1-10 家族の再会
二人はその青年に見覚えがあった。
黒い髪に黒い目、服装は前の変な服とは変わっていて、普通の茶色と黒の服になっていたが、どことなく変だ。
「話は分かった」
その青年の言葉に2人(1匹)は身構えた。
この青年は俺たちに誘拐された事を知って復讐しに来たんじゃないか、と。
「無駄な戦いは止めろ」
無駄だと、お前なんかに何が分かる。
俺たちは村を裏切った父に復讐しに来たんだぞ。
そのことを他人にどうこう言われる筋合いはない。
しかし、その裏切った父は青年に話しかけた。
「あなたは魔術師ですね」
「あなたは魔術師ですね」
魔術とか良く分からんが、たぶんそうなんだろう。
「はい、あなたがヴァンパイアの王ですね」
「はい、この二人が迷惑をかけました。どうやらあなたを誘拐したそうですが」
この二人だったのか。
俺を連れてきたのは。
今は白い馬だけど。いったいどうなってるんだ。
いきなり変身しやがって。
「ところで、あの猫はどこですか」
『ちょっと待っとれ』
ソウは俺から出て行った。
また話から置いてけぼりだわ。
その後、直立不動で5分間(ユニコーンは話に聞き入っている)聞き取れない言葉を聞き、
『ただいまじゃ』
おかえり。どうなった?
『まあ、自分で決めろ』
わけ分からんな。質問と回答がチグハグだぞ。
するとヴァンパイアの王が近づいてきた。
「少しお待たせしました、ジョーカー殿」
「いえ、べつに」
と、慣れない会話にほっぺをかく。
ボリッ
ポリポリでもあたたたたでもなく、ボリッ
右のほっぺに何か硬い物でもあったか?
記憶の袋を覗き込み、かき回して探り、ひっくり返して振って、出てきた。
これはかさぶただ。確かアクションスターの真似事して切ったはず。
証拠に、ほら、一筋の血が流れてる。
俺こっちで探偵やろうかな。
「そうですか、ところでジョー・・・・」
ん?ヴァンパイアの言葉が途切れた。
それと同時に、
『危ない下がれ』
ソウが(頭の中で)叫び、とっさに下がる。ヴァンパイアの爪が、俺の居た所で、空を切った、かなりの速度で。
あのままだったら、上半身と下半身が別々になってたんじゃないか?
おい!どういう事だソウ。まさか話し合いに見せかけて、俺の命を狙ってたとかか?
『違う馬鹿。ヴァンパイアは人の生き血を見ると襲ってくるのじゃ、では』
おい、入ってきてすぐに出て行くんかい。
しかし、そんなことを考える暇はなかった。
主人から出ると同時に呪文を唱える。
「ニヤァ」
こっちに向かってくるヴァンパイアに火球を複数放つが、すべて冷気を纏ったヴァンパイアの爪で消されてしまう。
こちらも体中に炎を纏い腹に向かって突っ込む。
それをヴァンパイアは横に飛んでかわした、が、そこにはすでに火球が用意されている。
その火球を爆発させるがヴァンパイアは上に跳んだ。
そこから氷の棘を飛ばしてくる。
しかし我の速さには追いつかない。
無数の棘を奇妙なステップでかわしきり(主人がかわせたのかは疑問)、着地を狙い火柱を出現させる。
その火柱に飲み込まれると思った瞬間、ヴァンパイアは消え、ヴァンパイアは主人の首に牙を突きつけていた。
「さっきのは幻影か」
「ああ、そうだ」
主人は氷の棘のせいか、服が破れている。
そして足元にはポケットから落ちたのか、預かっている指輪が落ちていた。
白く輝くサームラディスの指輪だ。
さて、ここは主人に頑張ってもらわねば。
「牙を折るのじゃ!ソラフェイン!ガンデセイン!」
ヴァンパイアの牙めがけ、主人はひじを突き出した。
加速と、強化の術がかかった肘鉄は見事にヴァンパイアの牙にあたると思われたが、それより早く、ヴァンパイアは後ろに下がった。
そこに、
「ガン!!」
白いユニコーンが突進した。
予定と違うが結果は変わらん。
背中の中央、と首の付け根の真ん中。ここじゃ!
