表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたおっさん陰陽師、人間社会では無能、妖怪社会では“本物”として無双する  作者: 遠野ゲン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/37

第一話 時代遅れの陰陽師

※この物語には、派手な成り上がりや万能な英雄は登場しません。

※問題を解決しても、世界は簡単には良くならず、

 正しい判断が、必ずしも誰かを救うとは限りません。


それでも――

壊れきる前に手を入れる者がいなければ、

世界は静かに崩れていきます。


これは、

組織に戻らなかった陰陽師が、

誰にも評価されない「後始末」を続ける話です。

 陰陽寮の会議室は、いつもより静かだった。


 白木の長机を囲むように、幹部陰陽師たちが並んでいる。壁際には若手の術者たちが控え、誰もが前方の図面に視線を注いでいた。宙に浮かぶ術式図――最新式の殲滅結界。その完成予想図が、淡い光を放っている。


「以上が、新型対妖怪制圧術式《八重環封呪》の概要です」


 説明役の若手陰陽師が、誇らしげに言い切った。

 妖怪の発生源を特定し、広域結界で一気に焼き払う。被害の長期化を防ぎ、管理コストも削減できる。数字と効率で塗り固められた、いかにも“今の時代”の術式だった。


「異論は?」


 陰陽寮幹部の一人が問いかける。

 一瞬の沈黙。誰も口を開かない。


 ――やれやれ。


 その沈黙を破ったのは、部屋の端に座っていた男だった。


「ある」


 低く、ぶっきらぼうな声。

 視線が一斉に集まる。


「……鷹宮玄十郎」


 幹部が、苦いものを見るように名前を呼んだ。


 玄十郎は四十を越えた陰陽師だ。白髪交じりの黒髪を後ろで束ね、派手さの欠片もない狩衣を着ている。術具も古く、腰に下げている呪符入れは何度も修繕された跡があった。


「その術式は封印じゃない。ただの殲滅だ」

「結果的に妖怪が消えれば同じでしょう」


 若手の一人が鼻で笑う。


「違う」

 玄十郎は淡々と続けた。

「殲滅は禍根を残す。土地に歪みが残り、次はもっと厄介なものが湧く。これは……地雷を埋める行為だ」


 会議室に、冷たい空気が落ちた。


「感情論だな」

「またその話ですか」

「時代遅れの理屈だ」


 囁き声が、隠そうともせず飛び交う。


 玄十郎は肩をすくめた。

「理屈のつもりはない。経験だ。……妖怪は、数じゃ測れん」


「十分だ」


 陰陽寮幹部の一人が、手を上げた。

「鷹宮玄十郎。お前の意見は記録には残す。だが、採用はしない」


 それで終わりかと思った、その時。


「――なお、お前の今後についてだが」


 嫌な予感がした。

 玄十郎は黙って続きを待つ。


「度重なる規律違反、組織方針への非協力的態度を鑑み、陰陽寮からの除籍を決定した」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 若手たちがざわめく。

 中には、驚きよりも安堵の色を浮かべる者もいた。


「……追放、ですか」


 玄十郎は、ゆっくりと言葉を反芻した。


「そうだ。今日限りで、お前は陰陽寮の人間ではない」


 判決のような声だった。


 玄十郎は立ち上がり、一礼した。

 抗議もしなければ、弁明もしない。


「分かりました」


 それだけ言って、踵を返す。


 背後から、若手の声が聞こえた。

「古い陰陽師がいなくなって、せいせいしますね」

「これで組織も前に進める」


 玄十郎は、振り返らなかった。


 寮舎を出ると、冬の風が頬を打った。

 長年過ごした場所だが、不思議と未練はなかった。


「……面倒な時代になったな」


 空を見上げ、そう呟く。


 効率、数値、管理。

 それで世界が回るなら、妖怪などとっくに消えている。


 だが現実は違う。

 だからこそ――自分のような陰陽師が、まだ必要なはずだった。


 もっとも、人の世がそれを認めないなら、仕方がない。


 玄十郎は荷をまとめ、陰陽寮を後にした。

 行き先は決めていない。ただ、妖怪の匂いが濃い方へ。


 それが、仕事だからだ。


 人の世に居場所がなくなった陰陽師は、まだ知らない。

 この追放が、自分を“本物”として再び表舞台に引き戻すことになるとは。


 その始まりが、今であることを。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


当面の間は、1日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