2-5 明後日
セラは装置を頭にかぶった。
恐怖に震えながらも。
周りには、研究者たちが集まっている。
装置の横の男が、ボタンを押した。
セラの意識は次第に薄れていった。
次に気が付いたのは、ベットの上だった。
「おめでとうございます、クレット博士」
ベッドのそばでは2人の男が話していた。
「博士の考えどおりですね。30人に一人は適合者が出ると。
このこは、27人目ですよ」
おそらく僕の事だろう、とセラは考えた。
「大陸初ですよ。フォースを人工的に作るなんて」
「ああ、ありがとう。
ところで、今回の非適合者の様子はどうだ」
「その件ですが・・・調べさせたところ、残念ですが、前回と同じく・・・全滅です」
セラは勢いよく起き上がった。
「ラミはどうなったんですか!まさか・・」
若い方の男が振り返った。
「目が覚めたかい?おめでとう、君は最初の適合者だ。
その子の事はよく分からないが、何の問題にもならない」
どうでもいい、みたいな口調が、セラには気に入らなかったが、今はショックの方が大きかった。
セラは物心がついてからはじめて泣いた。
涙が頬を伝って、落ちて、石の床に弾けた。
すると、年老いたほうの男がセラに向かって話し始めた。
視界がにじんで顔が良く見えない。
緑の髪と目をしている事だけは何とか分かった。
「すまない。ラミちゃんはもういない。
私のせいだ。
本当にすまなかったと思っている」
その言葉の意味はあまりにも重くセラにのしかかった。
「博士、どうせ記憶は消すんですから、頭を下げなくても」
と、若い方の男が言ったが博士は続けた。
「きみには、来てもらはなくてはならない。立てるかい?」
「すいません、大丈夫ですか」
淡々とした声がかけられた。
「っと、ごめんよ。
少し考え事してた。
あと、そのパスポート期限切れだよ。
まあ、それは良いとして、君のこれまでの経緯を少し知りたいな」
少女は、静かに話し始めた。
「分かりました。
私は、祖父を追って、東の森の村からこの町に来ました。
そこで、銃を向けてきた兵士二人を気絶させ、ここに運びました」
3つ目の文は、説明不足だと思うが、気にしない事にしよう。
「今日は、宿で砂糖水をのみ、町で砂糖を食べました」
かなり変だが、彼女が純粋な人間なら、の話である。
「突っ込んできた魔物を殺して、モンスターの群れを追いかけました」
前半かなり変だが、彼女が純粋な人間なら、の話である。
「そこで、あなたに会いました」
「丁寧(絶対に違うが)な説明ありがとう。
でも、出来れば前の村であった事も、教えて欲しいな」
「分かりました」
もう、夕方だ。
部屋の中も冷え始めた。
少女はその中で淡々と話し始めた。
「私の祖父はフォースの研究者です。
私の祖父は私がまだ小さい頃その研究を成功させました。
それが、あなたです。
その後も祖父の研究は続きました。
祖父は色々な装置を作りました。
しかし、100%の人がフォースを手に入れることの出来る装置は作れませんでした。
祖父は、フォースの仕組みや、統計的資料を調べるだけでなく、伝説や神話、歴史についても調べました。
適合者と非適合者の違いも調べました。
ある日、彼はフォースについての研究をやめました。
なぜかは分かりません。
ある日、ここの町から役人が来ました。
町長があなたの助けを必要としていると。
しかし、祖父は断り続けました。
町は、祖父が断るたびに嫌がらせをしてきました。
村に流れる川を塞き止めたり、貿易を断ったりと。
そして、祖父が断るたびに、村の人からも嫌われました。
祖父は、最後には暴力で無理やり連れて行かれました。
残された私は祖父の装置の中の一つを使いました。
外見も変えることが出来るものでした。
それを使って、村から逃げ出しました。
私も村人から嫌われていたからです。
そして、この町に来ました。
これでよろしいですか」、と。
彼女は話し終えた。
淡々とした口調で、主に一日の予定を伝える執事のように。
