3-4 精霊の精霊による、主人のための、ボディジャック
分かりにくかったら、すんまへん。
次の日、目を覚ますと部屋の中には数人の選手がもう戻ってきていた。
3,4回は勝っているはずだから、弱いはずはないだろう。
しかし一体、何回勝てば帰れるんだろうか?
自分の481という番号から考えて、・・・・考、えて・・・分からん。
とりあえずたくさんだろう。
こんな俺が高校に入れたのが不思議で仕方ない。
朝になった。
腹が減った。
昨日の夜は?
疲れ切って寝た。
「すいません、朝ごはんってどうするんですか?」
「あれ、外で食べてきてないんですか?」
話しかけたのは、ソウがビンタしたおっさん。
繰り返します。‘ソウ’がビンタしたおっさん。
「今なら、まだ、外に出られると思いますよ」
「了解!」
扉を開けて、左右の道を交互ににらむ。
・・・・・あれ、俺どっちから来たっけ?
ググリュグリュルル。
戦う気になれん。
そうだ、王様を退屈させて、大会を終わらそう。
目の前には、斧を担いだ青年。
うわ!腕の筋肉ヤバ!
俺の太ももぐらいある。
『フアアア~~~。
おッ主人。
試合なら起こしてくれんか。
今日は、祖術から入るぞ。
主人、覚えておれ』
「はじめ~~~~~」
ん、声が違うな。
やっぱり、違うステージだと違うんだな。
今日は、昨日までの北小闘技場ではなく、南小闘技場だ。
そのほかに西と東もある、とソウから聞いた。
『ほれ』
は?
体が勝手に動き出した。
こ、これは体を乗っ取られた。
ボディジャックだ。
ちょっ!キツイ。
そんなに速く体は動かん。
『まずは、基本じゃ』
斧を構えた男に向かって走り、フェイントを5重ぐらいにかけた動きで、後ろに回りこんだ。
「せい!」
そして後ろから、何やら基本の技を――――まあ簡単に言えば突っ張り―――――をバシン!と。
男は、斧を床に立て、態勢を保った。
地面と体の角度50度ぐらいで。
『さあ、主人もやってみろ』
ん?え?
え~っと、こう?
右手を突き出した。
ペチン!
あれ?効果音ちがくないか?
『駄目じゃ。もっと体全体を使って!』
こうか?
パチッ!
『違う!もう一回やるぞ』
パシ~ン!!
いて!、手の平いて!
『分かったか?』
うん、手の平の痛みは。
それより、何でこの人動かないの?
『それは、我の魔法で足の裏と地面をくっついておるからじゃ。
この体勢で、足を前に出さないとこけるじゃろ。
足の裏くっ付いたままこけたら、アキレス腱ぶっちぎれるじゃろうし・・・
だから、こいつは手を斧から外せないんじゃ。
両手じゃないとバランスを崩すじゃろうし』
うわ、ひでえ。
まあ、王様が帰るぐらい退屈に殴り続ければ。
もう、終わろ。
手の平真っ赤だし。
お兄さんの背中も紅葉模様にみみず腫れが。
お兄さん、肩の辺りプルプルだよ。
『そりゃ、手を離せばアキレス腱切れて、足首の骨が、体重全てを受けてポッキリ・・・
一生歩けなくなるかもしれん。
体が硬く、体重がそれなりにあれば足がもげるってことも、あるかもしれん』
こんな事よく出来るな。
『相手の動きを止めるにはちょうどいい。
足と地面をくっつけるだけじゃからの。
さらに、今みたいに体勢が崩れておれば、苦しみも与えられて、一石二鳥じゃ』
はぁ。
俺は、男の人を引っ張った。
そして、仰向けに寝かせた。
もちろん、ひざを立てて。
そうしないと足首もげるだろう。
『主人、何を?』
「生きてるか~」
「この野郎」
「降参するなら認めてやる」
「クソガキが」
「曲がってるこのひざを踏むよ。
足がもげるか、魔法が解けるか?」
「・・・・・クソ・・・・・降参する!」
「はい、審判!降参だって!」
審判(仕事は見てるだけ)が歩いてきた。
「アブノさん、降参ですか?」
「ああ」
「ジョーカーさん認めますか」
「はい」
「分かりました。・・・メグスワン!(拡声の呪文、ここ、テストに出るぞ)」
審判の人は、少し離れ、拡大された声で言った。
「ただいまの試合は、アブノ選手の降参で、ジョーカー選手の勝利です」
『主人、次も祖術の基本じゃ』
嫌だ、と言いたい。
しかし、俺の魔力はこいつに封印されている。
その状態で、俺はこっちをにらむこいつに勝てるんだろうか。
次の相手は、珍しく女だ。
まさに、魔術師なローブをきている。
ソウ、そろそろ魔力を開放してくれ。
『そんなことしたら、我の言う事聞かないじゃろう。
祖術ぐらい使えんと』
そんな事を言われても。
俺は格闘技とか知らないわけで、運動神経も悪くとも良くわないわけで。
飲み込みが早い訳でもないわけで。
