第三十話 後始末係
噂は、正式な記録よりも早く広がる。
「名前は知らない」
「役職もない」
「でも、呼ぶと“何とかしてくれる”」
都市部の裏側で、そんな言葉が囁かれ始めていた。
公式には存在しない。
だが、確かに動いている何か。
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夜。
玄十郎は、また一つ現場を終えたところだった。
住宅地の一角。
原因不明の不調が続いていた家だ。
「……楽になりました」
住人は、深く頭を下げる。
「薬でも、祓いでもないんですね」
「どっちでもない」
「ただ、通しただけだ」
それ以上の説明はしない。
できない。
記録にも、残らない。
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翌日。
朝霧澪は、机に突っ伏していた。
公式対応は、変わらない。
基準未満。
管理対象外。
だが――
彼女の元には、非公式な相談が増えていた。
「……これ、どうすれば」
声をかけられ、顔を上げる。
神代恒一だった。
「また?」
「はい」
「基準には、届いていません」
二人の間に、沈黙が落ちる。
「……鷹宮さんが、動いています」
朝霧は、低く言った。
「公式じゃない」
「記録にも残らない」
神代は、頷いた。
「だからこそ」
「誰も、止められない」
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同じ頃。
環城宗一は、別の報告を受けていた。
「非公式対応が、増えています」
「被害は?」
「表面上は、減少しています」
環城は、目を閉じる。
「……数字は?」
「改善しています」
「そうか」
彼は、机に手を置いた。
「つまり」
「制度の外で、誰かが“後始末”をしている」
部下は、慎重に言葉を選ぶ。
「鷹宮玄十郎の可能性が」
「分かっている」
環城は、否定しなかった。
「だが、現時点では」
「止める理由がない」
それが、事実だった。
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夜。
玄十郎は、河原に立っていた。
「……増えたな」
葛葉が、隣に現れる。
「呼ばれもせぬのに」
「呼ばれているようなものだ」
「世界に、か?」
玄十郎は、苦笑した。
「誰も責任を取らないなら」
「拾うしかない」
葛葉は、少し険しい顔になる。
「拾い続ければ」
「世界は、甘える」
「知っている」
玄十郎は、空を見る。
「だが、今は」
「誰かが、拾わなきゃならん」
風が、静かに流れる。
誰にも命じられていない。
誰にも評価されない。
それでも、
後始末は、確かに必要だった。
「……その役」
葛葉が、低く言う。
「いつまで続ける気じゃ」
玄十郎は、少し考えた。
「続けられる、うちはな」
その言葉は、
決意でも、覚悟でもない。
ただの事実だった。
こうして――
鷹宮玄十郎は、
制度にも、
記録にも、
責任の所在にも残らない、
**世界の後始末係**として、
静かに固定されていった。
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