1-終 旅の始まり
よしっ決めた。
セナルカーフィス王国に行って、こんな世界にいきなり連れて来た仕返しをしてやる。
俺はセナルカーフィスを潰す。
『そんなこと出来るのかの』
絶対出来る。
俺が出来るといったことは、8割がた出来る。
たかが王国の1つや2つ。
『たかがといっても、この大陸の四大大国じゃぞ』
何だそりゃ?
『この大陸のほとんどは、その四大大国が治めておる。それを潰すということは、この世界の4分の1を倒して、そこを治めるということじゃぞ』
少しきついかも。
まあ、行ってみないことには何も始まらん。
もしかすると、この世界に呼び出してすまなかった。せめてもの謝罪だ。ジャラジャラ。
なんてことになって、裕福に暮らせるかもしれない。
『主人、よだれがたれておるぞ』
「レイシーさん、それにレイシーさんのお父さん。これまでありがとうございました」
今日もすがすがしい快晴だ。
青い空がどこまでも続いている。
「ぼくは、王国に向かいます。あと、ヴァンパイアの騒ぎのことで、この村に少しお金が入ると思います」
「それはありがたい。お礼を言いたいのは俺のほうだ」
村長さんの顔は今日も普通だ。
「助けてくださってありがとうございました。ジョーカーさんは命の恩人ですよ」
レイシーさんも、ここ数日で、健康的になった。
肌はきれいになって、瞳は輝いている。
腕の切られた跡も消えかかっている。
「では、さようなら」
「さようなら」
「またいつ来てくれても歓迎するぞ」
俺は、昇り始めた朝日に向かって、村を出発した。
次の村までの間に、ヴァンパイアがいれるほど、暗い森がなければ完璧だ。
次の村に着いた頃には、太陽は真上に近づいていた。
訪れる先はもちろんナナルジアさん一家。
「いらっしゃい」
とりあえず歓迎を受けて、中に入った。
家にはナナルジアさんと、グラスクさんがいた。
「昨日はありがとうございました。もうなんて言ったらいいのか」
グラスクさんが生き生きした笑顔で話し始めた。
「あなたのおかげで、ヴァンパイアの被害はなくなりました。しかも、ほとんど犠牲を出さずに」
「人間に戻ったヴァンパイアたちはどうなったんですか?」
このままだと、夜まで話続けそうだったので、気になることだけ聞くことにした。
「兵士に連れて行かれました。そして、王国の増築作業の手伝いをするらしいです。当分は、テントで寝ることになるでしょうがね。あと、私みたいに帰る家がある人は帰りました」
「あの二人はどうしてますか?」
「ノーンとマスは畑仕事を手伝ってますよ。あなたのおかげで、家族が元に戻りました。ほんとに、どれだけお礼をしても足りません」
背の低いマスの良くしゃべるところは、グラスクさんに似たんだろう。
「最後にソウからやりたいことがあるそうなんで」
スルッと、ソウが抜け出していった。
「背中に刺した針はあるかの」
ソウはグラスクさんの目を真っ直ぐに見てそう言った。
「はい、ここにありますよ」
グラスクさんは気の箱からクリップを伸ばしたような針を取り出した。
その針を目指して
「ニャア!」
ソウが魔法を使った。
針金が光って指輪に変わった。
その指輪には、よく分からない模様が刻まれていたが、グラスクさんは気に入ったようで何度もお礼を言った。
「我が形を崩したんじゃ。我が戻して当然じゃろう」
ソウはそう言い張った。
帰り際、王国に行きますといった時、グラスクさんが反応した。
「王国とここの間に、ダイザナという町があるんですが、最近変な道具が出回っているらしいです。気をつけて」
グラスクさんはかなりのおしゃべりだった。
『なんだかんだ、お礼言われまくっておるの』
『大陸の外はまだ、何も分かっておらん』
山の上り坂ではソウの講義が始まっていた。
『この大陸は東西に長い、長方形に近い形をしておる』
あまり重要ではないが、ここは北から日が昇るらしい。
ソウの日本語訳も、多少おかしいようだ。
『そして、ここは大陸の南の辺りにある。四大大国は、セナルカーフィスが一番近いし、そこの領地になっておる。四大大国は、大陸の東西南北に1つずつあり、海岸に面していたり、山の上にあったり、砂漠にあったり、森の中にあったりする。ちなみに、セナルカーフィスは森の中にある』
太陽は、てっぺん辺りまで昇っている。
ここは一日が短めな気がする。たぶん一日20時間ぐらいだろう。
『ここからじゃと、10日もあれば着くじゃろう』
山の頂上あたりで、一人の商人に出会った。
出会ったといっても、正面からばったりではなく、前を進む馬車に追いついてしまったのだ。
『主人は自己加速の加速がハンパないのう』
ソウが頭の中でつぶやいている。
他の人が使うところを見たことがないので分からないが、そうなんだろう。
「こんにちわ」
特に用はないが、一応挨拶をした。
「こんにちは」
馬車に乗っていたのは、1人だけだった。
立派な赤と黄と青の服に、タプタプのお腹で、見るからに金持ちって感じだ。
「隣、どうですか」
少し狭そうだったが、走ったほうが速いので、と言うのは少し悪い気がしたので、乗せてもらうことにした。
ふわふわなクッションもあって快適だ。
商人のおっちゃんはケイスという名前らしい、車輪に手作りのブレーキを掛けて坂道を下り始めた。
ここの坂道はスピードが出すぎるんだろう。
「ケイスさんは何をしてらっしゃるんですか」
「色々なところで薬を売ってるんだ、大陸中どこでも。ところでジョーカーさんは?」
ケイスさんは笑顔で聞いてきた。
しかし答えがないぞ。
どこにもない。
何か考えようと思ったが、この世界の職業なんて知らない。
『旅人とでも言っておけ』
「旅をしてます」
少し、いや、かなりぎこちなかったが、何とかなった・・・かな?
