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追放されたおっさん陰陽師、人間社会では無能、妖怪社会では“本物”として無双する  作者: 遠野ゲン


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第二十九話 責任の所在

 会議は、予定より早く終わった。


「因果関係は確認できません」

「妖怪反応値も、正常範囲です」

「統計的にも、有意な偏りはない」


 朝霧澪は、報告を終えて席に戻った。


 診療所で起きた一連の体調不良。

 件数は少なく、回復も早い。


 数字だけを見れば――

 問題にする理由が、どこにもなかった。


「つまり」

 環城宗一が静かにまとめる。

「管理対象外だ」

「制度上、対応は不要」

「追加調査も、必要ない」


 誰も反論しない。

 反論できない。


 朝霧は、拳を握りしめていた。


「……もし」

 かすれた声で言う。

「今後、同様の事例が増えたら」


「その時は、その時だ」

 環城は即答する。

「基準を超えれば、制度が動く」


「基準を超えるまで」

 朝霧は、言葉を選ぶ。

「今起きていることは……」


「“事象”ではない」

 環城は、はっきりと言った。

「偶発的な体調不良だ」


 間違ってはいない。

 制度の言葉としては、完璧だ。


---


 会議後。


 朝霧は、廊下で足を止めた。


「……私は、間違っていますか」


 振り返ると、神代恒一が立っていた。


「いえ」

 彼は、即答する。

「朝霧さんの判断は、正しい」


「でも」

「でも、苦しい」


 神代は、少しだけ視線を落とす。


「正しい判断が」

「誰も救わない時がある」


 朝霧は、息を詰まらせた。


「責任は、どこに行くんですか」

「……行きません」


 神代は、静かに言った。


「制度の中では」

「責任は、分散されます」

「だから、誰も悪くない」


 朝霧は、壁に手をついた。


「それじゃ……」

「ええ」

「誰も、引き取らない」


---


 夜。


 玄十郎は、再び診療所を訪れていた。


「また、出た」


 医師が、低い声で言う。


「同じ症状です」

「でも……」

「数字には、出ない」


 玄十郎は、頷いた。


「責任は?」

「……誰も」


 それだけで、十分だった。


「やるか」

「お願いします」


 簡易の儀式。

 流れを通すだけの、地味な作業。


 派手さはない。

 評価も、記録も、ない。


 だが――

 人は、楽になる。


---


 その帰り道。


 葛葉が、玄十郎の隣に現れた。


「増えてきたのう」

「ああ」

「誰も止めぬ」

「止められん」


 葛葉は、空を仰ぐ。


「責任というのはの」

「重いものほど、地に落ちる」

「拾う者がおらねば、腐る」


 玄十郎は、歩きながら言った。


「だから、俺が拾う」

「いつまでじゃ」

「分からん」


 しばらく沈黙。


「だが」

 玄十郎は、低く続ける。

「これは、長くは持たない」


「何が」

「俺が拾い続けることだ」


 葛葉は、目を細めた。


「……世界が、甘えておる」

「そうだ」


 玄十郎は、足を止める。


「誰も悪くない」

「だから、誰も責任を取らない」


 その隙間に、

 静かに歪みが溜まっていく。


 それは、数値には出ない。

 だが確実に、世界を重くしていた。


 責任の所在は、どこにもない。


 だから今夜も、

 後始末だけが、増えていった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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