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1-12 二重結界式複数火球衝撃爆破

石の塔の屋上で、ソウは呪文を唱え始めた。


何の呪文かは分からないが、そんなのを気にしてる場合じゃない。


俺は柵のない高所、恐怖症だ。


屋上にへばり付くが、寝そべると足がはみ出して余計に怖い。


そんな俺を全く気にせず魔法は進行してるようで、ソウの火の玉が天井の一点に集まっていく。


そして


「ニャアア」


呪文の詠唱は終わったようだ。(ニャアニャア言ってるだけだと思うが、赤と白の毛が全て逆立っているので魔法を唱えていたのだろう)


火の玉は俺たちの斜め上前方で集まり輝き始めた。


とっさに、的確で最適で真っ当で完璧で理屈の通る判断で、耳をふさぐ。


しかしそんなんじゃ、焼け石に水だった。いや、焼け石にしずくだった。


バアアアアアアアァァァン!!


その衝撃に後ずさる。しかし後ずさるところに床はなかった。


あああああ(中略)あああ~~~


人間の一番重い部分、それは心?愛?いや、頭だ。


ゆえに、頭を下にして落ちていく。


「主人!」


ソウセキ様、助けてください。


涙が今爆発した天井の方へ流れていく。


ニュートンは大ばか者だ。


その証拠に、俺の涙は重力とは反対の方向へ頬を伝っている。


ここで気を失わないだけでも凄いことだろう。


ははは・・・


地面が近づいてるぜ。


気を保ったまま死ねるのは、自己加速で速さに慣れてるからだろう。


ははははは・・・は?


バァン!


んあ!


床にぶつかる瞬間に、逆向きの力が体にかかった。


そしてスピードがなくなったまま床に落ちた。


ニュートンの大ばか者め。物体は地面に落ちる瞬間落下が止まる。


それを今体感した。


「主人放してもらっても良いかの」


ソウの声が近くで聞こえる。


恐る恐る目を開けると、そこは土の地面だった。


少し先に塔が見える。


そして腕のフアッとした感覚。


「主人いつまで我を抱きしめておるのじゃ」


あ、ソウか。


「ごめん、つい」


「普通だったら、主人をあの世へ送ってしまってるだろうが」


ゾクッ。全身に鳥みたいなぶつぶつが。病気かも。病院行かなきゃ。


「爆破に加えて、落下の衝撃を消すために、地面に衝撃の魔法を使ってしまってMPが残っておらん」


どこでmpなんて言葉覚えたんだ。


体を起こすと、足元にユーフォーでも落ちたようなクレーターが出来ていた。


「少ししたら回復すると思うが――――――」


ソウの言葉が途切れた。


そして上を見ると、


「少しやりすぎたようじゃ。さすがに二重結界式デュアルシーマー複数火球衝撃爆破フレイムインパクトブラストは無茶だったな。天井も魔力も。逃げるかの」


爆発が起こったと思われる天井の部分から徐々に亀裂が走っていた。


その亀裂がぎざぎざに、さらに運悪く輪を描くように天井を走った。


「天井が落ちるぞ」


ソウの言葉に俺は従わなかった。


亀裂の走る所の真下へ走る。


塔の下の広場を出ると、あちこちで喜ぶ人がいた。


そのほぼ全員が、国の中央大広場に向かっている。


不味い中央大広場は、ちょうど天井の岩盤が落ちてくる辺りだ。


ソウ、声を大きくしてくれ。出来るだけ大きく。


『そのぐらいならまだ出来る』


広場では人々が抱き合って喜んでいた。


天井のことなど誰も気に止めていない。


兵士たちも座り込んでくつろいでいる。


「皆さん天井が落ちます。逃げてください」


声が広がり、広場の全員が上を向き、歓喜の声が、恐怖の叫びに変わった。






広場からいち早く出ようとする人間たち。


しかし、おかしの約束(※押さない、駆けない、しゃべらない)を無視した広場からの脱出は大混乱だった。


その間に、亀裂は広がり隙間から光が漏れ始めた。


俺には、さっきのステージの上で、見守ることしか出来ない。


ソウ、落ちてこないように止められないのか。


『さっきの爆発で魔力を使いすぎた。あと、この距離で魔法を使っても届かん』


そうか。


下唇をかみ締めて、落ちないように願った。


だが、そんな願いは通じなかった。


ミシミシという音が一瞬止まった。


そして、ガリッという音と同時に、天井の落下が始まった。


くそっ!あの時仏壇を蹴ったのがいけなかったのか。


それとも神社のでっかい鈴を、サッカーボールに摩り替えた事か?