「そうですか。楽しそうですね」
ケイスさんは真っ白な歯を見せて笑った。
いい人だな。うん。
そのまま町まで話は続いた。
町に入ったところで、ケイスさんは細い道に入っていってしまった。
「さようなら」
いつの間にかこっちまで笑顔になっていた。
ケイスさんには、人を笑顔にする力があるようだ。
町の大きな道を歩いて見つけた店でちょっと豪華な昼飯を食べて、店を出たときだった。
「モンスターだ」
誰かが叫んだ。
少し経って、モンスターの鳴き声が聞こえた。
「グラァァァァァァ」
前見たのと同じ種類の黒いライオンが、木で作られた、神社のとりいの様な門をくぐって入ってきた。
怖い・・・ソウ、どうする。
『主人なら倒せると思うが、逃げるべきじゃろう。主人の逃げ足は我の見たことあるどんなやつよりも速い』
ひどい言い方だな。
自己加速を唱えようと、息を吸い込んだとき、すぐ脇を何かが通り過ぎた。
数人の槍を持った集団だった。
「防衛隊だ!」
近くにいた少年が指を指してはしゃいだ。
そうとう人気があるようだ。
なんか嫉妬するわ。
手柄の独り占めはさせん。
「ソラフ」
もう一度息を吸い直して唱え、すぐに走り出す。無駄に全速力で。
防衛団だか防衛隊だかを、一瞬で追い越してライオンのほうへ走る。
その勢いを生かしたままわき腹に炎を纏わせたパンチを放つ。
拳がライオンの腹にジャストミートした、が、
あれ?止まんない。
「ウヴォ!」
勢いのついたままライオンを貫き、前足と後ろ足の間を通り、反対側で激しく転がった。
頭を地面にぶつけて少しフラフラする。
かなり痛い。
立ち上れず地面に横たわってしまった。
う・・・吐きそう。
防衛隊が今頃やって来た。
もう終わったぞ。そいつは腹をえぐられてもう戦えない。
立っているのがやっとだろう。
そこに
「グサリ」
防衛隊が止めを刺した。
OK
駆け寄ってくる町の人。
?
その全員が防衛隊のところに。
おい!お前ら焼くぞ。
『防衛隊か、町の人どっちじゃ。我も手伝うぞ』
人々に囲まれている防衛隊の一人が、堂々とこちらに歩いてきた。
歩き方が優雅で余計に腹が立つ。
よし。
「お怪我はありませんか」
そう言って手を伸ばしてきた防衛隊の一人の手をとって(町の人々の拍手喝采)人差し指から火を出した。
「あつっ!!」
ははは・・・。ざまあ見やがれ。
この馬鹿がぁ~~~
手のひら火傷して、涙目の防衛隊のお兄さんにさらにビンタ(さすがに炎は、なし)して、フラフラしながらダッシュ。
「バ~イ!」
その言葉を残して町の外に走り去った。
『主人、どうするのじゃ』
まあ、どうにかなるだろ。
その時、俺は防衛隊を攻撃して、重い罪になっていたが。そんなことも知らず、俺の旅は始まった。
逃げる、という形で。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。というか感激です。
1章は、序章みたいな感じです。(と、いう言い訳)
これからがんばろうと思います。