第十五話 使えるなら使う
使者が来たのは、昼過ぎだった。
町に似つかわしくない、整えられた装束。
腰に下げた印章を見れば、陰陽寮の人間だと一目で分かる。
「鷹宮玄十郎殿にお会いしたい」
源蔵が困った顔で、玄十郎の方を見る。
玄十郎は、干していた呪符をそのままに、立ち上がった。
「俺だ」
「失礼する」
使者は形式通りに頭を下げ、巻物を差し出した。
「陰陽寮より、協力要請です」
「復帰の話か?」
「いえ」
即答だった。
「正式な復帰ではありません」
「そうだろうな」
玄十郎は、巻物を受け取らずに言った。
「内容を言え」
「特定案件への限定協力」
「期間未定」
「判断権は、陰陽寮側にあります」
淡々と並べられる条件。
聞いているだけで、胸の奥が冷える。
「報酬は相応に」
「責任は?」
「原則、当方が負います」
玄十郎は、思わず笑った。
「都合のいい話だ」
「必要とされています」
「“使える”と判断された、の間違いだ」
使者は、言葉を詰まらせた。
「……鷹宮殿。感情論ではなく――」
「感情の話はしていない」
玄十郎は、はっきりと言った。
「管理の話だ」
「……」
「俺を組織に戻さず、責任だけ曖昧にする」
「失敗すれば切れる」
「成功すれば、功績はそちらのもの」
使者は、否定しなかった。
否定できなかった。
「返答は、後日でよい」
「いや」
玄十郎は、その場で答えた。
「受けない」
「……即断、ですか」
「条件が、変わらない限りな」
使者は、深く頭を下げ、去っていった。
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その様子を、少し離れた場所から神代が見ていた。
「……やはり、断るんですね」
「分かっていたんだろう」
「はい」
神代は、拳を握る。
「でも……それでも」
「何だ」
「あなたが戻れば、組織は――」
玄十郎は、ゆっくりと神代を見る。
「神代」
「……はい」
「組織は、人一人で変わるものじゃない」
神代は、言葉を失う。
「変わるなら、仕組みからだ」
「……」
「俺が戻る時点で、それは起きていない」
沈黙が落ちる。
「俺を呼ぶ理由が、“困った時の切り札”だからだ」
「それの、何が――」
神代は、言いかけて止まった。
「分かっているはずだ」
玄十郎は言った。
「それが続けば、現場は育たない」
神代は、歯を食いしばった。
「……それでも、俺は」
「お前は、お前の場所でやれ」
玄十郎は、背を向ける。
「俺のやり方は、教科書にならん」
「……はい」
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夜。
葛葉が、屋根の上から声をかける。
「断ったか」
「ああ」
「当然じゃな」
葛葉は、町を見下ろす。
「人の世は、便利なものを囲い込む」
「妖怪も似たようなものだ」
「違う」
葛葉は、静かに言った。
「囲い込んだものが壊れれば、儂らは逃げる」
「人は?」
「壊れるまで、使う」
玄十郎は、苦笑した。
「……だから、距離を取る」
「そうじゃ」
月明かりの下、二人は並んで町を見ていた。
評価はされた。
だが、理解はされていない。
人の世は、変わっていない。
そして玄十郎は、
そのことを、最初から分かっていた。
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