反射的に走り出す。


人々は、もうほとんど広場から出て行っているが、一人の少女が、地面に絵を書いていた。


その上に、ダンプカーぐらいの石の塊が襲いかかる。


くそっ、間に合わない。


少女までは、20mも離れてない。


だが俺がたどり着く前に、石に押し潰されてしまう。


そう思った時、


少女の上に白く輝く薄い膜のような壁が現れた


「ガシッ!」


石はその壁に阻まれ、止まった。


その薄い膜の下には―――


「早くこの子を」


白いユニコーンが毛を逆立たせて叫んでいた。


魔法を使うと毛が逆立つ。


それは今日一番の大発見だったが、頭のメモ帳にメモッてる時間はない。


「ソラフ!」


自己加速を掛け直して、少女を抱きかかえ、反対側で止まった。


少女をつかんだとき、ユニコーンの歯を食いしばる音が聞こえた気がする。


振り返ると、白い輝く膜は、消えかかっていた。


ソウ!!


『分かった』


ソウが衝撃の魔法を使うのと、ユニコーンの膜が破られたのは、ほぼ同時だった。


地面に落ちた岩が、煙を巻き上げている。


その煙を走って抜けると、そこには倒れた2人の姿があった。


「大丈夫か!?」


二人に、走り寄る。


背の小さいほうが、少し遠くまで飛んでいる。


その、赤い髪が起き上がって。


「衝撃の魔法、強く撃ち過ぎだぞ」


「すまんな。何しろ、残ってた魔力が十分か分からなくて、全魔力を使ってしまってのぅ」


「そうか、猫ちゃん。一応ありがとよ」


「俺からも、助かった」


そう言って二人は意識を失った。




セイヴェスは王の宮殿から森へ抜け出そうとしていた。

仲間のヴァンパイアは次々と人に戻ってしまい、一人だ。

このままだと、あの火の玉を放った猫が来るのも時間の問題だ。

人間の兵士と、ヴァンパイアの戦いが始まって、戻っていったが、戦いは天井が爆発したと同時に終わってしまった。

セイヴェスは急いで、肖像画をずらし、隠し通路に入ろうとした。

「おい、待てよ」

後ろには、いつの間にか一人の青年がいた。

黒髪、黒い目。

おそらく、鉄の檻を溶かし切った魔術師だろうとセイヴェスは考えた。

だから、急いで隠し通路に逃げ込んだのも当然のことだろう。

しかし、何もないただの通路で、その青年から逃げるのは不可能だった。

次の瞬間には、腕をつかまれた。

とっさに振りほどこうともがくが、その手は全く離れない。

「おとなしくするなら、何もしない」

青年の提案は意外だったが、セイヴェスは気転を利かせた。

「分かった」

その答えを聞いて、青年は腕を放した。

その手を素早くつかみ、噛み付いた。

いや、噛み付こうとした。

その牙は、手首を噛もうとしたが、皮膚に当たる前に、その手が纏った炎で溶けてしまった。

「分かってないな。俺が王様と握手したとき、頭に石の破片当たったんですけど?あの、野次やら何やら全部お前が仕組んだんだろう。その日の朝にはいけるとか出来るとか言ってたくせに!」

ソウの加速と強化がかかっている青年の蹴りがヴァンパイアの膝にあたった。

バランスを崩し、前のめった背中を殴られ、腹には膝蹴りが入ったところでヴァンパイアは気を失った。

『捕獲成功じゃな。主人、奥のほうの通路の出口に、王国の兵士が来ておるぞ。さっきまでのは偵察か何かだったのじゃろう』






天井の穴から入る光が、今まで光のなかった国を明るく照らしている。


その奥の通路から、遅れて来た王国の兵士がやってきた。


「あなたが救助申請をされた、ジョーカーさんですね。」


証明書を渡すことが、救助申請になっていたとは。


救助の前に、ヴァンパイアは人間になってしまったんだが。


王国の兵士は俺に確認を取った。


「はい、そうです。ありがとうございました」


「いいえ、助かったのはこっちです。王国もヴァンパイアの被害は受けていたので。敵の本拠地を教えてくださって、ありがとうございました。このことは王国から報酬が出ます。王国まで送りますので。」


窪地の隅には、焼かれてしまった建物と、地下に続く穴を閉じた跡があった。


「どのくらいですか?」


兵士は一瞬きょとんとした表情をした。それから少し笑顔になって、


「はい、だいたい紫10枚ほどじゃないかと」


「では、4枚ずつ、この窪地を出たところの村と、森を越えたところの村に、寄付してください」


それを聞いて兵士は目を見開いた。眼球が飛び出そうだ。


「いいんですか?」


「いいんです。ぼくの紫2枚は、いついただけますか?」


「町の役所、王国の城に来てもらえればいつでも」


「出来るだけ早くいただきたいんですが」


それは、もう手元にほとんど金がないからだ。


「えーーと、細かいので良ければ、今すぐにでも用意できます」


「では、お願いします」


それを聞くと、兵士は部下にお金を借りに行った。


『ほんとにいいのか』


いいんだよ。


レイシーさんにも、ナナルジアさんにも助けてもらったから。


『そうとうお人よしじゃな』


俺は義理と人情を大切にする、生粋の青葉っ子だからな。


さて、レイシーさんのとこに行って遅すぎる昼飯を食わないと。


少し経って、両手に小銭を抱え込んだ兵士が帰ってきた。

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