3-2 新たな楽しさの発見 その1
新たな楽しさの発見 その2が出るかは分かりませんです。
一番の部屋は予想以上に広かった。
50人近いぐらいかと思われる人々がきちきちに入っていた。
誰もしゃべっている人はおらず静かだ。
とりあえずすぐそばに居た背の高い人に話しかけてみた。
「すいません。闘技会っていつから始まるんですか」
「黙れ。ガキは帰れ」
「・・・・・・・」
『なんと無愛想な』
まあ、落ち着けって、ソウ。
みんな、今から戦うんだから気軽に話しかけたこっちがわる―――
「おい、今なんていった」
ストーーーーーーーーップ!
ソウ、口を勝手に動かすな。
しゃべらせるな!
「ん?帰れって言ってんだよ、この、クソガキが!!」
周りの目が集まっている。
「俺たちは遊びで来てんじゃないんだ。絶対に勝手父さんの病気を治してもらわなきゃ――――――」
パチン。
痛っ。
手のひらに衝撃が。
あれ、目の前のおっさんのほっぺの横に俺の手が。
ちょうど叩いた後のような体勢だなぁ。
いや~不思議だなぁ~。
「てめえ、よくもやりやがったな」
ソウさん、ソウさん、聞こえますか?
『ん、何じゃ』
ソウさん、そちらの状況を説明してください。
『この男にビンタしてやったが何か問題でも?』
・・・・・。
もう駄目だ。
俺の体は、精霊と名乗る悪魔に支配されていく。
否、支配されて逝くことであろう。
「くらえ!」
ちょ、殴ったのは俺じゃなくて悪魔が勝手に。
「恥ずかしくないのか」
注、ソウの言葉です。
男の拳が止まった。
「こんなガキにビンタされたぐらいできれるなんて、な」
男の顔が怒りで歪む。
ソウは続ける。
俺じゃなく、ソウ。
「そんな事でお前の父親を救えるのか。
怒りは自身の破滅を招く。
お前は、父親の頼みの綱なんだろう?」
注、もう一度言います。ソウの言葉です。
俺は断じて喋っていません。
「はっ。そ、そうだ。俺がこんなんでどうするんだ。
ありがとう、ぼうず。
すまなかったな。
お前のビンタと言葉で目が覚めたぜ」
え~~~~~~
「別に良い。それより、闘技会はいつ始まるのじゃ」
「ええっと、2時からだから、あと1時間とちょっとぐらいだ」
「分かった」
『主人、これで良かったかの?』
え?このため?
1時間ほどか?
まあ、だいぶ長い時間がたって。
「こんにちはです。
今から闘技会のルールを説明しますです。
ええっとですね。
勝負は、一対一。
場外に落ちる、降参する、死ぬ、この三つが敗北条件です。
とりあえず、以上です。
ご健闘お祈りしますです。
生きて帰れるよう、がんばってくださいね、です」
・・・・・。
いやぁ、だいぶ慌ててたな、あの子。
それでたぶん言い間違いをしちゃったんだろうね。
もう、どじな子は困るなぁ。
ねえ、ソウ。
敗北条件、1つ多かったよね。
それに、最後の一言も。
『ああ、そうじゃな。
実際に降参と言っても、相手が認めてくれるかどうか?
それに、最後の一言。
死者多出が面白いこの大会で、生きて帰れなんて、馬鹿な話じゃ。
安全な王国で唯一面白いのが、この行事だというのに。』
ダラダラダラダラダラ・・・・
『ん、主人汗をかいておるぞ。
まさか、さっきの女との距離が近くて緊張したのか?
まあ、手を伸ばせば、あの丸い尻に手が届きそうじゃッたしのう』
ガクガクガクガクガク・・・・・
『ん、主人、震えておるぞ。
おお、武者震いというやつか。
戦いと女が好きとは。
まあ、男はそのぐらいでいいもんじゃ』
部屋の扉を叩き、一人の女性が入ってきた。
「481番の方」
握り締めている紙には、不思議な記号が3つ。
ソウに読んでもらったところ、481。
俺はそのまま廊下を進んだ。
足が震えて上手く歩けない。
いや、考えなくては。
敗北条件は場外、降参、天に昇る。
そうだ、自分から場外に落ちればいいんだ。
簡単な事だ。
『そんなことしては、王の前で恐れを見せたとして、兵士に連れて行かれるぞ。
どこへかは、知らん』
・・・・・・・・?
