2-4 キツネの過去
今、俺は人生で始めての取調べを受けている。
隣にウィーディーが居なかったら、心臓が爆発してるだろう。
やはり、一人で怒られるより、大勢で怒られたほうが楽だ。
「私は銃を向けられたからです」
何!こいつ逃げやがった。
ならば俺も、
「みんなに好かれているのが、むかついて」
よし、何かしら言ったから何とかなったり、
「それ、弁解どころか言い訳にもなってないよ」
って、ならないか。
まあ、あれにはもう一つ訳があるからな、
「それに、手柄を横取りされたのが、むかついて」
どうだ、まいったか。
「横取りって・・・。君に手を差し伸べた人は、お礼をしようと思っていたらしいけど」
MAZIKAYO・・・そうとうひどいことやっちまったな・・・
俺は馬鹿だった。
いや、馬鹿だ。
生まれてから今現在までずっと馬鹿だ。
自覚症状がありすぎて、挙げていったらきりがないので省く。
「でも、助かったのは助かったかな。あの人、君がいなかったら今頃僕の雷球で焼肉だからね」
部屋の隅には寝かされてる男がいる。
俺が蹴ったこめかみ辺りが赤く腫れていて、痛そうだ。
ちなみに、あの光は目の前のキツネ男ことセラの作った雷球がやったことで、少し離れるのが遅ければ、俺は死んでいた。
この世界には魔法のほかにフォースと言う物があるらしく、魔法と違い、極めて少ない人が生まれつき使える、身に付いている力なそうな。
で、彼のフォースが、電気を発生させ、操る物だとか。
「あの人からは、いろんなことが聞けてね、それはありがたかったかな。
合わせて±0ってことにしてあげても良いけど、そうする?しない?」
で、さらに、こいつはそこそこ偉いらしい。トクタイショウとかだったと思う。
「そうしてほしい」
こいつに頼るのは嫌だが、罰金取られるのは勘弁だ。
「やっぱり!じゃあ君はもう帰っていいよ。
後は、このお嬢ちゃんの事を少し知りたいな~」
ありがとうございます、と一応いって、部屋を出た。
『主人ちょっと待て』
お、ソウか。
ひさびさの登場だな。
「少し、あいつらの話を聞きたい」
そしてひさびさの憑依解除。
「フラシル!」
ドアに前足をあて、ソウが唱えた。
「おい、ソウ、何だそれ」
「静かにしろ、主人。
今、中の話を聞いているところじゃ」
それって、盗聴という物では。
まあ、あえて気にしない事にしておこう。
「わかった」
「ふーん」
僕がいくら特隊長でも、嘘を見破るなんてことは出来ない。
僕の前に置かれたパスポートには、緑色の髪と目の少女。
目の前の本物は、金髪に黄色い目。
外見上では、全く違う。
しかし、彼女の言うことが本当ならあり得る話。
しかし、本当に人体改造されたかどうかは分からない。
その確立はほとんどないに等しい。
しかし、セラは過去、実際に人体改造されたことがあるのを知っている。
―――――今からずっと前。
魔王封印50年の祭りがあったころ。
セラがまだ伝説の勇者になることに憧れていた頃。
セラは山の中の高い所にある町に住んでいた。
そこはちょっと変わった町で、子供だらけだった。
大人は白衣に身を包んだ数人だけ。
セラたちは、そこで、一緒に一つの建物で暮らしていた。
ステリウス教の教会を改造した物だった。
そこでの生活はとても楽しかった。
みんなで、ごはんを食べ、遊び、学び、笑ってすごした。
山の斜面をみんなで走ったり、木の実を取って食べたり、悪さをして、怒られたこともあった。
セラはその中でも静かなほうだった。
普段は、みんなが遊んでいるのを、窓越しに見て、ステリウス教の聖書を読んだりして過ごしていた。
しかし、一人だけセラと同じように、聖書を読んでいる子がいた。
セラと一緒にここへ連れてこられたらしいが、セラは、物心がついた時から教会で過ごしていたから、その前のことは知らない。
「ラミ、なんで、そんな物読んでんだよ」
その子は、ラミというセラより2つ、3つ上の女の子だ。
