第14話 真の貴族
「とうとう、あの男が人攫いをはじめたんです。この神聖ノーザリア王国の国策として……許せなかった」
リスリーは穏やかだけど、確かな怒りの籠った声で話し始めた。
彼女の母親は、娘の言葉を黙って受け止めている。
そして彼女はレフィカルの行った悪逆非道を詳細に語る。
あの男が、いかに国の名誉を汚しているか。
許せないことを行っているか。
娘のそんな告白を、彼女の母親はただじっと聞いていた。
そして
「なのでワタクシは、このマサヤ様を連れ出しました。マサヤ様自身も、ご友人の仇討ちをしたいと仰っておいでて、ワタクシはその手助けをしようと思ったんです」
リスリーが最後にそう言ったとき。
彼女の母親が口を開いた。
「……それでこのメルディール家が取り潰されても構わないと思ったのね?」
とても重い言葉だ。
俺にもそれぐらい分かる。
リスリーは頷く。
その表情は硬かったけど
「はい……申し訳ございません母上」
彼女は母親の言葉を肯定した。
彼女の母親はそんな娘の言葉に軽く首を左右に振り
「謝らなくていいわ。……国の名誉と取るに足らない下級貴族の家系……天秤に掛けるようなことじゃないわね」
……とても。
とても重い言葉を口にしたんだ。
この女性は自分たちの家を潰すのを了承したんだ。
すごい、と思った。
リスリーの母親は落ち着いた声で
「リスリー、絶対に投げ出しては駄目よ? 命に代えても成し遂げなさい」
真っ直ぐに娘を見つめながら言った。
震えない声で。
「もうメルディール家のことは忘れなさい。この母が国賊の母として処刑されたとしても、決して折れては駄目。母は死んだと思いなさい。これがこの母の最後の願いです」
「分かりました」
……これが本当の貴族ってやつなのか。
すごいな……。
そしてその日。
1日だけ彼女の実家に泊まることになった。
彼女の実家は小さいけれど、風呂があった。
所謂五右衛門風呂に近いものだったけど。
先にお風呂をいただいて、湯上りの身体を冷ますために外に出たとき。
リスリーが外に出てて。
彼女は1人、ランプの明かりに照らされて。
自分の髪をナイフを使って切っていた。
貴族らしく綺麗に整えられた長い髪を。
ブチブチとナイフで荒っぽく。
俺はそれを目にして
「何してんだよ!?」
思わず叫んでいた。
男じゃ無いんだ。
髪の毛を切るのは意味合いが全然異なるだろ!
俺のそんな声に気づいたリスリーは
「マサヤ様、どうしました?」
俺を振り返って平然とそんな言葉を返して来た。
髪を切り落とす手は一切休めずに。