しかしそんな上品な感じは全くない。
「そうか、うん、分かった。
ありがとう、お嬢ちゃん。
色々と助かるよ。
明日、また来てね。
その間に、君の罪は正当防衛ってことにしとくから」
「分かりました」
「あと、お嬢ちゃん、おじいちゃん似だったんだね」
「そうだったのか」
「そうだったんじゃの」
俺は、聞くべきだったか、聞かぬべきだったか、微妙な気持ちだ。
ソウの魔法は上手すぎて、しっかりと聞こえてしまう。
防衛隊ダイザナ支部の窓からは、オレンジ色の光が入ってきている。
「主人、もう行くかの」
そう言って、ソウは歩き始めた。
俺はそのうしろを歩いた。
「ソウ、俺、ウィーディーのおじいさんを助けようと思うんだけど」
だいいち、あんな話を聞いといて、そのまま次の町に行く訳にも行かない。
「いいんじゃないかの、主人がしたいと言うのなら。
なんせ、主人は我の主人じゃからの」
支部を、2人は出た。
「それにしても、主人はお人よしじゃのう」
「フッ、冗談言うな、お礼にお金がほしいだけだ」
「ところで、いつ助けるのじゃ?」
「ん~~~。あさって」
「根拠は?」
「ないけど、どうかしたか、ソウ」
「ま、そうじゃろうと思っておったわ」
「どうしたものか」
「どうしたものか」
「どうしたものか」
ダイザナの町人たちは、非常に困っていた。
彼らは、この町で革命を起こそうとしている集まりだ。
「まさか、あれだけかかって準備した魔物たちが一瞬でやられるとは」
「なぜ雷神がここにいたんだ」
ちなみに、雷神とは、セラの呼び名の一つである。
「分からん。しかし、それは今考える問題ではない。
今話し合うべき事は、今後どうするかだ」
かれらは、一つのテントの中で話し合っている。
単なるテロ組織な訳だが、しっかりとした組織になっている。
まず、全メンバー200人弱を地域によって10個に分け、それぞれの代表が、こうして会議を開き、方針を考えている。しかし、
「もう、メンバーたちも不満だらけだ」
「町から逃げるしかない」
「なに、貴様、自分たちの町を捨てるというのか」
「静かにしろ、見つかったら全員首吊りだ」
「俺はもう降りる」
「お前、魔物を使うのはお前の意見だったろうが」
「失敗したから逃げるというのか」
すでに、会議になっていない。
その場に低く重い声が響いた。
「静まれ~~~!!!」
刹那、騒ぎが止まった。
「ボ、ボス」
「すいませんでした」
茶色い髭を伸ばした、彼らの指導者は続けた。
「分からないのか。もうやるしかないんだ。
武器の裏ルートはもう出来てるというのに、ここにいるのはちんけな腰抜けばかりか!
突撃だ。
夕暮れ時に店じまいの騒動に乗じて突っ込む。
あさってだ!」
もうすっかり日は落ちている。
しかし宿の中の、彼の取った部屋だけ明るかった。
それは彼の手のひらから放たれている光だった。
「レイサ、特隊長からの指令として、伝えてくれ」
『ずいぶんいきなりね。分かったわ、どうぞ』
「ダイザナ支部の防衛隊の戦闘部隊、特殊部隊の屋内専門戦闘部隊の出撃の指令だ。
ダイザナ町長の屋敷、隣接する研究所、ダイザナ役所を、占領せよ。
目的は、町長の拘束、クレット氏の保護だ。
敵は最新の遠距離武器を使ってくる。
近い間合いで短期決戦で行け。
ダイザナ支部で屋敷と研究所、特殊部隊は役所を攻めろ。
攻撃開始は、あさっての夕暮れ時。
店じまいの騒がしさに乗じて始める。
以上だ」
『OK伝えとく。ずいぶん張り切ってるね』
「まあ、仕事だからね。
それに、クレットさんを見つけて殴らなきゃいけないんだ」
『クレットさんって、フォースの研究の人だよね』
「うん、そうだよ。いろいろと思い出に残ってる人だけどね。
そういえば、クレットさんのまごむすめちゃんにあったよ。
とっても可愛かったよ。
会いたい?会いたくない?」
『セラは女の子はみんな可愛いでしょ。
でも、会いたいわね』
「やっぱり!じゃあ、今度会わせてあげるよ」
明日、部活の試合なので更新無理です。