2-8 キツネ男再び、その1
「ここか」
研究所とやらに俺は着いたわけだが、どうするか悩む。
このまま真正面から入るのもどうかと思うし、とてつもなくシンプルなこの建物にはこっそり入れるようなところもない。
結構悩んでいるんだが、周りに人が通勤ラッシュ並みにいるので怪しむ人はいないようだ。
どうやらこの世界のお祭りは昼がメインのようで、もう日も暮れようかとしている今は、家に帰る人や宿を探す観光客。
屋台を出していた商業人の店じまいなどで大変混雑している。
たぶん昨日ティーちゃんと歩いた道からの方が、入りやすいだろうと思い、歩き始めたそのとき町の中央の一番大きな建物の一角が爆発した。
さらにその音に合わせて研究所にも爆発が起こる。
一瞬静まり返った道で研究所から離れようとする人々が走り始める。
俺は爆発の起こった方に廻った。
俺がそこに駆けつけると、研究所の壁がそこだけなくなっていた。
その空間に次々と入っていく防衛隊が見える。
そのとき昨日聞いた会話が頭をよぎった。
━武器でも作らせるんじゃないか。天才も大変だよな━
俺は無意識に走り始めていた。
そんな事をさせてはいけない。
もう、タレットさんを助けようとしている人はいない。
みんな天才の頭脳を自分の物にしたいだけなんだ。
俺は研究所の中に走っていった。
「よし、突撃班は突っ込め。
爆破班は戻って武器の搬送をしろ」
防衛隊長は微笑んでいる。
(とうとうあの町長をこらしめれる)
防衛隊長は喜びながら、指示どおりに指令をする。
「最上階を目指せ。町長以外は殺すな」
隊長は裏道に転がっている木箱に腰を下ろした。
屋敷の守りはほぼ防衛隊に任せられている。
その防衛隊が押し入っているんだ。
もう占領は目の前に見えている。
彼の元にこの指令が入ったのは昨日だ。
防衛隊の中隊長以上の物に持たされている魔力通信機から入った。
かなり急な指令だったので驚いたが、今日は神誕祭なのでこのような奇襲にはぴったりだろう。
しかし、余裕は油断も呼ぶ。
(敵の武器には気をつけろと言われた気がするが、問題ないだろう)
その油断は時に失敗も呼ぶ。
この隊長は‘油断大敵’ということわざを覚えるべきだろうが、この世界にはそんな言葉はない。
「止まれ!」
目の前には、武装した人々が狭い廊下にウジャウジャいるが、俺の登場に驚きオロオロしている。
「焼かれたくなければ、すぐに戻れ!」
多分、民間人な俺は命令した。
すると一人の兵士が出てきた。
「民間人は建物から逃げてください。
歯向かうのなら、拘束します」
俺は一歩、前に進んだ。
「歯向かいま―――――」
「拘束しろ~!」
いや、いや、早いだろ。
「歯向かいません」もあるだろ。
まあ、逃げるつもりはなかったけど。
兵士のかたまりの中から3人が出てきた。
どいつも剣をさしているが使う様子はない。
「ソラフ!」
俺は自己加速を使い、一人の剣を抜き取った。
ははははは、お前たちの速さで拘束など出来る物か!
と心で叫びながら右手の人差し指にイメージをぶつける。
右人差し指を炎が被い、次いで手、そして腕、そして肩。
(・・・あれ、こんなに広かったっけ、範囲)
右手につかんでいた剣は燃え、柄の部分が焼け落ちて俺の手から落ちた。
その光景を見た兵士たちは驚きのあまり口を開けて固まってしまう(俺と同じく)
何でこんなに燃えてるんだ?
俺は火傷していないのか?
そもそも俺はライターと合体していて・・・
でも人間だよな。
まさか俺は炎の神として呼ばれたんじゃ?
