2(金髪の少女)-1 ダイザナの町
2章早速始めま~す。
水・・・・
___水
・・・水
『水ばっかりうるさいのう』
ソウ、いつになったら町が見えてくるんだ。
地平線しか見えないぞ。
ラピュタの歌の中だけの物だと思っていた地平線しか見えないぞ。
『あと半日もかからん』
・・・死んだな。この世界に来て何度か死んだと思ったことだあるが、これは死んだ。
今日でこの俺の16年の人生も終わりだ。
『なぜじゃ』
なぜって、砂漠を水なしで炎天下の中歩いたら死ぬだろ、この糞猫~~~~!
『落ち着け主人。水がほしいなら、自分で出せばよかろう。呪文はベームじゃ』
何だよ!もっと早く言えよ。
「ベーム!べーむ!べえむ!部餌霧!」
おい、どうなってんだ。
いくら叫んでも、両手で作った手のお椀には、一滴の水も出てこない。
『そうか、やはり主人は火系統のようじゃな』
どういうことだ。魔法ってどうなってんだ。
『魔法には系統があって、基本系統が炎、水、風、土。それぞれに変異種があって、土は植物、風は雷、水が氷で、炎が毒じゃ』
ど、毒・・かぁ~。
恐ろしい魔法があるんだな。
『そのほかに、特異種と呼ばれる、光と闇がある。あと無系統もある。普通一人、基本の1系統もしくは1系統とその変異種しか使えん。無系統は魔力があれば誰でも使える。あと、光と闇はただの伝説のようなものじゃ。実際に見たことがない。』
てことは、俺には火系統以外使えない。使えても毒か。
どうすればいいんだ。
前にあるはずの町は見えないし、後ろも、さっきまでいた森は見えないぞ。
絶望しながら後ろを向くと、ザッザッザッザッザという音が聞こえた。
「ジョーカーさんじゃないですか」
「ええ、はい、また会いましたねケイスさん」
「1日に2回も会うなんて、奇遇ですね。隣、どうですか。あと水も。干からびそうな顔してますよ」
「ありがとうございます」
そう言ってケイスさんのボトルを受け取った。
ゴクリ
喉から流れ込んで来る水、生命の源。
その水が体中をめぐり。
「フゥ~」
「それにしても、水なしで砂漠を渡ろうとするなんて。かなり自信家ですな」
「からかわないで下さいよ、ケイスさん。これはそもそもソウが10分そこらで次の町に着く、とか言ったもんですから」
ケイスさんは驚いた顔をした。
「ソウ、とは?ペテン師ですか?10分どころか100分あっても着きませんよ、ダイザナには」
ダイザナ。
確かグラスクさんが言ってた町だ。
「いえ、僕にくっついてくる精霊です。わがままで、面倒臭がりで、無茶苦茶なやつなんですけどね」
「それは失礼しました。精霊を持ってるんですか。で、今どこに?」
「えっ、あ~、僕に憑依してます」
「ふ~ん。憑依ですか。珍しい精霊ですね。そういえば、前の村にいた時、ジョーカーさん最高でしたよ。なんせ、みんなの憧れの防衛隊の隊長が、あのビンタで泣いちゃって。ほんとに、腹がよじれてちぎれちゃうかと思いました。」
とケイスさんは立派なお腹をさすった。
かなり低い所までおちた太陽が、遠くに見えた鉄の柵を光らせた。
「お前、パスポートを盗むなんて、凶悪度3の犯罪だぞ」
「いったいどこで盗んだんだ」
町の入り口では、2人の男と、
「盗んではいません。私のパスポートです。早く町に入れなさい。私にはその町に入る権利があります」
1人の金髪の少女が言い合いをしていた。
左右にはどこまでも続きそうな鉄の柵。
柵の間は腕がぎりぎり通るぐらい。
高さは俺が3人で肩車したぐらい。
つまりこの入り口から入るしかない。
「すいませんが、いったいどうしたんですか」
ケイスさんが話しに割り込んだ。
「あなたには関係ありません。パスポートをお見せしてくれれば中に通します」
言い争いをしていた男の片方が答えた。
そうか、パスポートがいるのか。
じゃあ俺はどうやって入るんだ。
「そこのお嬢さんもパスポートを持っているようですが?」
まあ、妥当な質問だろう。無難かは分からんが。
「このパスポートは盗まれた物です。顔写真のところを見れば分かるでしょう」
見せられたキャッシュカードぐらいのパスポートには、緑の髪をした少女が写っていた。
さすがにこの少女とは違いすぎる。
写真の少女は緑の短い髪に緑のおっとりとした目、ふっくらとしたほっぺ。
今いる少女は金髪長い髪に黄色で鋭い目、きりっとした顔だ。
どう見ても別人だ。
「もう一度言います。私にはこの町に入る権利があります。これ以上私が町に入るのを拒む場合、私はあなたたちを攻撃することが自然だと考えます」
いやいやいやいやいや。
自然じゃないでしょ。
淡々とした機械のようなしゃべり方で、言ってることめちゃくちゃだぞ。
「何だと、このガキ」
「俺たち2人と1人でやり合おうってか?ああ?」
お兄さんたち、いつの間に武器を取り出したの?
