第二十一話 国家指定災異
最初の異変は、報告書の片隅だった。
被害なし。
行方不明者なし。
死者も、負傷者もいない。
それでも、記録は“異常”として分類されていた。
『妖怪反応値、急上昇』
『原因不明』
『再現性なし』
それが、三つの都市で、ほぼ同時に起きている。
陰陽寮は、すぐに動いた。
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会議室の空気は、張りつめていた。
「これは局地的な問題ではない」
「反応値の推移が、明らかに連動している」
「自然発生とは考えにくい」
壁に投影された地図。
三つの都市を結ぶ線は、歪んだ三角形を描いていた。
「国家指定災異に分類すべきだな」
誰かがそう言った瞬間、空気が固まる。
国家指定。
それは、陰陽寮だけでなく、行政・軍・官僚組織を巻き込む合図だった。
「対応責任者は?」
「環城だ」
名が出ると、異論はなかった。
「制度設計は、彼の分野だ」
「再現性のある対応が必要になる」
その判断に、誰も反対しなかった。
ただ一つの名を除いて。
「……鷹宮は?」
誰かが、呟くように言った。
数秒の沈黙。
「呼ばない」
「今回は、制度で処理する」
「例外を入れると、全体が乱れる」
決定は、早かった。
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一方、その頃。
玄十郎は、山間の集落で湯を沸かしていた。
小さな祠の修繕を頼まれ、朝から釘を打っている。
妖怪騒ぎでも、戦でもない。
ただの、地味な仕事だ。
「……変だな」
湯気の向こうで、空気が揺れた。
直接の異変ではない。
だが、どこか遠くで“流れ”が詰まっている。
「嫌な詰まり方だ」
玄十郎は、手を止める。
その時、葛葉が姿を現した。
「嗅いだか」
「ああ」
「都市部じゃ」
葛葉は、腕を組む。
「派手な騒ぎにはなっておらん」
「だから厄介だ」
「管理の匂いがする」
玄十郎は、苦笑した。
「呼ばれていないな」
「呼べば楽になるのにのう」
「……だから呼ばれない」
葛葉は、少し真面目な顔になる。
「今回は、国が本気じゃ」
「本気で“管理”する」
「そして――」
言葉を切る。
「壊れるまで、止まらん」
玄十郎は、祠を見下ろした。
小さな歪みは、手で直せる。
だが、大きな仕組みの歪みは、そうはいかない。
「……まだ、死人は出ていない」
「だからこそじゃ」
葛葉は言った。
「数字が出ぬ限り、人は止まらん」
玄十郎は、深く息を吐いた。
「今回の仕事は」
「頼まれていない」
「呼ばれてもいない」
それでも。
「……後始末の匂いがする」
「儂もそう思う」
遠く、都市の方角で、風が変わった。
まだ誰も困っていない。
まだ誰も間違っていない。
それが、一番危険な兆候だった。
第二部は、
静かに――だが確実に、
動き始めていた。
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