3-7 陰謀色々(響きがいいよね)
闘技場に5匹のモンスターが流れ込んできた。
見覚えのある黒いライオンだ。
下に降りると俺のほかにはウィーディー1人。
・・・出てたんだ。
・・・強いな。
まあ、特隊長様と同等に戦うのを俺は見たし。
しかし、ライオン5匹か。
多いな。
『次、行くぞ。
次は中級・・・はメンドイから上級行くぞ』
マジで?
『マジじゃ』
ガチで?
『がちじゃ』
ほんとに。
『主人、囲まれておるぞ』
あ、まあ飛べばいいじゃん。
『ビスタの上級はギラ・ビスタじゃ』
分かった、分かった。
「ギラ・ビスタ!」
目の前のライオンが、生きてんのか分からんぐらい、ぴたっと止まった。
おお~、パチパチ。
『次はギラ・ダックじゃ。
覚えやすいじゃろ』
「ギラ・ダック!」
噛み付こうとしていたライオンは吹っ飛んで、闘技塔を破壊してその瓦礫に埋まった。
『次はギラ・ギュマンダじゃ』
「ギラ・ギュマンダ!」
逃げ出そうとしていたライオンは、いきなり伏せの姿勢になって、苦しんでいる。
『次は、少し危ないが、ギラ・シャグッシャルじゃ』
最後の抵抗と、突っ込んできたライオンに向かって魔法を唱える。
「ギラ・ジャグッシャル!」
目の前のライオンは消えた。
いや、ライオンがいたところにはビー玉大の黒い球が一つ。
コロン、と地面に落ちた。
ソウ?
何、今の?
『圧縮じゃ。加重の変形とでも覚えておれ。
まだ来ておるぞ』
ライオンが突っ込んできたところからは、何十というモンスターがわらわら。
「観客、選手の方は、すぐに非難をお願いします」
拡大された声が慌てている。
「よし、逃走っ!!」
俺は安全第一主義なんだぜ!
モンスター退治劇は順調に進んでいるようだ。
あの後すぐに、防衛隊が出てきた。
セラはいないようだが。
防衛隊たちは、1人1人はそんなにな、普通のやつだが、チームワークがものすごい。
塔の崩れずに残った部分から見下ろしていると、それが良く分かる。
1匹1匹を囲んで引き離し、少しずつ、だが正確に倒している。
凄いな~と関心していると、1人の男が声をかけてきた。
「いい所だな」
びくっ!
おいおい、後ろからいきなり現れるなよ。
振り向くと、そこにはヴァロルシアスが立っていた。
「ん?何でお前が?」
足の間を、リスが走り回っている。
足に鳥の刺青がされている事に気づく。
見たこと、あったっけ?
「誘いに来たんだ」
「ん?誘い?」
「ああ、2つあるんだが・・・
1つは、ソーシャイルという俺の入っているギルドグループ」
「ん?ギルドグループって何?」
「ギルドで、依頼を受けるときに、いつも組んでいる仲間だ」
ヴァロルシアスは、静かに一歩近づいた。
「もう一つは、ビオッチャ。
いわば、盗賊。
快い仕事じゃないが、お前なら、結構な報酬が入る」
儲かるのか・・・・いいかもしれない。
『止めとけ、主人。
盗賊なんて物はやるもんじゃない』
ん~。
ソウがそう言ってもなぁ。
『主人の力なら、盗賊よりも儲ける事など簡単じゃ』
・・・・・そっか。
「ビオッチャは止めときます」
「そうか。ソーシャイルは、こっから北に行った、王国の端っこにいるから、来るなら歓迎だ」
「分かった」
ヴァロルシアスが飛んでいって見えなくなった頃、したから歓声が聞こえた。
モンスターは全滅し、防衛隊がはしゃいでいる。
そこに、王様らしき人が現れた。
ここからじゃ良く見えない。
塔の端っこで、しゃがんで目を凝らすが俺の視力はB,Cだ。
そろそろ眼鏡だ。
その時、後ろから風が吹いた。
俺の足元の、石が崩れる。
あ、あ、ああああぎゃ~~~~~~~~!!
ドス!
俺は、5階建ての学校の屋上ぐらいの高さから落ちた。
「お、あなたは剣聖を破ったジョーカーさんでは」
王様の髪は、ぽっちゃりした体型に似合わぬ青色だった。
(『主人に、あちらに入られては困る。
やってもらわねばならぬ事がある』)
(優勝を逃した上に、足止めは成功したが、防衛隊にやられるとはな)
はぁ、なんか気まずいもんだなぁ。
しかし、これは異世界トリップの宿命か。
それより、ほんとにいいのか、俺で・・・。
・・・え?説明?