俺のテンションとは正反対に、辺りに光が当たり始める。
俺を天国へと導く暖かな光だ。
そのまま、闘技場の中央の半径10mぐらいの台に乗った。
周りで歓声が鳴り響いているかもしれんが、そんな事は頭に入ってこない。
頭の中では、円周率が並んでいく。
歴史の年表が流れていく。
英単語がうようよしている。
「あれ、昨日の弱虫君じゃないか。
残念だったね、僕に当たっちゃうなんて。
さあ、ぼくは降参を認める派だよ」
3、141・・・・・・ん?
こいつ昨日のやつじゃないか。
なんか鼻血をたらしてるぞ。
「なんで、鼻血なんか出してんの?」
「ふん、これはハンディさ。
さっき転んだのも、わざとだ」
こいつ、戦えんの?
「あっそ」
その時、魔法で拡大された声が闘技場に木霊した。
「はじめぇぇぇぇぇぇ!」
「君なんかまだ、ハンデが足りないぐらいだよ」
こいつ、まだ言ってやがる。
「何せ、ぼくは、大貴族ペッツンルーモン家のあとつ、ブホアエッ!」
あれ、ちょお~っと加速して、殴っただけのはずが。
男は、場外ぎりぎりまで転がっていった。
周りからは、「帰れバカ貴族」や、「いいぞバンダナ」などの声が聞こえる。
「くそ、よくも。
ペッツンルーモン家の秘術、氷系統魔法セラインドクラ、ブハッ!」
あら、後ろに回りこんで蹴っただけのはずが。
男は台の中央辺りに転がっていった。
不思議な事もあるもんだ。
「くそ、なめたまねを。
そんなことしてられるのも今のうちだ、グフアッ!」
あら、足をつかんで持ち上げただけなのに。
1回転しながら飛んでって、頭を床にぶつけてやがる。・・・石の。
なかなか楽しいな。
「ふ、お遊びはここまでだ。氷けいと、ウンドゥス!」
でこピンくらったにしては大げさな。
ウンドゥスってどんな叫び声だ。
てか、何ででこピンで吹っ飛ぶの?
『自己加速は、自分の筋肉やら、神経やら、何やらかんやら、etcを活性化させ、運動能力を上げる魔法じゃからな。
無系統、強化系の最高峰、シンプルにしてファンタスティック。
扱い方は簡単なものの、凡人では10分使うと魔力切れで3日は寝込む。
そんな、スーパーウルトラミラクルスーパーな魔法なのじゃ。
だから、筋力が上がるのは当然じゃ』
まじ、俺そんなの使っちゃってるの?
『お前の体は、全身が炎を灯すための魔力タンクのようになっとるからな』
ははははは。俺の体はライターなのか。
将来は親戚のおっさんのタバコに人差し指で火を・・・
また、変なものと合体したものだ。
「きさ、はーはー。貴様、この俺をなめているのか?」
「イエス」
「どこまでも調子に乗りやがって。
こうなったら、ペッツンルーモンの本当の恐ろしさを教えてやる。
よし。
ここで、お前が負ければ、俺の家から紫を3本出してやろう」
「は?」
「お前の姿を見れば分かる。
ボロボロの服。
確実に盗みモンだと分かるそのバンダナ。
金がない事ぐらい分かって当然だ。
さらに、もう一本出してやっても、グフオエスッ!」
俺はこのバカを倒して、マウントポジションを取った。
「こういうのはどうだ、バカ貴族。
貴様が、紫を50本出すなら、そんなに痛くはしない」
俺は指に炎を灯した。
「払わないのなら、この炎であちこち焼いていく。
さあどうする?」
よし、俺の生活は安定する。
紫50本の収入だ。
「む、紫50?!
紫色通貨棒を50本出せというのか、って熱っ。
止めろ、その火を近づけるな」
いやぁ、いじめの素晴らしさを感じるね。
「出すのか?」
「紫50本あれば、家が5つ買える、って、やめて、髪をあぶらないで。
あ~~~~、ちりちりっていってる。
止めて~~」
「出すって言え」
「出す、出すから止めて。
パパに出してもらうから、服を千切らないで。
千切った服を焼かないで。
この服の生地高いんだぞ」
「おっ。出してくれるのか」
「出します」
「じゃあ」
俺は男の服を掴んだ。
「バイバイ」
そして投げた。
ゴロゴロ、ドス。
その低い響きと同時に、俺の勝利と、紫50本の利益が確定した。
楽しいね~
書いてて。
もう魔王とか止めて、こういう話に変えちゃおうかな?