表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたおっさん陰陽師、人間社会では無能、妖怪社会では“本物”として無双する  作者: 遠野ゲン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/37

第二十八話 想定外

 最初の報告は、小さなものだった。


『理由不明の体調不良』

『集団発生ではない』

『妖怪反応値、正常範囲』


 どこにでもありそうな案件。

 国家指定どころか、注意喚起にもならない。


「……関連性、なし」


 朝霧澪は、淡々と結論づけた。


 都市部から少し離れた、住宅地。

 夜刀のいた区域とは、直接の関係はない。


「被害者は、数名」

「重症者はいません」

「原因も、特定できていない」


 数字上は、問題なし。

 管理対象にもならない。


「想定内です」

 環城宗一は言った。

「統計的には、誤差の範囲」


 誰も反論しなかった。


---


 だが、その“誤差”は、止まらなかった。


 数日後。

 別の地区で、同様の症状が報告される。


 頭痛。

 倦怠感。

 理由の分からない不安。


「妖怪反応は?」

「出ていません」

「数値、正常です」


 朝霧は、画面を見つめる。


「……関連性が、見えない」


 見えない。

 だから、繋げられない。


---


 一方。


 玄十郎は、別の町にいた。


「……来たな」


 風が、重い。

 夜刀のいた土地とは、方向が違う。


「流れが、ぶつかっておる」

 葛葉が言う。

「逃げ場を失ったものが」

「弱いところから、滲み出る」


 玄十郎は、目を閉じる。


「数字に出ない形で」

「人の身体に、心に、な」


---


 夜。


 朝霧は、偶然にも同じ町に来ていた。


 小さな診療所。

 簡易な処置を受ける人々。


「原因は分かりません」

 医師は言う。

「検査結果も、異常なしです」

「……妖怪の影響は?」

「考えにくい」


 数値は、正常。

 だから、管理対象外。


 その時、背後から声がした。


「そういう時ほど、妖怪だ」


 振り向くと、玄十郎が立っていた。


「あなた……」

「数字は?」

「正常です」

「だろうな」


 玄十郎は、診療所の空気を嗅ぐ。


「これは、妖怪の“仕業”じゃない」

「……?」

「妖怪が、いなくなった結果だ」


 朝霧は、言葉を失った。


「どういう……」

「流れが、詰まった」

「詰まりは、弱い所から漏れる」


 玄十郎は、低く言う。


「ここは、人の心が弱い」

「疲れている」

「不安が溜まっている」


 朝霧は、拳を握る。


「でも……」

「制度は、正しかった」

「夜刀は、危険だった」


「その通りだ」

 玄十郎は即答する。

「判断は、正しい」


 朝霧は、顔を上げる。


「……それでも」

「それでも、起きた」


 沈黙。


「これを」

 朝霧は言った。

「どう報告すればいいんですか」


 玄十郎は、少し考えた。


「報告するな」

「……え?」

「できない」

「制度に、言葉がない」


 朝霧は、唇を噛む。


「じゃあ……」

「俺が、やる」


 玄十郎は、診療所の外へ出る。


「後始末係の仕事だ」


---


 その夜。


 簡易的な儀式が行われた。


 派手さはない。

 結界も、祓いもない。


 ただ、流れを少しだけ通す。


 数時間後。

 症状は、ゆっくりと和らいでいった。


「……治っている」


 朝霧は、目を見開く。


「公式記録には、残らない」

「数値にも、出ない」

「だが、確かにあった」


 玄十郎は、手を拭う。


「これが、“想定外”だ」

「制度が、悪いわけじゃない」

「だが、拾えない」


 朝霧は、震える声で言う。


「これが……増えたら?」

「増える」

「必ず」


 玄十郎は、空を見る。


「夜刀が消えた代価だ」

「そして」

「管理が、成功した代価だ」


 遠くで、誰かが安堵の息を吐く。


 事件にはならない。

 失敗にもならない。


 だが、“想定外”は、

 静かに、確実に増え始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