『炎の神は女神サナイだけじゃ。主人、現実に戻って来い』
「・・・ょうぶ?」
そういえば話しかけられてるような。
前を見ると目の前にキツネ男がいた。
「返事がないただの屍のようだ」
「君、大丈夫か。
今、目を覚ましてあげるね」
こいつ、俺の死んだふりが効かないだと。
『直立不動の死体なんかどこの世界にあるのじゃ』
はっ、そうか、倒れればいいのか。
「セラスペシャル1」
何か聞こえた気がするが、とりあえず倒れよう。
痛っ。
あ~~~~~後頭部が~~~~。
そんな俺にキツネ男はさらに話しかけてきた。
倒れて死んでいる俺に、しゃがみこんで話してくるなんて、どこのバカだ。
『バカは主人じゃろ』
「・・・もしろいね」
「は、なんて?」
ソウ、お前の声、周りの音が聞こえない。
「面白いって言ったんだよ。あれだけのフォースを持っていて、旅人で、僕の技を後ろに倒れてかわすな
んて。・・・あと研究所に今いるってことは、今日の作戦知ってたの?」
キツネ男の目はやはり細く、表情が読めない。
「それはいいけど、タレットさんを捕まえてどうするんだ、セラ、だったか?」
俺は頭を押さえながら聞いた。
「本当は言わないほうがいいんだけど。
タレットさんには用はないよ、防衛隊としては。
今回は不正徴税してる町長が目的」
そのとき銃声が響いた。
パンっという音が3つ後ろから。
とっさに振り向き右腕で顔を覆った。
横ではセラが電気で渦を作っていた。
その中に銃弾が入った(自己加速がまだ残っていたから見えた)
「あぶなっ」
右手を伸ばし、飛びかかるが間に合わない。
だがあきらめかけた俺が見たものはキツネ男が撃たれるところではなかった。
電気の渦から逆向きに銃弾が発射された。
「フレミング、の、法則?」
俺の目の前は徐々に暗くなり・・・
・・・顔面を床にぶつけた、石の。
そこから最上階まではすぐに着いた。
セラの電気で一人残らず気絶させていったからだ。
しかし、そこにタレットさんはいなかった。
「おい、どうなってんだ、こら。焼くぞ、じりじり焼くぞ。
長時間にわたって殺さずにじりじり焼くぞ」
俺は右腕に炎を纏った。
(ここに来る間にソウに聞いた話だが、俺の炎が巨大化しているのは、魔力が体になじんで来ているからじゃろう、ということらしい。
そういえば、ヴァンパイアの時も鉄を溶かす速さが上がったりしてたような)
目の前の研究者A(俺、命名)の顔はあまりの恐怖に引きつるを超えて笑っている。
「た、たたたたあ、たた、お助け~!」
よし、こいつはだめだ。
俺は横の研究者B(俺、命名)に近寄り、
「おい、どうなってんだ、おら!焼くぞ、煮るぞ、揚げるぞ、炒めるぞ、ジャガイモの芽のようにメン玉くりぬくぞ!」
「やめ、煮るのはやめて下さい」
・・いや、そういう問題ではないのでは・・・
「タレットさんはどうした?」
「いや、炒めるのも嫌」
少しやりすぎたかな?
「タレットって言う人知らない?」
「やっぱり全部・・へ、あ、はい。役所に連れて行かれました」
切り替えが早い。
「セラ、役所に行ったらしいぞ」
共に聞き込みをしていたセラに声をかけた。
セラの後ろには、白目プラス口から泡プラス痙攣、な研究者C(俺、同情しながら命名)が居るがスルー
しておこう。
「あ~。分かったよ、じゃあ僕は行くよ、もうカンサ君が捕まえてるかも知れないけど」
そう言ってセラは近くの窓から飛び降りた。
おそらくセラスペシャル2(フレミングな電気なコイルな反則技)で着地するんだろう。
対して、(自称)一般人な俺はまじめに階段を降りるのであった。
遅くなってすんません。
塾の夏期講習とやらは結構ハードだったもんで。
部活引退したら、しっかりがんばります。