第三十四話 制度は悪くない
環城宗一は、夜の詰所で一人、資料を見ていた。
数値は安定している。
表向き、制度は成功している。
だが、報告されない問題が増えた。
非公式対応の件数。
現場の疲弊。
そして――“間に合わなかった”の存在。
扉が叩かれる。
「……入れ」
鷹宮玄十郎が、入ってきた。
「久しいな」
「久しくない」
「そうか」
環城は、苦笑する。
「君がここに来るということは」
「起きた」
「ああ」
玄十郎は、椅子に座らない。
「制度は、正しい」
環城が言った。
「君もそう言ったな」
「言った」
「なら、何が問題だ」
「万能だと思ったことだ」
「……」
環城は、目を閉じる。
「私は、万能だとは言っていない」
「言ってない」
「だが、そう扱われている」
玄十郎は、低く言った。
「制度の外に、全部押し出した」
「押し出されたものを、俺が拾っていた」
「拾えなくなった」
環城は、言葉を失った。
「……制度は悪くない」
環城は、繰り返した。
「制度がなければ、もっと壊れていた」
「それも事実だ」
玄十郎は、肯定した。
「だから俺は、制度を否定しない」
「……なら」
「足りない分を誰が引き受けるか、だ」
環城は、苦い顔をする。
「私が引き受けたい」
「だが、私は仕組みの中にいる」
「私が作った仕組みに縛られている」
玄十郎は、静かに言った。
「縛られた奴は、止められない」
「……」
環城は、資料を見下ろした。
「君は、外にいる」
「そうだ」
「だから、拾えた」
「そうだ」
短い沈黙のあと、環城は小さく言った。
「君を前提にするのは、間違いだった」
「遅い」
「分かっている」
環城は、初めて弱さを見せた。
「だが君を止める理由もない」
「それが、今の最悪だ」
玄十郎は、扉へ向かう。
「環城」
「何だ」
「制度は悪くない」
「だが、責任の行き先がない」
玄十郎は、振り返らずに言った。
「そこを作れ」
「……作れるのか」
「作れなきゃ、もっと間に合わなくなる」
扉が閉まった。
環城は、しばらく動けなかった。
制度は悪くない。
だが――
正しさだけで回る世界は、
人を置き去りにする。
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