「グサッ!」
サームラディスの指輪を細長くした物が、ヴァンパイアに刺さった。
「グワアアアアアアァァァァァァァ~~~~!!!!」
うるさ~~~~~~~~~い
もう速過ぎて何がなんだかわからん。(あと、ソウが強い)
しかし徐々にヴァンパイアの容姿は変わっていった。
長い耳は小さく、牙は短く、顔の色は不健康そうな白から肌色になり、終いには普通の人になってしまった。
「サームラディスは、魔よけの効果のある鉱石だからじゃ」
ソウが疲れた様子で歩いてきた。
「さ、ナナルジアさんのとこに運ぶぞ」
なんで?と、聞いても教えてくれなさそうなので(こいつの心が読めるようになったかも)素直に運ぶことにした。
ソウは白い馬と話して、一緒に来た。
まあいっか。
俺、ソウ、ヴァンパイアの王、白い馬、なんとも面白いパーティーだ。
なんか一人減ってる気がするけど、気のせいだろう。
ナナルジアさんの家
「すいません、少し入れてもらっても――――――――」
「グラスク!」
話はあっさりさえぎられた。
現在ナナルジアさんはグラスクさんの、肩を揺すっている。
・・・?グラスクさん。え・・・グラスクさん人間じゃなかったの。まあ今は人間になったけど。
『主人、口、借りるぞ』
「事情があるんで中にいれてくれ、あんたんとこの坊主も連れてきたぞ」
「えっ、あっ、はい、どうぞ」
(何でソウの言うことは聞くんだ~)
おいソウ、親子の再会の場面はなしでいいのか?
『面倒だから後じゃ』
家の中は5人と1匹が入ると結構狭かった。
「まずそこの二人、お前たちなんじゃ」
あ、それ俺も気になってた。誰もが合体して馬になるはずないよね。
「俺はマス、こっちが兄貴のノーン。親父がヴァンパイアだと知って、殺そうと思ってたところにあんたと魔法を使う猫ちゃんが来ちゃったってわけ」
おい、こら、俺の疑問が解決されてないぞ。
この世界では変身して当然なのか?
「お前たち、2人でひとつのクルースニクになるとは珍しいな。そんなやつは聞いた事がないが?」
ん?クルースニクって何なんだ、ソウ?
『吸血鬼と人間の合いの子じゃ、動物になって吸血鬼と戦う』
「そんなことは分からない。だが、双子だからかもしれん」
兄の方は、弟より静かそうだ。
「さあ、次はそっちの話をしてくれよ」
「我は知ってるだろうが、セナルカーフィスから連れ去られて、ここに来た。だが、魔法で脱出して、ついでにその建物を占領した。今頃はあの建物は焼かれてるだろう」
セナルカーフィスって前話したお城のある国のことか。
『ああ、そうじゃ。この二人がさらいに行ってたのがその国じゃ。あっこで働いてたからそんぐらい分かる』
「で、ヴァンパイアの父を倒すためにそこで働いてたのか」
「やっぱり分かってたんだな。俺たちでお前をさらった。でも許せなかった」
ナナルジアさんは何のことか分からないという顔で(というかほんとに分かってないだろう)静かに聞いている。
「この村は昔から、ヴァンパイアに襲われてたんだ。俺たちが生まれる前におじがさらわれた。血を飲まれるために、そんなことが何度もあった。そして、親父はヴァンパイアだった。」
「だが、最近は襲われてない様だが。そうだろ、グラスク」
気を失ってるはずの元ヴァンパイアが起き上がった。
少しちびった。
「狸寝入りが、ばれちまったか。そうだな、話すと長いが」
そう、グラスクさんは話し始めた。
書いてるほうからするとですが、なかなか面白くなってきました。