2-2 砂糖とスプーン
「ファ~~。こんな夜に何のようだい。皆さん」
キツネのような男はあくびをしながら聞いた。
「防衛隊2人を拘束しました。私に銃を向けたためです。私たちはこの二人を預けに来ました」
ウィーディーの言葉はやはり単調だ。
「ありがとうね、お嬢ちゃん。銃を向けたなんて、ほんとにごめん。部下はちゃんとしかっておくよ」
キツネ男は笑いながら言った。
笑うともともと細かった目が全く見えない。
「でも、僕は直接しかれないから、ここの中隊長に言っておくよ。
謝礼はまた後であると思うから、ここに名前と職業ぐらい書いといてね。いい?だめ?」
「分かりました」
「やっぱり!じゃあ頼むよ。僕は調べ物の最中でね」
そう言ってキツネ男は奥のほうへ行ってしまった。
俺たちが帰るときには、スヤスヤ眠っていたが。
俺たちは近くの宿に泊まった。
大きくはなかったが、悪くはない普通の宿だった。
ソウ、この世界には風呂はないのか。
『そんな物はないが、町を探せば体の汚れを取る仕事をしている魔術師はいるはずじゃ。
なにせよ、こんなに広いからの』
そうか。
ところで、いったいウィーディーは何者なんだ?
あの紙には職業は無職だと書いていたが。
『やつは、普通の人間と違うオーラを持っておる。魔物の類いではない。我としては少し気になる』
オーラ?何それ?
『その生き物が、無意識に発している生命エネルギーじゃ。主人も少し変なオーラを出しておる。それも気になるの。やつの正体が知りたいのぅ。出来れば主人が探ってくれれば嬉しいんじゃが』
目が覚めたとき、太陽はもう結構高いところまで昇っていた。
この世界の時間は前の世界より1日が短い。
こっちの世界の時間にはまだ体が慣れていない。
部屋から出て、階段を降りた。
1階には食堂がある。
食堂の中に入ると、ウィーディーがいた。
明るい所でみるとかなりかわいい。
なにやら宿の人と話している。
「ほんとにいいんですか、お客さん」
「あなたが気にする必要はありません。それだけでいいんです」
「分かりました。すぐにお持ちします」
なぜか、トボトボ歩く宿の人に俺は声をかけた。
「おはようございます」
「あっ、おはようございます。朝食は、普通の物でよろしいですね」
この世界は良く分からない。普通じゃない物なんてあるんだろうか。
隠しメニューとか?
「はい」
それだけ答えて、ウィーディーの向かい側に座った。
別に、ウィーディーが恐ろしいほど顔の整った美少女だからではない。
これは、色々考えた結果、この席が一番良い席だと判断したからだ。
分かったか、ソウ。
『ん?主人か。もう朝かの?」
ソウはまだ寝ていたようだ。
すぐに、俺の前には、麦てきなものと、野菜の朝食が出てきた。
しかしウィーディーの前には、コップ三杯の白い液体が出された。
「ウィーディーさん?何すか、それ」
「砂糖水です。あと、敬語は必要ありません。私はあなたに宿代を出してもらいますから」
「砂糖水?」
「水に砂糖を溶かした物です。理解できましたか」
ウィーディは三杯の内、一杯を飲み干した。
「それは分かっているんだが・・・」
太陽の高さから、もう日が昇ってからだいぶ経っているのは確かだ。
とすると、砂糖水の注文にだいぶ時間がかかったんだろうか?
それとも、俺が起きるのを待っていてくれたのか?
