第十九話 断る理由
陰陽寮からの返答は、早かった。
正式な復帰要請に対する拒否。
それを受けてなお、話を終わらせるつもりはない――
そんな意思が、文面の端々に滲んでいた。
会う場所は、辺境の町でも陰陽寮でもなかった。
街道沿いの、小さな茶屋。
逃げ場のない、中間地点。
「……ここなら、互いに立場は対等だな」
玄十郎は、向かいに座る男を見た。
陰陽寮副頭――名を出せば、誰もが黙る人物だ。
「対等、とは言い切れんが」
副頭は、苦笑した。
「話はしやすい」
二人の間に、湯気が立ち上る。
「改めて言う」
副頭が切り出す。
「戻ってほしい」
「断った」
「理由を聞いていない」
玄十郎は、しばらく黙っていた。
茶を一口飲み、湯呑みを置く。
「理由は、一つだ」
「ほう」
「俺が戻ると」
玄十郎は言った。
「お前たちは、何も変えない」
副頭の表情が、僅かに硬くなる。
「変えようとしている」
「違う」
玄十郎は、首を振った。
「“俺を入れる”ことで、問題を先送りにする」
「それは――」
「管理だ」
言葉を、はっきりと置く。
「失敗を減らす」
「成果を安定させる」
「責任を分散する」
「……それが、悪いと?」
「悪くはない」
玄十郎は、静かに続ける。
「だが、そのやり方では」
「必ず、“管理できない現実”が残る」
副頭は、黙って聞いている。
「妖怪は、数値に収まらん」
「人もだ」
「例外を切り捨てれば、世界は軽くなる」
「だが」
玄十郎の声が、少しだけ低くなる。
「軽くなった世界は、壊れやすい」
副頭は、視線を逸らした。
「……理想論だ」
「現場論だ」
玄十郎は言い切った。
「俺は、それで一度失敗している」
「土地が死に、人が離れた」
「修復に、十年以上かかった」
沈黙が落ちる。
「俺を入れれば」
玄十郎は続ける。
「確かに、当面は楽になる」
「だが、楽になった分だけ」
「誰も、考えなくなる」
副頭は、深く息を吐いた。
「それでも、今は必要だ」
「分かっている」
玄十郎は、ゆっくりと立ち上がった。
「だから、言っている」
そして、真正面から告げる。
「俺を必要とする時点で」
「お前たちは、もう失敗している」
副頭は、反論できなかった。
「これは、拒否じゃない」
「では?」
「決別だ」
玄十郎は、淡々と言う。
「俺は、外に立つ」
「中で何が起きても、責任は取らん」
「だが――」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「壊れそうな時には」
「壊れきる前に、声をかけろ」
副頭は、苦く笑った。
「都合がいいな」
「お互い様だ」
二人は、それ以上言葉を交わさなかった。
茶屋を出る時、空は夕焼けに染まっていた。
玄十郎は、一人で街道を歩く。
戻らなかった。
勝ったわけでもない。
ただ――
「世界は、まだ間に合う」
そう信じられる距離に、
立つことを選んだだけだ。
それが、鷹宮玄十郎の答えだった。
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