第二十五話 切り捨て
決定は、静かに下された。
会議室の空気は落ち着いている。
誰も声を荒げず、誰も感情を挟まない。
「危険度、再評価」
「管理指数、基準値超過」
「存在そのものが、不安定要因」
朝霧澪は、画面に映る対象を見つめていた。
「……夜刀、ですか」
名を聞いて、環城宗一は頷く。
「都市部に長く留まりすぎた」
「影響範囲が広い」
「管理外要素が多すぎる」
資料には、過去数十年分の記録が並んでいる。
だが、そこに“被害”の項目はなかった。
「直接的被害は、確認されていません」
朝霧は言った。
「住民からの苦情も――」
「今は、な」
環城は遮る。
「だが、将来は分からない」
朝霧は、唇を噛んだ。
「……排除、ですか」
「隔離だ」
「結果は同じです」
環城は、否定しなかった。
「切り捨てだ」
淡々と言った。
会議は、それで終わった。
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夜。
都市の裏手、再開発区域の外れ。
玄十郎は、薄暗い路地に立っていた。
「……やっぱり、あんたか」
影の中から、低い声が返る。
「久しぶりだな、玄十郎」
夜刀。
人の姿を保っているが、その輪郭はどこか曖昧だった。
「管理が始まった」
「嗅いだ」
「切られる順番が、来た」
夜刀は、苦笑する。
「俺は、悪さをしていない」
「知っている」
「人も、守ってきた」
玄十郎は、視線を逸らさなかった。
「だから、今まで残っていた」
「だが、今は違う」
夜刀は、空を見上げる。
「数字に合わない存在は、邪魔だ」
「……ああ」
沈黙が落ちる。
「逃げる気は?」
玄十郎が聞く。
「もう遅い」
「まだ、道はある」
夜刀は、首を振った。
「逃げれば、別の場所に歪みが出る」
「分かってる」
「だから、逃げない」
玄十郎は、拳を握った。
「……昔と同じだな」
「そうか?」
「自分が残れば、周りが助かると思っている」
「違う」
夜刀は、静かに言った。
「俺が消えれば、数字が綺麗になる」
「それだけだ」
遠くで、結界が展開される気配がした。
公式部隊が、動き始めている。
「時間がない」
玄十郎は言う。
「俺が、何とか――」
「無理だ」
夜刀は、はっきりと遮った。
「今回は、制度だ」
「お前が口を出せば」
「もっと多くが切られる」
玄十郎は、歯を食いしばる。
「……すまない」
「謝るな」
夜刀は、笑った。
「お前がここに来た」
「それだけで、十分だ」
結界の光が、路地を照らす。
「玄十郎」
「何だ」
「覚えておけ」
夜刀の声が、少しだけ低くなる。
「俺が消えた後」
「必ず、別の歪みが出る」
「数字には、出ない形でな」
次の瞬間、光が路地を包んだ。
夜刀の気配が、すっと薄れる。
消滅ではない。
だが、人の世からは、完全に切り離された。
静寂。
玄十郎は、一人、路地に立ち尽くす。
「……成功、か」
誰も怪我をしない。
被害も出ない。
数字は、さらに綺麗になる。
だが――
路地の奥で、空気がわずかに揺れた。
夜刀が、長い間支えていた“何か”が、
今、行き場を失った。
切り捨ては、確かに成功だった。
ただしそれは、
次の歪みを生むための成功だった。
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