気が向いたらするよ。
今そんな事してると、へんなことしちゃいそうで。
さすがに、王様の前で、ご無礼をさらす訳にはいかない。
ただでさえ、ウィーディーいなくなったからお前が優勝とか言って、願いを聞いてくれるって言ってんだから。
しかも、国のお偉いさんたちが、20人ぐらいでこっち見てるんだよ。
この気まずさ分かる?
「その栄誉をたたえ、そなたの願いを一つ聞いて差し上げよう」
しゃーないな、一回だけだから、しっかり聞け。
あのあと、防衛隊に囲まれて、この部屋に。
赤い絨毯の上で待たされて、1時間ぐらい経って、偉そうな人たちがぞろぞろ。
最後に王様がでっかい椅子に座って、この状況。
なんか、もう、王様暗殺どころじゃないよ、まじで。
『主人、王の近くにいれば良い』
う、うん。
「じゃあ、――――――」
「王様の前で被り物かよ。
ずいぶんと偉そうじゃないか」
「おいっ、止めろ、カルフ」
「あ、いえ、はずします」
俺は、俺の服を傷だらけにしたバンダナを取った。
「・・・・・・・・・」
「こいつです!脱獄犯は!」
お、お前は、なつかしの槍A。
「言葉が通じないのではなかったのか?」
「だから言ったのじゃ、こいつは魔王の生まれ変わり」
「いや、勇者と関係のあるものかもしれん」
「ほんとに脱獄犯なのか?」
「鑑定機の用意を!」
「いや、即処刑じゃぁ~!」
「おいおい、爺さんあせるなって」
「あ~も~だり~」
なんか、王国も適当だなぁ。
「静まれ~~~!!」
王様の言葉で、あたりはいっきに静まり返った。
その静けさを破る音が。
バタン!!
「王様、姫様が誘拐されました」
「フゥ~」
『どうした、主人』
いや、このままじゃ、再投獄なんてことも。
『主人なら抜け出せるじゃろ』
まあ、そうだけど。
『それにしても、客人ほったらかしで姫様の救出とは、どんだけ大切なんじゃろうか』
俺の父さんも、妹には優しかったぞ。
俺なんか気にも留めてなかったけど。
『主人、家族と離れて寂しくないのか』
いや、嬉しいよ。
どんな小鳥もいつかは親の元を離れるのさ。
『主人も変なやつじゃのう』
よく言われる。
「どんな小鳥も、いつかは親の元を離れる」
俺の目がうるうるしてたのは、秘密だぜ。
その天井裏で。
「どうだあいつ、やれると思うか」
「おいおい、こっちは4人、あっちは1人だぜ
この姫様に一人付いても、3対1だ」
その姫様は天井裏の隙間から下を見ていた。
そこにいるのは男1人。
年齢は私よりも少し上だろう、と推測する。
縛られた体を動かすと、そこにいるのは大柄な男が4人。
このままじゃ、あの人がやられる。
でもどうする事もできない。
あせる彼女に、小さな声が聞こえた。
「どんな小鳥も、いつかは親の元を離れる」
さてと、寝るか。
疲れたし。
俺が赤い絨毯に寝そべったとき、上から男が降ってきた。
・・・・・・・・・・、・・・・・、・・。
・・・・・・・・・・?
『よし、次の実験台じゃ!』
は?
『次は、ギラ・バライスじゃ』
はぁ~。しょうがないな。
ストレスもたまってたし。
「セナスノウ、切れる?」
セナスノウは、彼女の精霊だ。
ウサギの形をしていて、一応弓になる事ができる。
「キューーイ」
あれはたぶん出来るという事だ。
しかし、安心は出来ない。
下を見ると少年と、男四人が向かい合っていた。
しかし、少年は焦りの色を全く見せない。
その少年が徐に口を開いた。
「ギラ・バライス」と。
ギラ・バライス。
無系統、上級。
拡散の魔法。
戦いどころか基本使うことはない。
使うとすれば、水、風系統の魔法を弾けさせて避ける、攻撃するぐらいだ。
魔法使いが100人ほど集まれば、人を弾けさせるなんてことも出来るが、まさかそんな事は出来るはずがない。
しかし、そのまさかが起こることも良くある事で。
先頭の男が弾けとんだ。体のあちこちが無造作に吹っ飛び原型が分かる物は、靴の先だけだ。
彼女は息を呑んだ。
ありえない。
逃げ惑う男たちは、静止の魔法で動きを止められた。
その時、セナスノウの前歯が縄を切る音が聞こえた。
おい、ソウ、これはやりすぎだ。
何であんな事を。
『いや、普通の魔力じゃったら、少し衝撃を受けるだけのはずじゃった。
いやはや、主人の魔力は純度も高いのぅ。
あ、今のは拡散の魔法じゃ。』
16まで帰省します。
楽しみに(しなくてもいいから)待っていてください。