第十七話 警告
その男は、夕方に町へ入ってきた。
旅装は簡素だが、無駄がない。
足運びに迷いがなく、周囲への警戒も怠っていない。
玄十郎は、遠目にその姿を見て、すぐに気づいた。
「……霧島か」
名を呼ばれ、男は足を止める。
「久しぶりです、師匠」
「その呼び方はやめろ」
霧島恒一郎。
かつて玄十郎が教えた陰陽師であり、今は陰陽寮の実務を担う中堅だ。
「命令か?」
「いいえ」
霧島は、首を振った。
「今日は、個人的な用件です」
「珍しいな」
「……だから来ました」
二人は町外れの道を歩く。
人目の少ない場所を、無言で進んだ。
「復帰の説得か」
「違います」
「なら何だ」
霧島は、しばらく黙っていた。
やがて、重い口を開く。
「このままだと、あなたは“危険な存在”になります」
「もうなっているだろう」
「……はい」
霧島は、正直に頷いた。
「制御できない」
「再現性がない」
「だが、結果は出す」
それは、組織が最も嫌う条件だった。
「利用できるうちはいい」
「だが、利用できなくなった瞬間――」
霧島は、言葉を切る。
「排除対象になります」
「忠告か」
「警告です」
玄十郎は、立ち止まった。
「戻れ、とは言わないのか」
「言えません」
「なぜだ」
「戻れば、あなたは壊れます」
霧島は、はっきりと言った。
「組織は、あなたのやり方を許容しません」
「知っている」
「なら、なぜ――」
霧島は、拳を握りしめる。
「なぜ、そんな場所に立ち続けるんですか」
「誰かが立たなければ、歪みは溜まる」
「それは、あなた一人で背負う話じゃない」
玄十郎は、少しだけ考える。
「俺一人で背負うつもりはない」
「……?」
「だから、距離を取っている」
霧島は、理解しかけて、首を振った。
「それでも、敵になります」
「なるだろうな」
玄十郎は、淡々と答えた。
「組織は、例外を嫌う」
「はい」
「だから、俺は外にいる」
霧島は、目を伏せた。
「……あなたは、勝っていません」
「分かっている」
「むしろ――」
霧島は、顔を上げる。
「世界が、負け始めている」
「そうだ」
その言葉に、霧島は苦笑した。
「昔と、同じことを言いますね」
「そうか?」
「ええ。だから――」
霧島は、深く頭を下げた。
「敵になる前に、言っておきたかった」
「何をだ」
「……生き延びてください」
それだけだった。
命令でも、説得でもない。
ただの願い。
「お前もな」
玄十郎は言った。
「中にいる方が、よほど危険だ」
霧島は、何も言わずに背を向ける。
夕暮れの道を、彼は一人で歩いていった。
玄十郎は、その背中を見送る。
敵になる可能性は、確かにある。
だが――
「……まだ、決まったわけじゃない」
世界は、もう少しだけ揺れている。
どちらに倒れるかは、
まだ、誰にも分からなかった。
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