出来れば後者であって欲しい。
「何で砂糖水なんだ?」
ウィーディーは二杯目を飲み干し、三杯目を飲み始めた。
俺はとうとう、超ど級の疑問の解明を始めた。
「必要ないからです。詳しいことは話すと長いですが」
「じゃあ、外を歩きながら話してもらってもいい?」
そう言ったのには理由がある。
一つは、ソウの頼み。
もう一つは、厨房の方から「なんであんな物をお出ししたのだ」などの叫び声が聞こえたからだ。
「ほんとは、ここ出たところで別れるつもりでしたけど、いいですよ」
「その説明の前に私がここに来た目的を話した方がいいでしょう」
今、俺は金髪の美少女と町の大通りを歩くという、最高の状態に陥っている。
ウィーディーが少し俺に近寄った。
俺は今まで女子に避けられて、というか、世界中に嫌われて育ってきた。
そんな俺にこの状況は夢でも見ているようだ。
鼻血が出たときのためにティッシュ用意しとかないと。
ポケットに手を入れると、紫二枚分弱の小銭がジャラリ。
最高だ。
「しかしその前に・・・・・そうですね。いきなりですいません。あなたに協力していただきたい事があります」
ここから先の話は、周りに聞かれたくないということで、近くの喫茶店みたいなとこに、入ることになった。
しかし、そこの入り口で
「ちょっとそこの緑色のお嬢ちゃん。ここのお茶はとっても美味しいんだよ。知ってた?知らなかった?」
「そ、そんなの知りません」
「やっぱり!じゃあ、一緒にここでお話しない?」
・・・よし、離れよう。
「ウィーディー、ここはやめとこう」
しかし、あのキツネ男、こんなに遊び人だったとは。
ドラ〇エのパーティーには、絶対に入れたくないな。
そうして、俺とウィーディーは少し先の店に入った。
俺の前には水、対して目の前の金髪美少女の前には砂糖が皿に盛られている。
ウィーディーはその砂糖の山を、持参したスプーンで食べ始めた。
激しく装飾されたスプーンで、突っ込みどころ満載だったが、
「なんで砂糖?しかもそんなに」
そっちの方を先に聞くべきであろう。
「いや、昨日は一日中砂漠を歩いてきたから」
「いや、そっちじゃなくて、なぜ砂糖ってことを」
しかもこの世界の砂糖高いし。
「それは、今から話すことに関係します」
今俺たちは、木の椅子に座って話しているんだが、なんと、4方が木の壁で仕切られた個室である。
ハンパなく嬉しい状況だ。
しかし1つの事件が起こった。
「私がここに来た理由は____」
ドガーーーーーーーンという音、そしてバキッという木材の折れる音が入り口のほうから、個室の壁を突き破って聞こえた。
ワンテンポ遅れて、人々の叫び声が響く。
引くタイプの扉を開けようと振り向いたその時。
「てい!」
バキッと、引くはずの扉が外側にへし折られた。
その隙間をウィーディーが凄い速さで通っていく。
その手に握られているのは・・・スプーン?
長さ1mほどに伸びたスプーンがウィーディーの手に握られていた。
「じゃあ、一緒にここでお話しない?」
「いえ、結構です」
意外なほど即答。まあ、いきなり現れた僕にこの状況でOKはないだろうけど。
「大丈夫、お金ならあるから」
っと言いつつ財布を見せる、いや、財布の中のバッチを見せる。
「・・え、ええ、そっ、それなら」
どう考えても不自然すぎるだろう。
まあ、いきなり話しかけてきたやつが、防衛隊の特隊長だったら驚くだろうけど。
そのバッチは、防衛隊の証、花形のバッチである。
しかも、花びらの数が大隊長以上の者を表す6枚だ。
防衛隊は、この大陸の人々と治安を守る組織で、下から隊員、小隊長、中隊長、大隊長の位がある。
それらはそれぞれ割り当てられた地域の治安維持に努めるが、それとは別に、割り当てられた地域がなく許可なしに行動できる特殊部隊がある。そこの隊長は特殊部隊大隊長、略して特隊長と呼ばれ大きな権力とそれに見合う実力をあわせ持つ。
「じゃあ入ろうか」
ここの主人とは知り合いだ、真っ直ぐに一番奥の防音魔法が張られた部屋へと案内してもらう。
「いきなりだけど、聞きたいことは3つ。
一つ目に、ここの町長はいつ変わったか。
二つ目に、税金は高くなったか。
三つ目に、この町のことについて少し。
あっ、あと四つ目に、今の町長のことについて少し。
あと、名前とかは言わなくていいから」
「分かりました。まず、町長が変わったのは・・・」
このまま話は順調に進むと思っていた。
『セラ、あなたのいる町に魔物が忍び込んだわ。場所はそこを出てすぐ東』
しかし、ところどころ跳ねた髪に隠してある、耳元の魔力通信機から、倒せという意味であろう連絡が入った。
『分かった、レイサ』
「ごめん、急用を思い出した」
そう言って、特隊長は魔物のもとへ向かった。