人に接するのに慣れないが、気になったセラは、ぶっきらぼうに聞いた。
「あのね、お母さんが神様を信じて生きなさいって言ってたの。
私たち、捨てられたんだけど。
セイブルはお母さんの事覚えてないの?」
セラはその頃セイブルと呼ばれていたし、それが本名だ。
「僕はお母さんなんて知らない。お父さんも、おばあちゃんも、おじいちゃんも。どこに居たかさえ知らない。
お前は、いいよな。
俺は何にも知らない。大人になっても、勉強しても、死んでも何も分からないんだろうよ」
「聖書には、こんな言葉があるの『死ぬなんて言葉は使ってはいけない』。知ってる?知らない?」
「知ってるよ、それぐらい」
「やっぱり!じゃあ、これからは絶対言わないでよ」
「分かったよ。じゃあね」
そう言って、セラは聖書を元に戻し、庭園に出た。
庭園には、色とりどりの花が植えられ、太陽の光を浴びて、輝いていた。
そうして、時は進んだ。
セラたちは、もうかなり背も伸びて、勇者の夢を、あきらめ始めた頃、少し、生活が変わった。
一定の年齢以上の者が、山の山頂近くの建物へと連れて行かれた。
その建物は、真っ白の壁と、全体的に四角い造りで、教会3つは入りそうな巨大な建物だった。
セラは、連れて行かれなかったが。ラミは連れて行かれることになった。
「お別れなんて嫌だ」
セラは、毎日ラミと一緒に遊んでいた。
「私も、だけど、聖書にこんな言葉があるの。
『信じあえば絶対に結ばれる』って。
知ってる?知らない?」
ラミは笑おうとしたが、上手く笑えない。
頬を涙が伝って、中庭の草の上に落ちた。
「もちろん知ってる。だけどそれには条件があって・・・」
「愛があれば、でしょ。・・・信じあえば、ってあるのに・・愛までつけるなんて、くどいよね」
「でも、でも、両方あるでしょ」
ラミは少し笑って、
「告白するなら、もっと早くしなさいよ。
いつ、離れ離れになるか分からないんだから。
・・・返事は、次ぎ会った時でいいよね」
それだけ言って、ラミは行ってしまった。
それから、さらに時は進んだ。
とうとう、セラがあの建物に連れて行かれる時が来た。
セラは馬車に一番に乗った。
話をする相手がいないから、暇だっただけ。
そう考えていた。
セラは馬車から降りて建物の中に入った。
建物の中には、見た事もない装置がたくさんあった。
その中から、白衣を着た一人の男が近づいてきた。
「今から君たちにしてもらう事は、たったの2つです。
まず、左に見える装置の輪の部分に、手を通してください。
少したったら、番号の書かれた紙を渡すので、右の装置の中から、紙に書かれた番号の装置を探して、そこの人の指示に従ってください」
一番先頭にいたセラは、その男に聞いた。
「あの、これが終わったら、どこへ行くんですか」
戻ろうとしていた、その男はセラをにらんだ、がセラも負けずに睨み返した。
「そんな事知るか。とっとと言われたとおりにしろ」
回答は、それだけだった。
しぶしぶ一つ目の機械のほうへ向かった。
小さな円形になっているところがあり、みんなそこに手を通している。
セラも、そこに手を通した。少し経つと、機械の横にいた人から、紙が渡された。
セラの紙には、8番と書かれていた。
質問をしている間に、セラは、一番後ろになっていた。
他のみんなは、もう2つ目の機械を頭に付けている。
8番の機械は4つあった。
しかし、全て使われている。
機械の横の男は、今回は8番が大人気だなーなどと言っている。
そのまま少しの時がたった。
他の人は、装置に目まで覆われ、表情が分からない。
その顔が、いきなり歪んだ。
すると、他の装置からもいっせいに、うめき声が聞こえ始めた。
その途端に、装置がはずされた。
うめき声は、収まった。
しかし、子供たちはぐったりとしている。
これまで、一緒に遊び、学び、暮らしてきた仲間たちが。
「さあ、そこの僕、これをかぶってね」
装置の横にいた男が、その装置をかぶっていた少女を装置から振り落とし、言った。