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追放されたおっさん陰陽師、人間社会では無能、妖怪社会では“本物”として無双する  作者: 遠野ゲン


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第二十三話 例外処理

 玄十郎が呼ばれたのは、三日後だった。


 正式な要請ではない。

 陰陽寮の名も、文書もない。


「……やっぱりな」


 届けられたのは、場所と時刻だけ。

 誰が呼んだのかは、書かれていなかった。


 会合の場は、都市部外縁の簡易詰所。

 仮設の結界が張られ、余計な気配は遮断されている。


 玄十郎が中へ入ると、先客が一人いた。


「久しぶりだな、鷹宮」


 環城宗一だった。


 椅子に腰掛け、資料を整理している。

 立ち上がらない。威圧もしない。

 ただ、そこにいる。


「呼んだ覚えはないが」

「正式には、な」


 環城は、視線を上げた。


「だが、君がここに来ることは想定していた」

「呼ばれなければ動かないと言ったはずだ」

「呼んだ」


 環城は、淡々と言った。


「制度の隙間からな」


 玄十郎は、鼻で笑った。


「回りくどい」

「制度は、回りくどいものだ」


 環城は、資料を一枚差し出す。


「見てほしい」

「都市部の反応推移だ」

「被害は出ていない」


 玄十郎は、目を通し、すぐに返した。


「数字は綺麗だ」

「そうだろう」

「綺麗すぎる」


 環城は、わずかに口角を上げた。


「君らしい」

「で、何を聞きたい」

「意見だ」


 環城は言った。


「この状況に、君ならどう対処する」

「聞くだけか?」

「記録には残さない」

「なら答えよう」


 玄十郎は、少し考えた。


「詰まりを作った奴を探す」

「管理者か?」

「いや」


 玄十郎は首を振る。


「流れを止めている“善意”だ」

「……善意?」


「壊さないために、抑えている」

「被害を出さないために、閉じ込めている」

「結果、歪みが逃げ場を失っている」


 環城は、腕を組んだ。


「だから?」

「だから、近いうちに溢れる」

「溢れれば、被害は跳ね上がる」


 環城は、静かに言った。


「それは、想定内だ」

「例外として処理する」

「被害は最小化できる」


 玄十郎は、環城を見た。


「その例外が、増え続けたら?」

「制度を更新する」

「追いつかない」

「追いつかせる」


 環城は、迷わなかった。


「個人の判断に委ねるより、遥かに安全だ」

「失敗の確率が低い」

「失敗した時の被害も限定できる」


 玄十郎は、しばらく黙っていた。


「……正しいな」

「だろう」

「理論としては」


 環城の眉が、わずかに動く。


「だが」

 玄十郎は続ける。

「そのやり方は、“後”を見ない」

「後?」

「抑え込まれた歪みは、消えない」


 玄十郎は、床を指で軽く叩いた。


「行き場を失ったものは」

「必ず、別の場所から噴き出す」


 環城は、即答しなかった。


「君の言うことは理解できる」

「だが、それは属人的だ」

「再現できない」

「だから、採用できない」


 玄十郎は、立ち上がった。


「俺は、制度を否定しない」

「ほう」

「だが、制度で“全部”を処理できると思うな」


 環城は、玄十郎を見上げる。


「君は、例外だ」

「知っている」

「だからこそ――」


 環城は、はっきりと言った。


「君は、処理対象になる可能性がある」

「そうか」


 玄十郎は、驚かなかった。


「それが、管理の限界だ」

「いや」


 環城は、静かに訂正する。


「管理の必然だ」


 二人の視線が、静かにぶつかる。


「鷹宮」

「何だ」

「私は、君を敵だとは思っていない」

「俺もだ」


 短い沈黙。


「だが」

 環城は続ける。

「世界を守るために、切らねばならないものはある」

「……ああ」


 玄十郎は、扉に手をかける。


「それを、俺が引き受ける」

「引き受ける?」

「後始末だ」


 環城は、何も言わなかった。


 玄十郎は、振り返らずに言う。


「例外処理が増えた時」

「呼ばなくていい」

「勝手に出る」


 扉が閉まる。


 室内には、資料と沈黙だけが残った。


 制度は、正しく動いている。

 誰も、間違っていない。


 だがその日、

 “例外”という言葉が、

 初めて重さを持った。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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