そんな俺に、武術をマスターしろとは、正直言って無謀な気がする。
『あきらめたらそこで終わりじゃ』
いい言葉だな。
いや・・・てか、そんなの要らないから。
これから俺は、平和にのんびり過ごすから。
『体に教えてやる』
「はじめ~~~~~~~~~~~」
『主人の意識はどっか行っとれ』
俺の意識はそこからない。
ん・・・腹・・・減った。
「お、主人、やっと起きたかの」
「あれ、ソウ、出て行ってるの」
「主人に憑依するのも魔力が要るんじゃ。
今までは、主人からついでに取っていたが。
使い切ってしまって・・・」
「おい、勝手につかっとったんかい。
てか、自分で言うのもあれだが、何百人の魔力を全部使うってどういう事だ?」
「いや、少し昔を思い出して、色々やっちゃってのう。
巨大化したり。
魔獣に化けたり。
あたり一帯の光を吸収して、闘技場を真っ暗にしたり。
相手の存在を消す、暗黒魔法・存在削除などなど」
「何やらかしてんだ。あと、俺の体が究極に痛いのはなぜだ?」
「それは、主人の体を鍛えようと、獣人族の戦死と魔法なしでやりあったりしたからのう。
あと、痛みの直接的原因は、攻撃を受けたんではなく、筋肉痛じゃ」
「腹が減ってるんだが」
「自分でやっといて言うのもなんだが、町まで歩けるのか?」
「無理っぽい。体が俺の指令をこばんでやがる。座るのが限界」
その時、扉が開いた。
そこにいたのは、ソウがビンタしたおっさんだった。
繰り返す、‘ソウ’がビンタしたおっさんだった。
「あ、あんた、猫としゃべれんのか?」
おっさんは目をこすりながら言った。
「え?ああ、うん。こいつなら誰とでもしゃべれるだろ」
「でも、あんた今ニャオニャオって・・・」
「主人、我の能力じゃから適当に合わせておけ」
「あ、あ~・・ああ、うん、そうなんだ。いつの間にかしゃべれちゃってさ」
「どんな事しゃべるんだ」
「ん、ああ、暗黒魔法とか・・・いてっ」
ソウが爪を背中に押し付けた。
「何すんだ」
「それは我のセリフじゃ。
そんな事しゃべるな」
「暗黒魔法?
そんなの神話でしか聞いたことがないぞ」
おっさんが近づいてくる。
「あ、ああ、それそれ。
猫って意外と神話に詳しかったりする」
「なあ、どうやって話せるようになったんだ」
「ええっと。
この世界で始めてしゃべったのが猫だったり、そうじゃなかったり・・・」
「まさか、猫に育てられた人間?」
「ん~。猫に支配されてると言った方が正確だったり・・いてっ」
ソウの爪がさらに食い込んだ。
「俺も話せるようになるかな?」
おっさん、目、煌き過ぎです。
「ああ、たぶん。
その代わり苦労する事もいくつか、いてっ!」
おい、話を合わせろといったのはそっちでは。
「そうか、あっと、肝心の用事を忘れるところだった。
食いもん、持って来たぜ」
「か・・・・かみ、さま!」
『主人。魔法を教えよう』
え、俺に?
『まず、主人の魔法の系統を調べなければならん。
とりあえず、水は無理だったから、次はホラシャじゃ。
唱えてみよ』
(俺の意見は?)
「ホラシャ!」
ん、何も起きないぞ。
『予想どうり、無理じゃな。
まあ、予想が外れていたら、風でこの部屋の人間の肌が少し切れてたが。
あっ、主人もじゃ』
おい、危ないな。
『まあ、気にせず次じゃ。
次はグラドじゃ。
地面に向けてやれ』
「グラド!」
ん、何も起こらないぞ。
『やはり違うな。
合ってたら、主人の膨大な魔力で、大地震じゃったがの』
おい、大会どころじゃないぞ、ってか、俺も危ないだろ。
『次じゃ。
次はラチケルじゃ。
次は、たぶん火が出るから、壁に向けてやれ。
離れてからやらんと顔とか火傷するぞ』
(俺の意見は?)
部屋の中は、だいぶ人が少なくなった。
俺を含めて4人だ。
という事は、昨日は、順調に進んだんだろう。
その部屋の、人のいない方へ、体を向けた。
「ラチケル!」
その瞬間、部屋に轟音が・・・なかった。
『おかしいの』
第一、ほんとに何か起こるもんだったのか?
『そのはずじゃ。あの、壁が焼かれるはずじゃった』
んな事言われても・・・
俺は魔法なんかソラフ以外使ったことないぞ。
『ん~昨日使ったのは、確かに無系統ばっかりか。
主人、フーマクス!』
あいよ。
「・・・・・・・・」
その前に、今度はどうなる予定?
『主人に学習能力があったとは・・・いや、独り言だ。
体が軽く浮く。・・上手くいけば』
聞き捨てならん部分がいくつかあったが、まあ何も起こらないだろう。
「フーマスク!」
ガン!
俺は後頭部を天井にぶつけた。
俺って、文章上手くなってんのか?
キー打つのは、速くなった。