ケイスさんの質問に答えた男の手には、銀色に光る鉄で出来た武器が。
てか、あれは?
「新型の遠距離用武器だ。まだ一回も使ってないから、試し射ちしてやるよ。安心しな、殺しはしない。凶悪度3だからな」
そのお兄さんの手には、少し大きめの拳銃が握られていた。
「まて、お前、犯罪者を罰するのは、上の指示がないといけないんじゃ」
「うるせ~な~。少し怪我させるくらい問題ない」
その銃が金髪少女の足に向けられた。
手を伸ばせば届きそうなぐらいの近距離、この世界の銃(在った事に驚き)の性能が低くてもさすがに当たるだろう。
そのはずだった。
拳銃から弾が撃たれる瞬間に、少女は軽やかに右斜め前に飛んだ。
そして、銃を撃った衝撃で反り返っている男の目の前に着地。
その顔に、右足を軸に回転し、
「ていっ!」
計算され尽くされたような裏拳を当てた。
その、小柄な体からは信じられないほどの威力だ。
左手は、男が持っていた拳銃をつかんでいる。
その銃を、回転しながら地面に叩きつけられた男に向けて、抑揚のない声で言った。
「少し怪我させるぐらい問題ない、と。・・・私もそう考えます」
怖い、そして速い、1秒もかからずに、男一人簡単に倒して、武器まで取っちまった。
しかし、これは町に入るチャンスだ。
俺の考えたパーフェクトでワンダフルな作戦を、紹介しよう。
作戦第一、この女の子に活躍してもらい、誰もいなくなったゲートを普通に通り、入る。
第二、この男の人を救い、感謝されて、「もちろん入ってもらって結構です」な状況にする。
第三、俺がこの男の人を殺してストレス発散。
まあ、第三は止めとく。
ここは、第二でいくか。
そう、俺は考えた。
しかし、第一の手を選ばなくてはいけなくなった。
金髪少女が二人目の男を膝蹴りで伸ばして、一人目の倒れている男を蹴って気絶させてしまったからだ。
「一緒に来ていただけますか」
ため息をついているところに、アクセントも強弱もへったくれもない声がかかった。
「この提案を受け入れてもらえない場合、私は今晩の宿の金がありません。よって、受け入れてもらえない場合、攻撃します」
いや、止めてくれ。
こいつ考え方がおかしいだろ。
自分勝手だな。金がないから一緒に来いって・・
まあ、いいか。
少女の頼みだ、受け入れないわけには、いかないだろう。
『主人も強がりじゃな。冷や汗ダラダラじゃないか』
「ケイスさんいいですよね?」
と振り向くと、ケイスさんは拳銃をしげしげと眺めていた。
「これはものすごい発明だ」
この町は、妙に変でおかしな町だった。
中途半端にハイテクな機械があちこちにある。
固まった砂漠の地面の上の木の家に、ガラスのような窓。
夕方の赤い光の中の街灯。
固まった砂漠を走る自転車もどき。
しかし、その中を馬車で進むケイスさんと、金髪少女ことウィーディと、俺は、恐ろしく妙に変でおかしかった。
正確にはあと2人、男がいるが、見つかってはまずいので、馬車の中に隠してある。
今は、その二人を町の防衛隊の施設に運んでいるところだ。
もうじき日も沈むので、商店街の店はどんどんしまわれていく。
砂漠だからか、気温が下がるのが肌で感じられる。
夜はいい宿を取らなきゃ寒いだろう。
そんな宿を2部屋も取るのか。
俺は無職だってのに、ひどいな。
だいたい、なんでこいつはこんなに強いんだ。
ソウだけで手一杯なのに、ウィーディーまで。
『手一杯とは?どういうことじゃ。我はそんなに攻撃的で無茶苦茶なやつかの?まず、主人は・・・・・』
そんな、ソウの愚痴は防衛隊の兵舎に着くまで続いた。
こいつも良くしゃべる。というか、ほとんど俺の愚痴なんですけど。
二人の男を、俺とウィーディーで1人ずつかかえて、防衛隊兵舎一番正面の建物に入った。
そこには、ところどころ跳ねた白い髪をした、目の細い男がいた。
背の高さは180ぐらいだろうか。
縦にひょろ長い。
細い目と細い顔でキツネに似てる。
その男は雑誌を読みながら言った。
「こちら、防衛隊ダイザナ宿舎で~す。ところで、今日の営業は終了していますってこと。知ってた?知らなかった?知らなかったでしょ。やっぱり!」
今回出てきた2人は結構出すつもりです。
ウィーディーにやられた2人じゃなくて、ウィーディーと、キツネくんです。