第二十二話 外部の人間
朝霧澪は、資料から目を離さなかった。
机の上には、都市部三箇所の反応推移。
どれも被害は出ていない。
だが、数値は確実に異常域に入っている。
「……説明がつかない」
独り言のように呟く。
彼女は陰陽師ではない。
術も使えなければ、妖怪を祓うこともできない。
その代わり――
数値と記録だけを、徹底的に見る。
「同時発生」
「同程度の反応値」
「因果関係、なし」
あり得ない。
だが、起きている。
「朝霧君」
声をかけられ、顔を上げる。
「環城補佐官がお呼びだ」
「……分かりました」
---
会議室には、既に環城宗一がいた。
落ち着いた佇まい。
年齢相応の疲労はあるが、判断力は鈍っていない。
「状況は?」
「被害はゼロ」
朝霧は即答する。
「ですが、このまま放置すれば、被害は出ます」
「何を根拠に?」
「過去事例との乖離です」
朝霧は、資料を差し出す。
「似た数値変動はあります」
「ですが、その全てに“前兆”があった」
「今回は、それがありません」
環城は、資料に目を通しながら言った。
「つまり」
「管理されている、ということです」
環城は、わずかに眉を動かした。
「妖怪が?」
「いえ。環境が」
朝霧は、言葉を選ぶ。
「誰かが、意図的に抑えている」
「……制御、か」
「はい」
「だが、それができる存在は限られる」
「個人では、ほぼ不可能です」
朝霧は、そこで一度言葉を切った。
「一人だけ、例外を除けば」
「……鷹宮玄十郎、か」
環城は、即座に名を出した。
「彼なら、できる」
「理論上は」
「だが――」
環城は、首を振る。
「彼は、今回呼んでいない」
「承知しています」
「例外を入れない、と決めた」
朝霧は、少しだけ視線を落とした。
「……正しい判断だと思います」
「ほう?」
「制度を構築する以上」
朝霧は続ける。
「再現できない存在は、入れるべきではありません」
環城は、満足そうに頷いた。
「君は、分かっている」
---
同じ頃。
玄十郎は、祠の修繕を終えていた。
「手際がいいのう」
「慣れているだけだ」
葛葉は、少し面白そうに町の方を見る。
「都の空気が、固くなってきた」
「管理が始まったな」
「その顔は……」
葛葉は、玄十郎を見る。
「嫌な予感か」
「違う」
玄十郎は、釘を打ち終え、立ち上がる。
「始まっただけだ」
「何が」
「俺抜きで、正しいことを積み重ねる」
葛葉は、苦笑した。
「それが、一番怖い」
「そうだ」
玄十郎は、空を見上げる。
「呼ばれないうちは、動かない」
「……本当にか?」
「呼ばれない仕事ほど、後始末が重い」
遠くで、風が一瞬だけ乱れた。
被害は、まだ出ていない。
誰も、間違っていない。
朝霧澪は、正しい。
環城宗一も、正しい。
だからこそ。
玄十郎は、小さく息を吐いた。
「……面倒な段階に入ったな」
外部の人間は、
まだ、誰にも必要とされていなかった。
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