第二十六話 数字の勝利
結果は、明確だった。
夜刀が排除された翌日から、
都市部の妖怪反応値は、さらに低下した。
「……安定していますね」
朝霧澪は、端末を操作しながら言った。
グラフは、滑らかな曲線を描いている。
異常値は消え、警戒ラインを下回ったまま推移していた。
「被害報告、ゼロ」
「住民からの苦情も、減少傾向」
「治安指数も改善しています」
誰もが、納得せざるを得ない数字だった。
「成功だな」
環城宗一が、静かに言う。
「夜刀の存在が、ノイズだった」
「排除したことで、全体が整った」
朝霧は、頷いた。
「……理論通りです」
「危険度の高い要素を除外すれば」
「全体のリスクは、確実に下がる」
それは、正しい。
誰も、間違っていない。
「これで、国家指定災異は解除できます」
「段階的に、な」
環城は、資料を閉じた。
「だが、成功例としては十分だ」
「制度は、機能する」
「個人に頼らずとも、世界は守れる」
朝霧は、胸の奥で小さく息を吐いた。
正しかった。
自分たちの判断は。
だからこそ――
胸に残る、わずかな違和感が気になった。
---
一方、都市の外れ。
玄十郎は、夜刀が消えた路地に立っていた。
結界は解かれ、
封鎖も解除されている。
すべて、元通りだ。
「……きれいだな」
地面には、何の痕跡もない。
歪みも、妖気も、残っていない。
「完全に、切り取った」
葛葉が、低い声で言う。
「人の世は、満足じゃろう」
「当然だ」
「被害はゼロ」
「数字は改善」
玄十郎は、地面に手を当てる。
表層は、静かだ。
だが――
「下が、空いている」
「空いている?」
「夜刀が、支えていた層だ」
「管理の数字には、出ない」
葛葉は、目を細めた。
「つまり」
「押さえが、消えた」
「今は、まだ何も起きない」
玄十郎は、立ち上がる。
「だが、必ず来る」
「別の形で」
「別の場所から」
葛葉は、少しだけ笑った。
「嫌な役回りじゃのう」
「後始末係だからな」
---
その夜。
朝霧は、一人で報告書を読み返していた。
「……完璧、なのに」
数値は、どこにも問題がない。
理論も、判断も、正しい。
それでも、心が落ち着かない。
夜刀の資料を、もう一度開く。
「直接被害、なし」
「住民とのトラブル、なし」
「……危険度、高」
朝霧は、端末を閉じた。
「正しい判断だった」
「それは、間違いない」
自分に言い聞かせるように、呟く。
だが同時に――
この成功が、「次の何か」を呼び込んでいる。
そんな予感だけが、消えなかった。
数字は、勝利を示している。
だが、勝利とは――
常に、後払いで代価を請求してくる。
それを、まだ誰も知らない。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




