんた。
自分でやれっつーの。
弱ってんならなおさらじゃん」
「そう、勇者の剣があれば!」
「いや、話を聞いてください。
力説してもらっても・・・・・。
というか、来てくれないんですか」
「まあ、聞け!」
「はい」
あ~だり~。
勇者うぜ~。
聞いて欲しいのはこっちだ。
「その剣は、今王国にある。
確かパプリカー侯爵の所にあるはずだ」
「だれ」
「そこで、剣を手に入れ、魔王を退治するのだ」
「はあ」
「2つ目、魔王が自分の作った暗黒空間のなかに、魔物を集めている。
そのお陰で、辺りには魔物がいない。
まあ、それはいいんだが、あの雲の中は魔物パラダイスだ。
まあ、気をつけろ」
はぁ。
「来てくれないんですか~?」
「勇者の座は、お前に譲るぜ!!」
え、ちょ、おい。
そう言って、勇者は霧に向かって歩き始めた。
いや、いらんから、勇者の座とか。
「ちょ、おい、こっちは王国にたのま――」
「ガルルルルオーーーン!!」
「ギャーーーーーグギャーー!!」
俺の話が2匹のドラゴンに中断された。
おい、何でこんなんが突っ込んで来るんだ?
よくみると、ドラゴンの後ろに、馬車がついている。
その馬車の扉がガタン、と勢いよく開いた。
「記憶の魔女!
一つ頼みがある」
そう言って、降りてきたのは、10歳にも満たないであろう、金髪の子供だった。
歩き始めた勇者も、振り返った。
金髪の少女の後ろからは、これまた女の子、見たことある侍、そして、よたよたしながら出てきた、いつかの普通の剣士。
いや、そうそうたるメンツですね。はい。
4人は静かに歩いてきた。侍さんは剣士を支えながら。
ん? 何事?
勇者の後ろで黙っていた青い髪の少女が一歩進む。
「久しぶりね、奇跡の錬金術師」
ああ、この子が。
って、若くないか?
『主人、我の事は隠せ』
へ?
なぜに?
「ああ、いきなりで悪い。
少しやって欲しいことがある。
こんなやつらじゃし、言ってもいいな?」
「って言うか、私のことを読んだ時点で、私の能力明かしてません?」
「まあ、それはお前も呼んだじゃろう」
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「アル、で頼む。
あと、後ろにいるのは、アスタと兄貴とシサムじゃ」
「私はマナで良いわ。
アル、養子になったの?
こっちのおっさんは分かるよね」
「養子になったんじゃない、そういう設定じゃ。
呼ぶときは、召使い1号で良いぞ」
「……いや、止めて、アル。
あ、あなたはあの時の」
大丈夫か?
その召使い?
ふらふらしてるぞ。
「ああ、剣を溶かしたけど大丈夫だったか?」
「ほう、こいつが兄貴の言っていた」
「はい、私の剣を溶かすほどの炎を使うバンダナ男です……」
「……取り合えず、家来るか?それか、俺だけ帰ってもいいか?」
勇者様、居たんだった。
なんか本気で帰りたそう。
「あと、シサムは来い」
なぜに?勇者様。
「はい、師匠のために、毎回、膨大な金を貰っております」
は?
この件についたは、俺は分からん。
俺の後ろの5人も置き去り状態だ。
「まあ、勇者様がいいなら、行きましょう」
自称マナさんの言葉に従い、勇者様の家に行く事になった。
庭では、防衛隊4人と、普通の剣士(砂漠の大富豪の召使い)とアスタちゃん遊んでいる。
勇者様の家は、リゾート地的な、無人島(広さは、学校の校庭ぐらい。海に浮かぶ高台って感じ。全体が芝生。端っこの方に木が見える。高台といっても、端はがけではなく、斜面になっており、その先には白い浜辺がある)の上の、どこか和風な家。
シサム(敵だったよなあ?)は勇者様と話している。
そして、俺は何か重い話につき合わされている。というか、いつの間にか始まっていた。
「アスタが両親の死を知りながら生きるのは辛いじゃろう」
「いえ、それを受け止めなければいけません」
「でも、ここまでは勢いで連れて来たが、この先どうするのじゃ。
わしらを兄弟だということにしたらどうなんじゃ」
「いくらあなたの願いでもそれは認められません。
私が能力を使うのは、勇者様の時ぐらいです」
「しかし!」
「駄目です。
記憶を書き換えて、楽になっても、それじゃ根本的な解決になりません。
彼女自身が、そのことを知り、考え、そのことを受け止めた上で、引き取り手を捜す。
そのほうが良いはずです。
今じゃなくとも、もう少し大きくなってからでも、本当のことを知る必要がある」
「でも、これは――――」
自称アル(砂漠の大富豪らしい)は言葉を失った。
いつの間にか、家の中にアスタちゃんが居た。
はあ、俺、出番ねぇ。
最近、俺何もしてないや。
アスタちゃんが口を開く。
「アルちゃん、そんなに怒らないで。
私、聞こえてたの、見てたの。
男の人たちが入って来て、それから、パパとママの叫び声が聞こえたの。
それから、男の人たちは家に火をつけたの。
怖かった。
けど、私は大丈夫。
怒らないで。
大丈夫だから。
だから」
いやあ、2人の会話から、なにかしらあったとは分かってたけど、やっぱり恐ろしい。
しかし、マナはアスタの栗色の目を見て、何か決心したようだった。
「アスタちゃん、ちょっと来て」
「やってくれるのか?」
「いや、他の事」
アスタは、マナの所に歩いていき、マナはアスタの頭に手を乗せた。
「リコレクション!」
マナが言い、手が青く光る。
20秒ぐらい、無言の時間を過ごして、マナは手を離した。
「勇者様を呼ばなきゃ」
「そろそろ、話は終わった?」
マナが呟くと同時に現れる勇者様。
なんか笑顔だ。
シサムが、勇者様のために金を集めているとか、師匠とか言っていたが、何か関係あるんだろうか。
「クリフォードとバーバラがやられました。
この子は、彼らの子です」
沈黙が流れる。
俺、防衛隊4人、普通の剣士は訳が分からず黙っているんだろう。
ウィーディーは、普通の大きさのスプーンで、出してもらったお菓子食べてるし、侍さんは無口だ。
だが、マナ、アル、勇者さまは他の意味で言葉を失っているように見える。
「恐らく、犯人は炎帝」
はぁ、わかんね。
最近、新しいイヤホン買いました。・・・・・・どーでも良いですね。
質:勇者があんなんで良いの?
応:良いんじゃない。
勇者……かつて、魔王を封印したときに、とにかく活躍した人。
現在はおっさん。
離れ小島で、青い髪の少女と楽しく生活しています。